2021.12.26
2022.05.17
2023.02.14
中山芳一さん
岡山大学教育推進機構准教授。専門は教育方法学。大学生のためのキャリア教育に取り組むとともに、幼児から小中学生、高校生まで、各世代の子供たちが非認知能力やメタ認知能力を伸ばすことができるように尽力。著書多数。
イタリアの医師・教育家であったマリア・モンテッソーリ博士が考案。知的障害のある子供たちが、感覚を十分に使うことで知能指数を伸ばせることに気づき、指先を使う独自の教育を始めた。やがて対象が広がり、成果を上げ教育法として確立された。
前提となっているのは、「子供には、自分を育てる力が備わっている」という「自己教育力」。「自立していて、有能で、責任感と他人への思いやりがあり、生涯学び続ける姿勢を持った人間を育てる」ことが目的だ。
大人がすべきことは、子供の発達を知り、観察し、環境を整えることとされる。
モンテッソーリ教育では24歳までの期間を4つの時期に捉え、第1期となる0~6歳の乳幼児期を、心身の基本的機能が備わる自立への「敏感期」と捉えている。
敏感期とは特定の事象に対する強い感受性がある時期のことであり、自己教育力の具体的な現れだとする。敏感期の行動は時に奇異に映るかもしれないが、その時大人がどう関われば良いのか知っておくことが子供の成長にプラスになる。
言葉、秩序、感覚などのあらゆる敏感期が訪れるこの時期に適切な環境があれば、子供はスポンジのように学びを吸収していくのだ。
モンテッソーリ教育では子供が自ら選んで行う作業を「お仕事」と呼ぶ。それぞれの敏感期に見合ったお仕事をすることで、自発的に子供は成長すると考える。
お仕事には五感の発達を重要視し、教材や用具は多種多様で手作りのものも。大人は必要な時に、手を差し伸べることに徹する。
子供の成長段階において、必要な時期に必要な活動(お仕事)をすることは、発達・発育の面で理にかなっていると思います。数ある海外の教育法の中でも幼児期の教育としては、日本に馴染みやすい教育法の1つと言えるでしょう。
ドイツの哲学者であるルドルフ・シュタイナー博士が提唱。子供が最大限に能力を活用できるよう、個性の尊重を重視した教育法である。知的な経路を通じた学習よりも、感情や意志に働きかける総合芸術としての教育を提唱した。
発達段階を7年周期として3段階に分けて教育し、0歳~7歳の幼児期を物質(からだ)の成長期と捉え、体を動かしながら意思の形成を育む時期としている。
授業の柱となっているのがオイリュトミーとフォルメンの2つだ。前者は言葉や音楽の構成要素・法則を、手足を用いて身体全体で表現するもの。深い感受性と協調性、責任感の育みを目的としている。後者は身体の動きから得た直線や曲線を、色彩を用いて描くこと。成長に合わせて複雑になり、文字や幾何学も用いられる。
人工的なものを排除し、自然の素朴さ、暖かさを大切にしているのも特徴である。
モンテッソーリ教育とシュタイナー教育に共通するのは、子供の発達段階に応じた育みの提供。そして子供の自主性を尊重し能力を引き出すことです。シュタイナー教育は自然とともに生きることを重視しており、総合的な生きる力を養います。
イタリアの都市レッジョ・エミリアで発祥した、アートを主軸として子供が主体的に活動し、個性を引き出すことを大切にした教育方法。子供が持つ無限の可能性の象徴である「100のことば(創始者ローリス・マラグッツィの詩)」を掲げている。
この教育で大切にしているのは、大人の考え方や都合を持ち込まないこと。子供の個性を引き出す方法として、「社会性」「時間」「子供の権利」という3つの教育理念を掲げる。
教育は3つのステップに基づき進行する。1つ目が、長期間にわたり1つのテーマを子供と大人が一緒に掘り下げる「プロジェクト活動」。2つ目が、教室内にアトリエや広場を用意しアートの専門家が保育者とともに創造活動を援助する「自由な芸術活動」。3つ目が、活動の様子を文字や写真だけでなく音や映像として掲示する「ドキュメンテーション」である。
レッジョ・エミリアの芸術教育は、古代ローマ時代から脈々と続く、風土と文化の賜物と言えるのではないでしょうか。世界的にも著名なアーティストやデザイナーがイタリアに多いのも、この教育と関係あるかもしれません。
アメリカのマサチューセッツ州ドルトンの小学校において、ヘレン・パーカーストにより指導・実施された教育指導法。1人ひとりの興味を出発点とした自主性と創造性を育む「自由」と、さまざまな人との交流を通して社会性と協調性を育む「協同」を原理として掲げる。
