2022.10.22
2022.07.16
2024.07.05
吉田敦彦さん
大阪公立大学教授。専門は教育福祉学。日本ホリスティック教育/ケア学会前会長。日本シュタイナー学校協会専門会員。著書に『世界が変わる学び:ホリスティック/シュタイナー/オルタナティブ』(ミネルヴァ書房)など。
近年、教育現場では学力テストでは計れない「生きる力」の存在が注目されている。教師が生徒・児童に何かを教えるという画一的な詰め込み教育の反省もあり、「1人ひとりの個に寄り添う」オルタナティブ教育は年々存在感を増している。
今回はその意義や役割について、日本のオルタナティブ教育研究の第一人者で大阪公立大学教授の吉田敦彦氏に聞いた。
「今の教育には『誰も予見できないこれからの時代を、自ら人生を切り拓き、新たな価値を創造していく力(非認知能力)』が求められています。主体性を大切にするオルタナティブ教育は、これにマッチしているといえるでしょう。
日本でも、モンテッソーリ教育やシュタイナー教育などさまざまなオルタナティブ教育の施設や学校があります。幼児期から高等教育まで受け入れ年齢も違えば特色も違いますので、わが子にとって何が幸せか、どのような学びが合うのか、どんな環境で育っていってほしいかによって選び取っていければいいと思います」。
日本の公教育は公立小学校が約99%を占めているという現状があるが、下図のシュタイナー学校に代表されるように、日本でオルタナティブ教育の学校に通う生徒・児童数は増加傾向にある。
(日本シュタイナー学校協会による正会員校の在籍児童生徒数調査より) 出典:「教育のオルタナティブ 〈ホリスティック教育/ケア〉研究のために」(せせらぎ出版)
「現在の日本は、『近代化のために全国民に平等な教育を』と教育制度が始まった明治時代には考えられないような成熟社会を迎え、親や子のニーズが多様化してきたといえます。
平等だが画一的な教育だけがすべてでいいのだろうかという問いが、オルタナティブ教育が注目される背景にあります」。
オルタナティブという言葉自体には、「代替の」「選択肢」といった意味がある。ではオルタナティブ教育とは具体的にどんな存在なのだろうか。
「オルタナティブ教育の役割は1つではなく、多様性、代案性、別様性の3つに整理できます。一番わかりやすいのは『多様性』。つまり“一般的な公立・私立学校以外の多様な選択肢になる”ということです。
『代案性』とは、既存のものの改善ではなく、代替となるものを実際に作るということ。『別様性』は、今当たり前とされる価値観や方法論に対して問い直す機能をもつことだといえます。
自己を大切にしつつ、他者を他者として、違いを受け入れる。それがオルタナティブ教育の存在する大きな意義といえます」。
つまりオルタナティブ教育とは、既存の教育とは“異なる価値”を探究し育むためのものであり、既存の教育を否定したり、取って代わろうとするためのものではないということなのだろう。
一方で、特に小中学校においては、いわゆる一条校(※)ではないスクールも多いため、公費助成を受けられないケースが多い。
※一条校とは、学校教育法の第一条に掲げられている教育施設のこと。公立私立を含む幼稚園、小学校、中学校、高等学校などを指す。
つまり公立学校に比べて費用もかかるし、卒業資格に関しては地元の小中学校との連携も欠かせない。オルタナティブスクールが地元の学校に通うよりもハードルが高いことは現実としてある。
「日本でのオルタナティブ教育の在り方は、法整備の面ではまだ進んでいるとはいえません。年々ニーズの増えているオルタナティブ教育をどのように公教育に位置づけ、どのように支援していくか、これからもっと議論が必要になっていくでしょう。
公教育の内なのか外なのかを明確に分けるのではなく、その境界にある『縁側』のような存在として位置づけ、公教育と共存していくようになればと、私は考えています」。
独自の理念・メソッド
一般的な教育とは異なる独自の理念・メソッドで教育を行う
個性や主体性を尊重
子どもの持つ個性や主体性を尊重する教育が多い
小規模・少人数制
公立に比べて小規模・少人数の学校・園が多い
対象年齢はさまざま
幼児教育から小中学校、高等教育まで、教育法により対象年齢はさまざま
公立より学費はかかる
私立や認可外の学校・園が多く、自由度が高い一方で、費用は公立よりも高くなりがち
わが子に合う教育を選べる
大多数の価値観に合わせるのではなく、自分の価値観や子どもに合うと思える教育を選べる
●モンテッソーリ教育/イタリア
●シュタイナー教育/ドイツ
●フレネ教育/フランス
●サドベリースクール/アメリカ
●森のようちえん/デンマーク
●イエナプラン/オランダ
●サマーヒルスクール/イギリス
●レッジョ・エミリア/イタリア etc…
フリースクールは不登校となった児童生徒に学びや居場所を提供しますが、オルタナティブスクールは教育理念や方法に賛同する保護者が1年生から通わせることが基本となります。
ただ、不登校をきっかけにしてオルタナティブスクールに転校することもあり、線引きが曖昧な場合もあります。
私立学校とは、都道府県に認可された学校法人の運営する学校のことを指します。オルタナティブ教育を実践している学校の中には、認可を受けた私立学校に加え、NPO法人や一般社団法人が運営している認可外のスクールが多くあります。
後者の場合、児童生徒は地域の公立学校に籍を置いてオルタナティブスクールに通う二重学籍の状態になり、卒業資格は公立学校から発行されます。この学籍の問題をどう改善するか、関係者間で議論が続いています。
学校法人ではないオルタナティブスクールの場合、国からの補助がほぼないので、私立学校程度かそれ以上の学費がかかる場合があります。スクールによって異なりますが、目安として月額2~10万円、施設費などを含むと年間100万円以上にもなることも。
また学校法人でない場合は、通学定期が買えない、給食がないなどの負担もあります。一方幼児教育の場合は、無償化政策によって、運営形態に関わらず費用的な負担は比較的少なくなっています。
多くの幼稚園や学校では、体験講座や見学などのオープンスクールを実施しているので、まずはいろいろな学校を見て回るといいでしょう。学校によっては入学前後で数週間の体験入学期間を設けていたり、それが入学条件になる場合もあるので、わが子に合うのかどうかをよく見極める機会となります。
文:松永敦子
FQ Kids VOL.16(2023年秋号)より転載
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