2022.12.04
2022.03.13
2024.09.11
深津高子さん
国際モンテッソーリ協会(AMI)公認教師、同協会元理事。教師養成コースの通訳や翻訳、講演などを通してモンテッソーリ教育の普及に関わる他、一般社団法人AMI友の会NIPPON副理事長を務める。また、平和のために世界一周する船旅「ピースボート」で、子どもたちを健やかに育む洋上保育園「子どもの家」のアドバイザーも務める。
地球上の各地で紛争や戦争が続く現代。これからを生きる子どもには、多様な価値観を持つ人々とのコミュニケーション能力が必要だといわれている。では、コミュニケーション能力とは何だろうか。
深津高子さんは、「他人を理解しようとしたり、自己表現をしたりとする能力であり、ジェスチャーや表情など言葉以外の方法でも、相手に伝達できる能力です。
その力は、差別や戦争の予防にもなりえると思います。まずは相手の立場に少しでも身を置こうとする共感能力は、人間らしい力だと言えるのではないでしょうか」と解説する。
日本は島国で直接隣国に接していないせいか、自分と異なる人に異常に驚いたり、遠巻きに見たりする傾向があるかもしれない。だがこれからは未来を見据え、“みんな違って当たり前。一緒に生きていくのが楽しい”という価値観を潜在的に持ち続けられるよう、大人たちの態度も見直さなくてはならない。
では、具体的にはどうしたらいいのか。「基本は、幼い頃から多様な人と接する機会をつくってあげることです」と深津さん。多様とは、なにも性別や国籍の違いだけの話ではない。高齢者や、心身にハンディキャップを持つ人も含まれる。
またその際には、手本となる大人が「異なる人を受け入れる」姿勢を持つことも重要だ。なぜなら赤ちゃんは、「100%平和な存在」で生まれてくるから。
「もしもロシア人とウクライナ人の赤ちゃんを一緒に床に置いたら、何の疑問もなく一緒に遊び始めるはずです。しかし、残念ながら成長とともに大人の言葉や態度を吸収して、人間は赤ちゃんからの引き算でどんどん平和じゃない方向に育っていってしまう。子どもに平和について教えようとする前に、大人自身が持つ偏見や差別意識を見直さなければなりません」。
子どもは大人の行動や態度を真似する。赤ちゃんの時から、呼んでも親に無視されたり、両親のけんかを見続けると、それもそのまま吸収してしまう。
例えばおむつが濡れたり、お腹が空いても放って置かれた赤ちゃんは、多くの場合、もっと激しく泣いても反応が無ければあきらめてしまうかもしれない。
一方、欲求を伝えたとき、常に周りの大人に反応してもらえれば、周りに対する信頼感やコミュニケーションする楽しさを学び、発信力や対話力も育っていくのだという。
まだなん語※で、たとえ親には意味がわからなくても、「こんなことが言いたいの?」などと対応し、身振り手振りを含めて会話をキャッチボールしてくれる相手がいるのも大切だ。
※なん語:2、3ヶ月頃の赤ちゃんの発生練習の音で、「あぶあぶ」などを繰り返す。
さらにその際には、大人の「聴く態度」も重要になる。たとえ相手が赤ちゃんであれ、子どもであれ、大人であれ、まずは「あなたの話を傾聴する気持ちがこちらにありますよ」という姿勢を見せることが、コミュニケーションの第一歩である。
深津さんは、「子どもは、大人が人の話をちゃんと傾聴しているか否かを、小さな時から見て吸収していきます。だからこそ、大人の在り方が大事なんです。まずは親が、子どもに対して傾聴する姿勢を見せることが一番です」と呼びかける。
「傾聴し、さまざまな人と対話できる力を育むことは、ひいては友情、愛、さらに平和へとつながっていきます」と深津さん。次からは発達段階別に、コミュニケーション力を伸ばすために気をつけたいポイントについて紹介する。
平和の大切さは子どもたちにどう伝えればいいのだろうか。「ピースボート」では、船長がウクライナ出身だということから小学生の子どもたちが世界情勢に興味を持ち、自分たちで戦争について調べ始めたという。
そこで、「ピースボート」の共同代表で、広島・長崎の被爆者と世界をめぐるプロジェクトを行う畠山澄子さんにインタビューする機会が設けられた。そのとき畠山さんから子どもたちへ「うどんとカレー、どっちが食べたい?」と質問したそうだ。
そして、口々に答える子どもたちに、「それぞれ別のものを食べてもいい。大切なのは意見が合わなくても“嫌い!”と思う必要はなくて、話し合ってみて、なぜ自分はそう思うのか、細かいところまで伝えること。違ってもいいし、一緒にカレーうどんを食べた方が楽しい場合もあるよね」と話した。そこで共感し合えたら争いは起こらない、とも。
平和というと大げさに構えてしまいがちだが、このように、日常の中で子どもが興味を持ったことから対話をする機会を多くつくることも周りの大人の役割の1つかもしれない。
