子どもが納得して自分ごとにできる! 尊重し合える関係を築く「多様性教育」のコツ

子どもが納得して自分ごとにできる! 尊重し合える関係を築く「多様性教育」のコツ
教員や教師として小中高生の子どもたちと長年関わり、現在では「親子関係構築専門家」として活動する鶴岡そらやすさんの、「ごきげんおやこの視点づくり」をテーマにした新連載。第1回は「違いを受け入れるという自由」。

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今年も引き続きコラムを掲載させていただけることになりました。コラムを読んでくださるだけでもありがたいことなのに、その上さらに「感想を書く」というひと手間をかけてくださった読者の皆様がいるおかげです。これからも、子育てを楽しむきっかけとなるようなコラムを書いていきますので、気付いたことなど読者アンケートにお寄せいただけますと嬉しいです。

 

目玉焼きに何をかける?

これを読んでいるあなたは、目玉焼きに何をかけるだろうか。しょうゆ・塩こしょう・ソース・ケチャップ・マヨネーズ……。私はしょうゆ派だが、最近塩こしょうも好きになってきた。ネットで検索するとさまざまな媒体で「目玉焼きにかける調味料」の調査が行われている。どの調査を見ても、最も多いのは「しょうゆ派」のようである。

いきなり何の話だろうと思われるかもしれないが、最後まで読めばわかるのでお付き合いいただきたい。

【参考イメージ】目玉焼きにかけるもの

※複数の中学校での講演で、質問に対して挙手した数を見てイメージで作った参考例です

さて、FQ Kids VOL.17の全体テーマは「多様性」である。みなさんは「多様性を認める」と聞いて、何をイメージするだろう。LGBTQ、障害の有無、国籍の違いなど、マジョリティーがマイノリティーに配慮する、というイメージを持つ方もいるのではないだろうか。

私はトランスジェンダーというアイデンティティを持っているので、各地の中学校から「多様性教育」をテーマとした講演や研修の依頼を受ける。

私がトランスジェンダーであるという前提があるから、当然打ち合わせの際、最初に言われるのは「LGBTQの子に対して周りがどうしたらいいか」という話をしてもらいたい、ということになる。

しかし、打ち合わせを進めていくと、先生たちが求めているのは、子どもたちに「お互いを尊重し合う人間関係やコミュニケーションを取れるようになってほしい」ということだとわかる。

おそらく、最初に提示された通りのテーマでLGBTQについて話をしても、子どもたちが「多様性」について自分ごとにすることは難しい。ほとんどの生徒にとっては、まだまだ人ごとな話として終わってしまうからだ。

そこで提案するのは「LGBTQ」について触れつつも、メインの話はそもそも「多様性」というのが何なのか、ということを伝える内容にしましょう、ということだ。

結果として、講演後の生徒の感想には「LGBTQのことがよくわかりました」ではなく「多様性って意外と身近なことなんだとわかった」「自分の普通がみんなの普通ではないと思った」「違いを認め合うことで、自分を自由にできるんだと思った」というものが多くなる。

その講演会の導入で話すのが、最初に書いた「目玉焼き」の話だ。生徒たちも初めは「何の話だ?」と不思議そうな顔をして聞いているが、挙手を促すとやはり「しょうゆ派」が多く、塩こしょう、ソース、ケチャップ……と、どんどん減っていく。中には「何もかけない」という素材の味を楽しむ派の生徒もいる。

自分のうちでは当たり前にしょうゆだったけど、ドレッシングや焼肉のたれをかける家がある、と聞いて「えー!」と驚く生徒もいる。

そこで続けて質問する。

「この結果がデータとしてグラフ化されて、しょうゆ派が半数以上を占めていることがわかったとする。もし、家庭科のテストで、目玉焼きにかける調味料はどれが正しいでしょう、という問題が出たら、みんなは何と答える?」

ここで読者の皆さんにも想像していただきたい。もし、皆さんがこう質問をされたら、何と答えるだろう。さらに、中学生は何と答えるだろうか。

この質問を生徒たちにすると「しょうゆ!」と答える生徒はほとんどいない。「そんな問題出ないでしょ」と笑う子もいる。どの学校でも「そんなの決められない」「人による」が圧倒的に多い。

