子供の「生きづらさ」は親の考え方が原因!? “もう1つの性教育”から学ぶべきこと

子供の「生きづらさ」は親の考え方が原因!? “もう1つの性教育”から学ぶべきこと
性教育は幼児期から必要だという意識が高まる一方で、子供にどう教えていいかわからないという大人は多い。教育者・鶴岡そらやすさんが語る「性教育の2つの側面」と「親として伝えるべきこと」とは?

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子供の心と体を守るために
親にも正しい知識が必要

ここ数年で「子供の頃からの性教育は大切である」という意識が高まってきている。男の子、女の子の体の発達、成長について正しく知ることはとても大切だ。男女の体が違う構造を持っていることを知っておくことで、異性に対する思いやりが生まれ、自分の体と同じように大切にできるようになる。

これだけ情報入手手段が増え、子供たちが欲しい情報に自由にアクセスできるようになった今、知らないうちに性器や生殖、命がどうやって誕生するのかなど、歪められ脚色された情報源から間違った知識を入手する前(できれば子供たちが性に興味を持ち始め、さらに行動や交友関係に親の目が届きにくくなる小学校高学年頃まで)に、学校や家庭で正しく性教育を行うことが求められている。

しかし、今の親世代のほとんどは子供の頃、まともに性教育を受けずに育ってきた。だから子供にどう教えていいのか分からない人も多い。幸い、今は書籍やセミナーなどで、性教育について学ぶことができるようになった。不安な方は学んでみてはいかがだろうか。私自身、子供たちの心と体を守るためにも性教育は重要だと考え、セミナーに参加したり書籍を読んで学んでいる。

ところで「性教育」と言われると「生物学的な性(セックス)について学ぶもの」とイメージする人の方が多いのではないだろうか。しかし「性教育」とはそれだけではない。「社会的、文化的に作られる性別(ジェンダー)」についても、同じように伝えていく必要がある。

しかし、これまた大半の大人は「ジェンダー」について学んだことも考えたこともないので、どうしたらいいのか分からず困っていることだろう。さらに、ジェンダーは体の性に比べ、目に見えるものではないから難しい。

私は、ジェンダーについて、家庭で専門的な知識を教える必要はないと思っている。それより、自分が子供に伝えているジェンダーについての思い込み(ジェンダーバイアス)は本当なのか? と考えることから始めていく方が大切だと思う。

例えば次のような
事例で考えてみよう

Aさんの家には小学生の子供が2人いる。上の子は5年生。5歳の頃、公園で見つけたダンゴムシに興味を持ち、それ以来、ダンゴムシやカブトムシ、蝶、カマキリなど、さまざまな虫を飼育している。昆虫図鑑を買ってあげたところ、他の本には見向きもしなかったのに、暇さえあれば図鑑を眺めるようになった。

興味のあるものにとことん熱中する分、他のことには全くと言っていいほど無頓着で、机の上はいつも散らかっているし、シャツの裾が出ていても寝癖頭でも気にしない。

学校の上履きを全く持って帰ってこないので、上履き袋を渡して、持って帰ってくるようきつく伝えたところ、真っ黒に汚れた上履きをランドセルに直に突っ込んで持って帰ってきた。「上履き袋は?」と聞くと「なくしちゃった!」と笑っている。傘も何本なくしたことか……。

一方、3年生の下の子は、小さい頃からきっちりした性格で、ほとんど手がかからない。お手伝いも良くやってくれるし、机の上は整理整頓されている。畳んだ洗濯物は言われなくても自分の衣装ケースに種類ごとにしまって、次の日に着るものも自分で準備してから寝る。登校前は、鏡で寝癖がないかをチェックする。

上履きは毎週持って帰ってきて、自分で洗っているし、1年生の頃に買ったお気に入りの傘もいまだに大切に使っている。絵本や物語が好きで、書店にいくと喜んで本を選んでいる。キラキラするものも好きで、最近はレジン作りに興味を持ち始めた。コツコツとアクセサリーを作っては「これ、お母さんにあげる!」と持ってきてくれる。

Aさんは2人を見ながら、比べちゃいけないとは分かっているものの「同じように育てているつもりなのに、なんで姉と弟でこうも性格が違うんだろう」とついつい思ってしまうのだった。

ジェンダーバイアスによる
「決めつけ」が生み出すもの

この話は、私がこれまでに相談されてきた事例をいくつかまとめて書いたものだ。読んでいただいて、何を感じただろうか。何の違和感もなく読めただろうか。「兄と妹じゃなかったんだ」と感じた方もいるかもしれない。(それを狙って書いたのだが)。

親が子供の行動に対して不安を感じる根っこに「女の子なのに」「男の子なのに」が影響していることがある。上履きをランドセルにそのまま突っ込んで帰ってくるのが男の子の場合「男の子ってそんなもんだよね!」で笑って終わりにできるのに、女の子だと心配になる。