子どものコミュニケーション能力を伸ばすために、家ではどんなことができるのか。「やるべきこと」「なるべく避けた方がいいこと」について、発達段階別に紹介する。ただし、子どもによって成長スピードは異なるため、どの段階にあたる時期か、よく見極めて取り組もう。
1 無理やり謝らせない
この時期の子どもは、自分自身を育てることに一生懸命な時期。自己中心的で当たり前なので、おもちゃを貸せないときもよくある。親が無理やりおもちゃを譲らせたり、謝らせても、本人はまだよく理解できないことが多い。
4歳くらいになると共感する力が育つため、それまでは大人同士がきちんと謝っている姿を見せておくと、自然に学習して、共感する能力と共に自ら「ごめんね」と自分から言える子どもに育っていくだろう。
2 時間は視覚的に示そう
料理や家事の合間に子どもに「見て見て!」などと呼ばれたときに、「ちょっと待って」「あとで」などと返事をすることが多いかも知れない。だが子どもにとって「あとで」はとても抽象的で、わかりにくい。
そんなとき「このキッチンタイマーのベルが鳴ったらお話聞くね」など、具体的に、また視覚的に時間をわかりやすく示してあげよう。きょうだいが多い場合は、1人ずつ音の異なるキッチンタイマーを用意するのもおすすめだ。
3 代弁しすぎない
「◯◯ちゃんは◯◯と言ってるよ」「◯◯くんはリンゴジュースがいいんだって」などと、親やきょうだいが本人の言いたいことをつい代弁してしまっていないだろうか。もう話す力があるのに、周りが代弁しすぎると、子ども自身が話すチャンスを奪ってしまうことになるかも知れない。
こんなときは、「◯◯ちゃんはどう思う?」などと質問し、なるべく自分で欲しい物や意見を語らせる機会を与えるように意識しよう。
4 複数の選択肢から選ばせる
すべて大人が決めてしまうのではなく「シャツは赤と青どちらを着たい?」「パンとごはん、どっちがいい?」など、2つ3つの選択肢を示して、子どもが自分で選ぶチャンスを与えよう。
幼い頃から自分で選択をする機会を持つことで、自分で考え、結論を出す習慣も身についていく。将来的にクラブ活動や進路を選ぶ力や、会議などで発言したり、代案を示せる力も養われていく。
5 “コンセンサス”を得る習慣を
4歳くらいの幼児期の後半になって、他の人が遊んでいるおもちゃを触りたがったり、人のかばんのなかを見たがったりしたときは、その持ち主に対して、「これ触ってもいい?」「見てもいい?」とまずコンセンサス(合意)を取る習慣をつけてあげよう。
それは、相手を尊重するということにつながる。そうするだけで、子ども同士の“小さな争い”がかなり減り、穏やかで調和のとれたコミュニケーション方法を学ぶことができる。
1 高齢者と触れ合う機会を持つ
子どもにとって、身体能力や人生経験、価値観がまったく異なる高齢者は身近な他者。子どもの頃から「高齢者が近くにいる」のが当たり前の環境があると、人の多様性を感じることができる。
祖父母に会いに行くのはもちろん、近所に住んでいるおじいちゃん・おばあちゃんと挨拶したり、交流する機会をつくろう。なんらかの手仕事をしていたら、その作業を見に行ったり、教えてもらうのもよい経験となる。
2 地域の行事やお祭りに積極的に参加する
さまざまな職業の人と出会うのもおすすめ。町内会などが主催する地域の行事やお祭りがあれば積極的に参加して、幅広い世代とコミュニケーションをとる機会を持とう。特にお祭りは伝統的な行事のため、昔ながらの考え方や習慣が残っていることもある。自分が住む地域の歴史や伝統に興味を持つきっかけにもなる。
3 調べる入り口まで連れて行く
子どもの興味が赴く先の内容や質問について、両親が全部答えを知っている必要はない。パパ、ママが質問されても答えられないジャンルであれば、逆にチャンス到来だ。
一緒に図書館に行って「あそこの棚は昆虫のコーナーだよ」「一日5冊まで、本を借りられるよ」と伝えるなど、答えを提示するのではなく、自分で調べられる環境までエスコートしてあげよう。いつまでも親が調べて答えだけを教えていると、子どもは自分で調べる力を養えなくなるので要注意。
4 外国語を学ぶ前に動機を作る
もし外国語を学んでほしいなら、学習の前に「海外のお友達とコミュニケーションしたい」という動機があることが一番だ。
まず、それぞれの地域ではその地域の母語があることを伝えよう。そして、海外で現地の子どもと出会ったり、海外から日本に来た子どもと触れ合う機会を持つことがおすすめ。身振り手振りや表情だけでも仲良くなることはできる。
それから、「◯◯ちゃんと同じ言葉で話したい」「◯◯ちゃんの国の文化や、好きなことをもっと知りたい」などの具体的な目標ができると、学びたい意欲は一気に加速するはずだ。
1 疑問を持ったらインタビューしに行く
