ガザ地区の子どもの言葉から考える、「多文化共生」保育・教育の大切さ

ガザ地区の子どもの言葉から考える、「多文化共生」保育・教育の大切さ
戦争や紛争をなくし、子どもたちが平和な未来を生きるためには、「多文化共生の保育」が重要だ。パレスチナのガザ地区の子どもの言葉、ダライ・ラマの構想から谷崎テトラさんが考える、平和のために必要なこと。

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僕の友人から聞いた話

1999年頃の話になるのですが、僕の友人が学生時代に卒業旅行で中東を訪れ、エルサレムに滞在していました。そこでたまたまパレスチナのガザ地区を訪れる機会があり、現地の子どもたちと触れ合う機会があったそうです。当時は停戦が履行され、それなりに平和な暮らしがあったそうです。

彼は、1人の少年に「将来の夢は?」と尋ねてみました。その少年の言葉は、友人の人生の方向性を決定付ける衝撃的なものだったそうです。13歳の彼は、こう言いました。

「僕の将来の夢は、爆弾の開発者になって、できる限り多くのユダヤ人を殺すこと」

友人は驚き、理由を聞くと、少年はこう言ったそうです。

「僕が4歳の時に、僕のおばさんが、目の前で、ユダヤ人のイスラエル兵士に銃殺された」と。

友人は、人生において、これ以上の衝撃を受けたことはない、と、僕に語りました。

そして、あれから20年が経ち、あの時の少年は30代になっているはず。この原稿を書いている2023年末、イスラエルとガザの間でまた再び大きな戦争が起きてしまいました。パレスチナではハマスが攻撃を行い、その後、イスラエルが報復のための空爆と攻撃を行なっています。

「もし少年がその後、語った通りの人生を送っているとしたら、今はおそらく、ハマスの兵士になっている」と友人は語ります。そしてこう続けました。

「そんな子どもをこれ以上、増やしたくない」

友人の名前は関根健次。現在彼は、ユナイテッドピープルという反戦・平和や人権問題を扱ったドキュメンタリー映画の配給会社を立ち上げ、仕事をしています。

「憎しみの連鎖を断ち切るにはどうしたらいいのか?」
「原因となっている、戦争や紛争をなくすにはどうしたらいいのか?」

その問いの答えは「教育」にあります。特に、子どもの多文化共生のコミュニケーション力がとても重要です。

ダライ・ラマの「非暴力地帯」
(ピースゾーン)の構想

パレスチナと同様、人権問題を抱えている地域にチベットがあります。その指導者ダライ・ラマ14世は、チベット問題の平和的解決へ向けた第一歩として、チベット全土をアジア内陸部における平和の聖域とする「アヒンサー(非暴力)地帯」(=ピースゾーン)の構想を提案しました。

この聖域においては、生きとし生けるものすべてが調和のうちに生存できるようにし、環境の保全も図ってゆこうというものです。中国政府はこの提案に対し、前向きな反応を示していないですが、ダライ・ラマはこの「ピースゾーン」が地球上に広がることを祈念しています。

この「ピースゾーン」の考え方を子どもの教育に取り入れようと考えたのが、ダライ・ラマの妹さんでもあるジェツン・ペマさんです。ペマさんは、インドに難民として逃れてきたチベット人のための学校の校長先生でもあります。

ペマさんは学校の中に「ピースゾーン」を作ることを提案しています。例えば校庭の木の下を「ピースゾーン」とすることを皆で話し合い、けんかをした時は、その木の下で握手をして仲直りをする。けんかをしても必ず仲直りできることを子どもたちが学ぶことで、平和の実現を体感で学んでゆくのです。

ペマさんはこのピースゾーンを、家の中や街の中にも広げたいと語っています。平和の実現は、こうした家庭や地域での教育から始まるのかもしれません。

多文化共生の保育の重要性

国籍や民族等の異なる人々が、互いの文化的違いを認め合い、対等な関係を築き、地域社会の構成員としてともに生きていくことを「多文化共生」といいます。

近年、日本においても外国人の増加に伴い、保育現場における外国にルーツを持つ子どもの比率は年々高くなっています。 保育・幼児教育の分野においても、その重要性が注目されるようになってきました。

そういった中で、子どもは、人種や民族の違いにいつ頃気づくのでしょうか。

ダーマン・スパークスの研究(1989)によると、「子どもは2歳半から、人種、肌の色や身体、性の違いに気づき、3歳までに、偏見につながる考えや感情である前偏見(Pre-prejudice)を示す」そうです。

逆にいえば、2~5歳までの保育の中で、「多文化共生」の基本的な考え方を人類は学ぶわけです。

加えて、先のスパークスの研究では「幼児は、保育者とのかかわりから、無意識のうちに性差別や人種差別を学習する恐れがある」とも。

このような差別は、海外だけでなく日本の保育現場でも指摘されていて、「幼児が差別などの排他的言動をとるかどうかは、外国にルーツを持つ子どもの差異に対する保育者の対応が影響する」と報告されています。

子どもの前で、大人が外国にルーツを持つ人に対して偏見のない関わり方をすることが大切です。

逆に外国にルーツを持つ子どもとの交流は、知性や情操に良い影響を与えることがあります。異なる文化や価値観に触れることは、異文化理解を深め、より広い視野を持つことを可能にします。

さらに異なる言語や文化背景を持つ人々との交流は、コミュニケーション能力を鍛える機会となります。

欧州においては、多様性を好機と捉え、都市の活力や革新、創造、成⻑の源泉とする都市政策である「インターカルチュラル・シティ」というアプロ ーチが注目されています。

他者の違いを理解し、尊重することで、社会にとっても、より包括的で共感的な社会を形成するための基盤となります。

戦争や争いに子どもを巻き込みたい親はいないと思います。 異なる視点を理解し、共感する能力を育て、多様性を尊重する態度を育む。多文化共生を子どもたちが身につけることで将来の可能性が広がります。

平和な世界は実現できます。まずは大人が異文化に対する感受性を理解し、育むことで、心の中にピースゾーンを広げていきましょう。

PROFILE

谷崎テトラ

1964年生まれ。放送作家、音楽プロデユーサー。ワールドシフト・ネットワーク・ジャパン代表理事。環境・平和・社会貢献・フェアトレードなどをテーマにしたテレビ、ラジオ番組、出版などを企画・構成する傍ら、新しい価値観(パラダイムシフト)や、持続可能な社会の転換(ワールドシフト)の発信者&キュレーターとして活動中。シュタイナー教育の教員養成講座も修了。
HP:www.kanatamusic.com/tetra
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FQ Kids VOL.17(2024年冬号)より転載

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