2020.02.20
2024.07.17
2024.09.18
福田和子さん
スウェーデン・ヨーテボリ大学公衆衛生学修士号取得後、SRHR(性と生殖に関する健康と権利)を守る社会を目指す「#なんでないの プロジェクト」代表として活動。包括的性教育やさまざまな避妊法の選択肢改善に取り組む。「国際セクシュアリティ教育ガイダンス」(明石書店)共同翻訳者。
生殖や身体の仕組みだけでなく、ジェンダー平等、人間関係、人権など8つのキーコンセプトを基に広いテーマを体系的に学び、ウェルビーイングの実現を目的とする性教育。ユネスコが定める「国際セクシュアリティ教育ガイダンス」が、包括的性教育を学ぶ上での国際的な指針となっている。
性(セクシュアリティ)は、人間の一生と切り離せない存在で、生きる上で多くの場面で影響することから、総合的に学ぶことを重要視している。
➀人間関係
➁価値観、人権、文化、セクシュアリティ
➂ジェンダーの理解
➃暴力と安全確保
➄健康とウェルビーイング(幸福)のためのスキル
➅人間の身体と発達
➆セクシュアリティと性的行動
➇性と生殖に関する健康
↓
これらのキーコンセプトを4つの年齢段階(5~8歳、9~12歳、12~15歳、15~18歳以上)ごとに繰り返し扱い、少しずつ理解やスキルを深めていく。
● 科学的根拠に基づいていること
● 子どもの年齢・成長に則して進めること
● 包括的であること
● カリキュラムに基づいたものであること
● 早すぎる性交渉を防ぐ
● 避妊具の使用が増える
● リスクの高い行為が減る
という研究結果も!※
※出典『国際セクシュアリティ教育ガイダンス改訂版(2016)』より
おさえておきたい
包括的性教育キーワード
包括的性教育は、自分と他者を尊重する「人権教育」ともいわれている。性や生殖に関して、誰もが「自分を大切にする権利」があるということを、5歳から体系的に学んでいくことが重視されている。
「してはいけないこと」ばかりを学ぶのではなく、「自分の身体をどうするのかは自分で決める権利がある」ということを、小さい頃から学んでいくことが必要だ。
身体の権利
家庭で性教育をする際は「誰にでも自分の身体や気持ちを尊重される権利がある」ことを、幼児期から思春期まで繰り返し伝えよう。1つ覚えたいのが「バウンダリー」という概念で、自分と他者の間に「YES」「NO」の境界線を引くことを指す。その線引きは自分自身の意思によるものであることが重要で、人や状況、気分によって異なってもいい。
そして、他者にも同じように境界線があることを尊重できるようになることがとても大切だ。これは性的同意を必要とする場面で判断の軸になるだけでなく、自分の求める幸せな対人関係を築く基盤にもなる。
セクシュアリティの多様性
性のあり方はとても多様で、人の言動や外見だけでセクシュアリティを決めつけることはできない。LGBTQ+は、レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー、クエスチョニングまたはクィアのアルファベットの頭文字に、それらに当てはまらないセクシュアリティ「プラス」を組み合わせたもので、日本の人口の10%に当たるという調査結果も※。
※「LGBT意識行動調査2019」より
近年、国際的にはすべての人の多様性を表すSOGIE(性的指向、性自認、性表現のアルファベットの頭文字からなる性のあり方を表現した用語)が使われることが増えている。すべての人の性はこの3つの要素を含み、性のあり方は多様であるという考え方を示している。
人権としての性
包括的性教育では、「性と生殖に関する健康と権利(SRHR)」が重要とされる。これは、自分のセクシュアリティ、妊娠や出産、プライバシーなど自分の性に関してすべて自分で決めることができる権利のことをいう。
ガイダンスではレベル1から「誰にでも人権がある」ということを基本として学び、自分の権利や、SRHR、人権侵害などについても年齢ごとに学んでいく。家庭で性教育をする中では、子どもにも大人と同じように人権があり、それが大人の一存で損なわれていないかを何度も立ち止まり考えるようにしたい。
年齢別!
包括的性教育のポイント
それぞれの人に違いがあり
かけがえのない存在であることを知ろう!
幼児期の終盤で、理解力や言語能力が発達する年頃。「自分と人は違って当たり前、それぞれが大切で特別な存在である」という性教育の土台となる部分を身につける中で、他人の気持ちを思いやって関わることなどを学んでいく。
また、自分の生命が父と母からなり、奇跡的な確率で誕生したこと、妊娠・分娩などの段階があることも学ぶ時期。
●誕生のしくみ
●自分の安全の守り方
●自分も周りも大切にするための同意
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#人権 #同意 #プライベートパーツ
自分の身体は、世界でたった1つのかけがえのないもの。それは他の人も同じで、似ているけれど違うところもあり、みんな違ってみんな素晴らしいんだよということを知りましょう。
そして、水着で隠れるパーツはもちろん、自分の身体のどんな場所でも誰がどんな風に触れていいのか決めるのは自分自身だけ。嫌に感じることがあるのも当たり前で、嫌だと感じたら、パパでもママでも誰にでも「嫌だ」と言っていい権利があるということも教えましょう。
頭、顔、おなか、お尻……身体にはさまざまな部分の名称がありますが、お子さんは性器の名前を言えるでしょうか。家庭の中で性器を表現する言葉はさまざまでいいですが、呼び名がないと子どもは「かゆい」「痛い」「触られて嫌だった」などのヘルプも正確に伝えられません。
最初は抵抗があったとしても、親が恥ずかしがるのは逆効果。プライバシーが守られる環境を作った上で、他の部位と同様に大切な身体の一部として口に出してみましょう。また、身体の名称やしくみの説明には絵本を使うのも1つの方法としておすすめです。
自分と周囲の人の違いを
理解して認めあおう!
