子供の感性を育むには「いかに本物に触れられるか」日常生活でできる経験とは[前編]

子供の感性を育むには「いかに本物に触れられるか」日常生活でできる経験とは[前編]
子供には「いいもの」「ホンモノ」に触れさせてあげることが大切と語る「にほんごであそぼ」のアートディレクターを務める佐藤卓さん。お金をかけずとも普段の生活からそんな場を与えられる、親の意識の転換方法とは?[前編]

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今に活きる“ホンモノ”に触れた
幼少時代の経験

デザイナーの仕事をしていた私の父は、住居の一室を仕事場にしており、幼い頃の私は父の仕事道具でよく遊んでいました。コンピューターなんてものは無く、三角定規やコンパスなどを使って仕事をしていた時代です。

父がもう使わなくなった道具を入れていた箱を漁っては、「これ使ってもいい?」と。中でもコンパスが面白くて、精密な狂いのない円をいくつも描いてみては、子供ながらに「美しい円だなぁ」と思っていました。

そのすごさに気づいたのは、小学校入学後に学校で買わされたコンパスを初めて使った時です。鉛筆を挟んで描くプラスチック製のもので、円を1周回わすと鉛筆は元の場所に戻りません。「何なんだこれは!」と衝撃を受けました。

父が仕事で使っていたのもコンパス、これもコンパス……どっちもコンパスだけど、自分にとっては全く違うもののようでした。幼稚園の頃から遊んでいた、美しい円が描けるものがコンパスと思い込んでいたので、この違いは一体何なんだ、と。

そんな「あ」を超えた衝撃を受け、よく観察して疑問をめぐらせた結果、父が使っていたコンパスはすごく精度が高いホンモノなんだ、とわかりました。ホンモノで遊んでいたからニセモノに気づき、“良いもの”がわかるようになった。「子供の頃からホンモノに触れさせた方がいい」とよく話すのは、自分のその経験からです。

もしも父が、子供は子供用のを使いなさいと言っていたら、その経験には至らなかったと思います。今思えば、色んなものを自由に触らせてくれていましたね。

立体物のデザインもしていたので、模型をつくるための油土(ゆど)でもよく遊んでいました。小学校で渡された柔らかい粘土と違って固いため、ヘラなどで削ったりすると面白いんですよ。恐竜などを作ると比べものにならないくらい精密にできたりして、夢中で遊んでいました。

子供には、好きなものについてはホンモノを渡してあげるのがいいと思っています。例えば、1000円のものを細かくたくさん与えるよりも、1万円のものを1つ買ってあげる、など。もちろん環境によってそういうものが手に入らないということはあります。何か1つでいいから、子供が没頭しているような好きなものには、ホンモノを渡す。全部じゃなくていいんです。長い目で見れば、きっと元は取れるはずです。

PROFILE

佐藤卓(さとう・たく)

グラフィックデザイナー。1955年東京生まれ。1981年東京藝術大学大学院修了後、株式会社電通を経て、1984年佐藤卓デザイン事務所(現:株式会社TSDO)設立。東京ミッドタウン内「21_21 DESIGN SIGHT」館長兼ディレクター。NHK Eテレ「にほんごであそぼ」のアートディレクター、「デザインあ」総合指導を担当。「ロッテ キシリトールガム」「明治おいしい牛乳」のパッケージデザイン、「PLEATS PLEASE ISSEY MIYAKE」のグラフィックデザイン、「金沢21世紀美術館」「国立科学博物館」のシンボルマークを手掛けるなど幅広く活動。

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文:脇谷美佳子

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