2020.09.25
2022.01.13
2024.09.11
佐藤 愛さん
ピースボート子どもの家プログラムコーディネーター、国際モンテッソーリ協会(AMI)公認教師。約3ヶ月かけて地球一周する船旅に同行し、「ピースボート子どもの家」で子どもたちと過ごし、寄港地ではツアーの引率も兼任している。また、一般社団法人あきる野モンテッソーリトレーニングコースの理事も務める。
ピースボートとは、「旅が平和をつくり、平和が旅を可能にする」を理念に、1983年に好奇心と行動力にあふれた大学生が立ち上げた国際交流NGOだ。
ピースボート「地球一周の船旅」は、1回の航海で約3ヶ月かけて世界約20ヶ国を訪れ、寄港地では現地の人々や暮らしを知るためのさまざまなツアーに参加することができる。
近年、この旅に子どもと参加する家族が増え、子どもたちの居場所づくりをきっかけに生まれた洋上保育園が「ピースボート子どもの家」だ。
©渋谷岳史
子どもたちの自主性を育む「モンテッソーリ教育」を実践しており、1人ひとりの発達を見極めて、「自分でできた」という経験を積めるよう工夫された環境で、好奇心、学ぶ力と表現力を育んでいる。
旅をともにする佐藤さんによると、「子どもにとっても一生に一度のかけがえのない船旅体験になること」を大切にしているそう。受け入れている2~6歳の子どもの人数は、乗客約1800人に対してわずか10~20人程度だ。だからこそ、子どもが安全に楽しく過ごせる居場所をつくっている。
また、船の中はグローバルな空間で、乗客もクルーも国籍はさまざま。子どもたちもそんな周囲の人と助け合い、触れ合う中で、自然に「みんな違ってみんないい」価値観を実感していく。
寄港地では、家族でツアーに参加し、現地の子どもたちと触れ合う機会も。
「子どもには、“言葉が通じないと仲良くなれない”なんていう固定概念がないので、あっという間に身振り手振りで仲良くなります。世界各地に友達ができて、それをきっかけに世界情勢に興味を持ったり、自然災害から気候変動などの課題に気づく子もいます」と佐藤さん。
もちろん大人も旅中にさまざまな気づきがあり、親も子どもも、旅の前後で変化が訪れる貴重な体験ができる。
ピースボートの旅やさまざまな国の人との交流を通じて、子どもたちにはどんな変化が訪れるのか。佐藤さんに、船旅に参加した子どもたちの体験談を教えてもらった。
船のクルーのほとんどは外国籍のため、船内生活の日常会話から言語に興味を持つようになる子も多い。どの子もあっという間にクルーが何語を話すかを覚え、英語、中国語、韓国語、スペイン語、インドネシア語を使い分けて挨拶するようになった。
船内には独自の放送局があり、そこで「お天気お姉さん」をしたいと自分で立候補した5歳の女の子は、「将来ニュースキャスターになりたい」という夢が見つかった。自分の出演シーンを見て滑舌が気になり、撮りなおしたいと自ら撮影スタッフに申し出たのだとか。
2歳の女の子が、見渡す限りに広がった水平線から朝日が昇り、夕方海に沈んでいくのを見て、「太陽がいなくなったら夜」という概念を覚えた。「太陽が昇ったら朝がきて、海に沈んだら夜になって寝るんだね」という言葉にお母さんは感動したそうだ。
身近なクルーの出身地と言葉に興味を持ったことから、自らたくさんのクルーにインタビューした小学生も。名前と出身地、使っている言葉を聞いて、一覧リストを作成した。またその際、「バ」と「ヴァ」の違いなど、表記にはかなりこだわったそうだ。
船内にはさまざまなカルチャースクールがある。6歳の男の子は、おじいちゃんおばあちゃんにつきあって、社交ダンスのレッスン会場でお絵描きをしていた。でも、途中でダンスに興味を持ち、レッスンに参加するように。最終発表会では見事なダンスを披露した。
お父さんと乗船した4歳の男の子は、旅を終えてから大きな変化が。寄港したグアテマラで、裸足の子どもたちとサッカーを楽しんだ経験から、小さくなった自分の靴を、弟ではなく「グアテマラの友だちに贈りたい」とお母さんに申し出た。
船は飛行機とは違い、ゆっくりと旅先へ移動していくもの。景色や気候が少しずつ変化する中で、文化や生活習慣の移り変わりを学ぶことができる。子どもたちは手でカレーを食べることなども違和感なく受け入れることができるそうだ。
5歳と8歳のきょうだいは釣りが大好き! 各寄港地で、自ら船のクルーや現地の人に釣りができるポイントを確認して釣りをした。また、釣れた魚を図鑑で調べたり、自分で図鑑を作ったりも。さらに、寒冷地で暖かい地域の魚が釣れたことで、気候変動にも興味を持った。
6歳の男の子は、寄港したギリシャでツアーに参加。現地の子どもとパンを作り大親友になる。言葉はまったく通じない2人だったが、身振り手振りで仲良くなったそうだ。別れのギリギリまで手をつなぎ、「絶対に手紙書くね」と伝え、何度もハグをして船に戻った。
FQ Kids VOL.17(2024年冬号)より転載
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