そうなのだ。もしこの問題が出たら、それは先生からのサービス問題だ。どれが正しい? と言われても人によって違うのだから。

そこで「もし、しょうゆ派の友達が、塩こしょうをかけるなんておかしい! そんな奴とは友達ではいられない! とか、ソース? 気持ち悪い、近寄るな! とか言っていたらどう思う?」と聞いてみる。

すると「ひどすぎる!」「そっちの方がおかしい!」「いいじゃん何かけても!」「そんなこと言う人いないでしょ?」と口々に声が上がる。

多様性を認めることは、
自分を自由にすること

自分はしょうゆ派だからしょうゆをかける。けれど、友達はソース派だからソースをかける。それを否定も禁止もしない。好きにすればいいじゃないか。これが「多様性を認める」だ

友達がソースをかけることを認める(否定しない)からといって、しょうゆ派の自分も、ソースをかけなければならないわけではない。それぞれ好きなものをかけたらいいじゃないか。ただそれだけのことだ。どれが正しい、どれが正しくない、そんなことではない。

ここまで聞くと子どもたちは「なるほど」という顔をする。なんだ、多様性を認めるって、すでにやっている当たり前の話じゃないか、と。

自分とは違う「何か特別なもの」に対して、多様性を認める側と、認められる側に分けて話すよりも、身近な例から伝えた方が子どもたちの理解は早い。

拙著『きみは世界でただひとり おやこで話す初めてのLGBTs』(日本能率協会マネジメントセンター)でも、身近な例をもとに、多様性について「おやこ」で話ができるような構成で書いている。

多様性の基本が理解できたところで「多様性を認めることは、相手を自由にすることではなく、自分を自由にすることだよ」という話をする。自分がしょうゆ派だとしても、ソースをかける選択をする人を認めることができれば、しょうゆがない時には自分もソースをかけるという選択ができる。

しかし、しょうゆ以外を否定・禁止している人は、しょうゆがなかったとしても、それ以外を選べなくなる。自分と違う価値観、選択を否定・禁止することで相手を制限しているつもりが、実は自分の選択を減らし、不自由な人になっているのだ。

自分と違う価値観、立場の人を尊重することができれば、自分の選択肢が増える。自分が自由に生きられるようになる。多様性を認めるというのは、他の人のため以上に、自分を自由にするために大切なことなのだ。

ここで、ご自分の家族を振り返っていただきたい。互いの立場や価値観を尊重し合うことができているだろうか。親子、兄弟姉妹、それぞれにそれぞれの立場、役割がある。その役割に縛られすぎてはいないだろうか。

相手の立場や価値観を尊重し、それぞれが選択の自由を持つことができているだろうか。親の言葉は、子どもの価値観形成に影響を与える。子どもに不自由になる価値観を与えていないだろうか。そしてそれは、自分を不自由にしている価値観ではないだろうか。

子どもと一緒に考えてみてほしい。子どもの方が自由な思考を持っている。

どこまでを認めて、どこからが認められないことなのかを、改めて考えてみることと併せて、自由と自分勝手の違いについても考えたいところだが、今回は文字数が足りないので、またの機会に。アンケートから今回の感想をお寄せいただけると嬉しい。

PROFILE

鶴岡そらやす
大学を卒業後、小中学校合わせて15年の教員生活の中で2000人以上の子どもたちと関わり、2014年、一念発起して退職し学習塾を開講。小、中、高校生の子どもたち、保護者へのコーチングにて問題発掘と課題解決を行う専門家として実績多数。大学生のキャリア支援メンター、高卒人財の就職支援、企業の新入社員研修などにも関わっている。2020年には親子で考える多様性についての書籍を出版。学校、教育委員会や、市民の集いなどで、生徒、教員、保護者への講演会を開催。小学校から社会人として自立するまでの発達段階を踏まえた、長期的視点からの子育てのポイントを伝えている。
●Amebaブログ オフィシャルブロガー:ameblo.jp/soranyasu
●インスタグラムでは思春期の子どもとの関係づくりのコツを発信中! @sorayasunavi

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FQ Kids VOL.17(2024年冬号)より転載

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