これらを実現するため、3つの柱を基軸とした教育を行う。1つ目は、家庭的な教室で複数の学年で形成されるコミュニティの「ハウス」。一般的な学校のホームルームに当たる。
2つ目は、意欲を高め学びを深める仕組み「アサインメント」。学習意欲を引き出し、自主性や計画性を養うために生徒と先生との間で交わされる約束を指す。
3つ目は、自分で計画した学びを実践するための研究室「ラボラトリー」。専門教科について深く学習する機会となる。子供が得意とすることを見つけ、能力を最大限に引き出すことが期待できる。
実は日本にもこの教育法はあり、大手予備校の河合塾が戦後の日本でドルトン・プラン教育を牽引してきました。主に幼児向けの英才教育が主体でしたが、2019年にドルトン・プラン教育を行う中高一貫校が開校しました。
北欧にはデンマーク・スウェーデン・ノルウェー・フィンランド・アイスランドの5ケ国があるが、OECD(経済協力開発機構)が実施する「学習到達度に関する国際調査(通称:PISA)」において、北欧の教育が世界でもトップクラスと示された。
しかし、「○○教育」といった名称があるわけではない。どの国も人権などの権利を尊重することを含め、複合的な教育の賜物であろう。
フィンランドを視察した中山先生は次のように述べる。
「先生と生徒が山へ行き、先生が『ウサギになろう』と言って体育が始まり、タッパーからニンジンを出して食育へ。園に戻ると先生が山で見つけたブーツを生徒に見せ、『誰の?』と生徒の間で議論がスタート。『コグトレ』という認知トレーニングです」。
教科の領域を定めず、総体的な能力の育みを目指し、教師に裁量が与えられている点が優れているようだ。
「ブーツは誰の?」という議論は、「魔女の靴」という結果になりました。その魔女がどうして靴を落としたか、絵を描こうと図工が始まるんですよ。リアルな教育の現場を目の当たりにし、感動を覚えました。
先生が生徒に教える伝統的な教育法をベースとする日本の現場も、変化の過渡期にあると言える。盛んに取り上げられるようになったオルタナティブ教育(伝統とは異なる代替教育)を考える上で、参考になるキーワードを集めてみた。
1968年にアメリカで設立されたサドベリー・バレー・スクールが始まり。子供には、自他に関する権利と責任が与えられ、自主的に活動する。カリキュラムや時間割、学年やクラスという概念もない。生徒とスタッフの関係も対等で、学校運営には平等に1票を持つ。
SELは、Social(社会的能力)、Emotional(気持ちに関わる能力)、Learning(学び)の頭文字を取った用語。自尊感情と対人関係能力育成のための科学的根拠に基づく。自他の感情を理解し、適切な社会行動を推進するための知識やスキルを学ぶ。
レジリエンスは非認知能力の1つとされ、誰もが持っている。大きなストレスや逆境、困難から立ち直る力のことである。経験や知識を積み重ねることによって、困難な状況に陥った時でも自分を奮い立たせ、立ち直れるように育てていくことを目的とする。
「保育者の主体性」「子供の主体性」「寄り添うこと」「距離を置くこと」を特徴としている。その体系や特徴は、ピラミッドの形で図示される。国際的な学力テストにてオランダの子供たちの学力が高いこと、幸福度が高いとされることなどから、近年注目が集まる。
ドイツの教育家ペーター・ペーターセンによりオランダで広がった、個人を尊重し自律と共生を学ぶ教育法。自律のための「主体性」と、共生に必要な「協調性」の獲得を目指す。子供の個性を重視しながら、自発的に学ぶ姿勢を大切にする。異年齢学級による学び合いも特徴。
教育者、セレスタン・フレネが提唱。仕事を基礎とした個性化と協同化の2 大原理による教育法。子供の生活、興味、自由な表現を尊重し、教科書による一斉授業を行わない。子供が自分自身の考えを自由に表現しながら、内面を成長させていくことが狙い。
世界で一番自由な学校とも呼ばれるのが、イギリスの教育家ニールによって設立されたサマーヒル・スクール。「子供は強制より自由を与えることで最もよく学ぶ」という信念から、自治と自由が特徴。近年注目されるオルタナティブ教育に大きな影響を与えている。
文:木村悦子
FQKids VOL.12(2022年秋号)より転載
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