年中・年長期と同様、地域の祭りや行事などには積極的に参加しよう。そこで、現代とは異なる風習に疑問を持ったときは、「今なぜそうなっているのか」の答えを知る、責任者や専門家にインタビューする機会を作ってあげよう。「昔は女性が家事・育児をし、男性が村を守る役割を担っていた」など、理由がわかれば、多様な人の考えを理解することにつながる。
さらに、「恐竜はなぜ絶滅したの?」など学術的な疑問の場合は、研究者や博物館学芸員にインタビューしてもいい。そのときは、アポをとるところから子どもにチャレンジさせてみよう。
2 調べる方法のヒントをあげよう
このぐらいの年齢になると、「どうして戦争は起こるの?」など、社会や世界に関わる内容を質問してくることもある。ママ・パパは、年中・年長期と同様、その答えをただ教えるのではなく、自分で調べられる環境を与えてあげることを意識しよう。
一緒に図書館に出かけて「1時間後に集合ね」と自由を与えたり、「インターネットで調べてみたら?」と検索方法を教えるなど、自分で調べる方法のヒントをあげよう。
3 子ども自身の気持ちを聞いて受け止めよう
小学生になると、「クラスの友達と喧嘩した」「仲間はずれにされた」などの悩みを言ってくる子どもも多くなる。そうしてパパ・ママの元にやってきたときには、「あなたはどう思っている?」と、まずは気持ちを聞いて受け止めてあげることが大切だ。
叱咤や注意ばかりではなく子どもの話に耳を傾け、気持ちにしっかり寄り添うことが、家族への信頼感や安心感につながる。ひいては家庭内での対話の向上にもつながっていく。
4 悩みを話してくれたら感謝しよう
学年が上がるにつれて、子どもの世界の中心は家族ではなく友達になっていく。パパ・ママはそれを大前提として意識しておこう。親に秘密を持ったり、家族でのお出かけより友達との約束を優先するのも当たり前のこと。
また、もしそんな年齢にも関わらず悩みを相談してきてくれた場合は、パパ・ママを深く信頼している証拠。まずは「話してくれてありがとう」と悩みを言ってきてくれたことに感謝して、彼・彼女の気持ちをしっかりと聞いてあげよう。
ここでは、年齢を問わず、親子の間でのコミュニケーションで心がけたいことを紹介する。基本的な内容だが、これを続けるだけで将来の子どものコミュニケーション能力は上達するはず。簡単なことばかりなので、ぜひ今日から取り組んでみては。
子どもが何かを伝えようとするとき、子どもの方に身体の向きを変える、携帯電話から目を離して子どもの目を見る、子どもの背の高さにしゃがんで話を聞くなど、ジェスチャーで傾聴の姿勢を示そう。
すると子どもは「聞いてもらっている」と理解して、より一生懸命説明しようという気持ちになる。「早く言って。時間がないんだから」は、子どももその態度を身に付けてゆくので注意しよう。時間がないときは、いつなら話を聞けるか時計などを使ってわかりやすく伝えよう。
健全なコミュニケーション能力を育むためには、家庭でしっかり話し合いの場を持つのが一番だ。ただし、子どもが大きくなると家族に何でも話してはくれなくなるもの。
そこでおすすめなのが、家族で日常的にその日あったことを報告し合うだんらんの場を持つこと。そこではパパ・ママが率先して悩みを相談してもいい。そうすることで子どもも「ここは大人も困っていることを言っていい場所なんだ」と感じて話しやすくなる。
女の子のランドセルは赤やピンク、男の子は泣いてはいけないなど、古くからのステレオタイプの価値観をパパ・ママが引きずっていないだろうか。その価値観は自然に発言に出てしまうもの。そしてそれを子どもは当たり前の考えだと自然に身につけてしまう。ぜひパパ・ママでお互いに注意してチェックし合おう。
「走るな!」「騒ぐな!」などの「してはいけない」ことを命令口調で言うのではなく、「ここは歩くよ」「ここで静かにできるかな?」など、具体的で提案型の声がけを意識しよう。
また、例えば挨拶ができなかった子どもには、「あれ? 挨拶したんだけど聞こえなかったかな?」などと、ユーモアのセンスを含めたリ、相手が追い詰められずに行動を修正できるような声がけを常に心がけよう。
子どもへの暴力や無視、ネグレクトは、コミュニケーション能力を育む上で絶対にしてはいけないこと。親からの愛情を得られず、愛着関係を誰とも築けなかった子どもは、小さいときに得られなかった愛情を一生かけて探すことになり、本来、自分の人生を構築するために使うエネルギーをそこに多く使ってしまう。
どんな平和学習をするよりも、子どもを小さい頃からあるがままに受け入れ、尊重することが、平和への第一歩だと知ろう。
文:笹間 聖子
FQ Kids VOL.17(2024年冬号)より転載
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