第二次性徴による身体や心の変化に子ども自身がとまどい、葛藤する時期。友達づきあいなども広がり、他人との違いを敏感に感じ取り、自分の性意識や人を好きと思う気持ちが芽生える時期でもある。
身体や心の変化は成長の証であり人と違って当然であることや、男性・女性はこうあるべきであるというジェンダー規範にとらわれず、人はそれぞれのセクシュアリティを、人生を通して楽しむことができるということを学んでいく。親も性のあり方や多様性について理解を深め、親子で話し合う機会を持とう。
●性とはどんなものか
●受精と妊娠のしくみ
●身体にどんな変化が起こるのか
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小学校中学年にもなると身体の成長も進み、社会や文化によって作られた男らしさ、女らしさを押しつけられる場面も増えてきます。それでは性自認に関わらず生きづらさを感じてしまうので、洋服やおもちゃを選ぶなど生活のささいな場面でも、選択・決定する自由を奪わないことはとても重要です。
また、性は十人十色とも言われ、身体の性と自認する性が一致しているかどうかではなく、居心地の良さが大切。親は多様な性を前提とした会話を心がけ、子ども自身が「ありたいあり方」でいられるよう見守りましょう。
個人差はあれど、男子なら勃起や夢精、女子ならば初経などの生理現象を経験するのがこの時期。どれも大人になるための成長の証で、成長の過程で心がモヤモヤしたりイライラしたりしてしまうことがあるのもこの年代の大きな特徴です。
成長スピードは人によるので、他者と比べて心配する必要はないと教えてあげましょう。また、同性、異性に関わらず「好き」という気持ちを意識し始める頃。相手を尊重すること、気持ちの表現やコントロールについても話をしておくといいですね。
いろんな情報に触れ、なりたい自分になるために選択する力をつける!
多くの子どもが思春期を迎える年齢に。小さい頃のような密なコミュニケーションが難しくなってくる年代でもある。中学生にもなると友達や先輩からの影響が増したり、自分のスマホを持ったりして、危険な情報や、弱みに付け込む他者との接点も増えてくる。
メディアとの付き合い方、間違った情報に気づき正しい情報を理解できること、自分の行動が周りに与える影響や責任を知ること、そして周りにSOSを出せる力も大切だ。
●妊娠の兆候、胎児の発達と分娩の段階について
●意図しない妊娠を防ぐ方法
●取引的な性的行為のリスク
#セクシュアリティ #同意 #避妊
#メディアリテラシー
#ボディイメージ #ルッキズム
ネット、SNS、テレビなどのメディアは、暴力的、差別的、性的に露骨な表現などの情報であふれています。間違った知識や偏った情報に気づき、読み解く力を身につけましょう。
この年頃はアイドルなどの「世間が良しとするボディイメージ」に振り回され、外見に対する差別的な価値観(ルッキズム)が生まれてしまうことも。親からは「美の価値観は人によって違う」「ありのままのあなたがすてきだ」と伝えてください。また、成人向けの性的コンテンツは非現実的で過激な表現も多く、現実とは違うので、特に注意が必要です。
自分のウェルビーイング実現のために
選択する責任を持つ!
身体的・精神的に成熟し、親から細かいことに干渉されるのを嫌がる頃。口出ししたいのをぐっと我慢し、子どもを信じて自主性を尊重するのがこの時期の性教育の大前提だ。自分の人生や将来について深く考え、責任をもって意思決定できる基盤を固めることが目標となる。
また、子ども達が性にまつわるネガティブな出来事にあったときに必要なケアを受けられること、受けられていない現状に声を挙げる権利があることも学ぶ。
●生殖、性的機能、性的欲求の違いを区別する
●性行為における喜びと責任、人工中絶について
●不妊の可能性と対処法
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恋愛を楽しむことが増えるこの年代ですが、残念なことに意図しない妊娠・出産も多くなります。避妊の種類や具体的な方法の知識、利用についての責任をパートナーと話し合うことなどが必要になってきます。
万が一望まない妊娠や性暴力にあってしまった場合には、助けを求めたり、必要なケアを受けたりする権利があることを十分に教えておきましょう。
また、そんな時にショックで叱ってしまう親もいるかもしれませんが、本来親こそが一番の味方になるべき。わが子がこれらの権利を実現するために何ができるのか、親自身も考えてみましょう。
文:松永敦子
FQ Kids VOL.17(2024年冬号)より転載
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