キラキラビーズを女の子が買っても周りには何も言われないのに、男の子が買うと「大丈夫?」と言われたりするので、不安になる。(自分は違和感がなかったのに、周りから言われて不安になることもある)。

もし、あなたの子供が上履きを直にランドセルに入れて帰ってきた時、それが娘と息子で違う印象になるのであれば、それがあなたの「ジェンダーバイアス(性差の固定概念)」のひとつである。

ジェンダー教育では、まずは自分の中にある性差に対するジェンダーバイアスに気づくことがスタートラインになる。自分のバイアスに気づいた上で、改めて自分はどうしたいのかを考えてみるといい。

キラキラするビーズや昆虫図鑑を「どっちが男の子のもので、どっちが女の子のもの」と決める必要があるだろうか? と考えてみる。なぜ自分は子供の行動を「性別」に紐づけて考えるのだろうか、と自分に問いかけてみる。

生きにくさにつながるようなジェンダーバイアスはなくしてもいいのではないかと改めて考えてみると、今まで当たり前だと思って見てきたものが、違って見えてくるはずだ。

大人の発する一言が
子供の未来に影響を与える

「男の子だから」「女の子だから」は、時にわかりやすく納得感がある魔法の言葉のように使われる。この言葉を使うことで「それ以上考えなくてもいい」とお墨付きをもらった気になる、そんな言葉でもある。

自分の感情をうまく説明できずイライラして手が出てしまう息子に対して、自分の言葉で説明するまで待つ代わりに「男の子だから自分の気持ちをうまく言葉にできなくても仕方ない」と考える。そして「今はこんな気持ちだったんだよね、だからイライラしちゃったんだよね」と代わりに気持ちを言語化してはいないだろうか。

そう考えた方が待つ時間が短縮されるし、悩まなくていいというメリットもある。ただ、これを繰り返していくと、子供が自分の感情を言語化するチャンスを奪うことにもなる。「男の子は言わなくても分かってもらえるものなのだ」と学習してしまうことにつながる。

娘が下の弟妹を世話する姿を見て「やっぱり女の子は小さい子の面倒見がいいよねえ」と伝えていないだろうか。女の子なら誰でも小さい子が好きで面倒見がいいとは限らないし、男の子だって、小さい子が好きで面倒見がいい子はたくさんいる。女の子特有の行動と伝えてしまうことによる弊害はないだろうか。

「男らしさ・女らしさ」という
固定観念が不自由さを生む

もし、今まで考えたこともないのなら、一度でいいからじっくりと考えてみることをお薦めする。意識せず当たり前と思い込んでいることが、子供の選択肢を狭くし、生きにくさを生み出す障壁になるのか、それとも可能性を広げ、人生を豊かにする力になるのか。

「男の子だから」「女の子だから」をつけるメリットとデメリットは何か。さらにできることなら、子供に何か価値観を伝えるとき、「男らしさ・女らしさ」ではなく「たくましさ、しとやかさ」のように、他の言葉で言い換えることができないのかを時々でいいから考えてみていただきたい。

生物学的な性と、社会的・文化的に作られる性差。子供たちには両側面から「性教育」を伝えていきたい。体のことを知り、命の誕生について伝え、男の子・女の子、体の作りや機能の違い、自分と違う相手を尊重する気持ち、命の尊さを教える。

そして同時に、好きになること、興味を持つもの、強さや優しさ、感情表現や愛情などに、男だから・女だからという違いや優劣はなく、あなたの可能性が、男だから・女だからで決められ、制限されるものではないんだよ、と伝える。

家庭でそう伝えたとしても、社会はまだまだ「男らしさ・女らしさ」によって回っているので、きっとどこかで子供たちは自分を不自由にする固定概念と出会うことになる。その時こそ親の出番だ。子供が、自分を不自由にする固定概念に囚われないよう、共に考えていける柔軟性を持った親として、そばにいてあげてほしいと願う。

性差で分けて考える必要があることと、性差にとらわれる必要がないこと。違いを大切にしながら、縛られないこと。これもまたSOGIで考える世界へとつながっている。

PROFILE

鶴岡そらやす
合同会社Be Brave代表。幼少期を父子家庭で育つ。公立小・中学校で教員として15年勤務し退職。授業をしない自立型学習塾を経営。生徒自身に気づきを促すコーチング力で、主体的に学ぶ姿勢を持った子供たちを育成。2018年、自身がトランスジェンダーであることを公表。企業向け講演や研修、LGBTや不登校などの保護者向けセミナーを行う。著書に「きみは世界でただひとり おやこで話すはじめてのLGBTs」(日本能率協会マネジメントセンター)がある。

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FQKids VOL.11(2022年夏号)より転載

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