先の見えないVUCAの時代。求められる能力、子供たちに増やしてあげたい機会とは?

先の見えないVUCAの時代。求められる能力、子供たちに増やしてあげたい機会とは?
核家族化や地域コミュニティの崩壊、コロナ禍など、子供を取り巻く社会が変化する中で、求められるコミュニケーション能力とは? 芸術文化観光専門職大学学長を務める劇作家・演出家の平田オリザさんに伺った。

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社会変化という大枠で考えるべき
コミュニケーション問題

いま、「3年以内離職」が問題になっていますよね。厚生労働省が2021年10月に公表した「新規学卒就職者の離職状況」では、新規大卒就職者の就職3年以内離職率は31.2%となっています。

よく、幼児教育課程の大学に呼ばれて講義に行くことがありますが、そこでも3年以内離職が課題になっています。保育士は引く手あまたなので(有効求人倍率は2020年7月で2.29倍、全職種平均は1.05倍)、志望者は100%就職できるのですが、3年以内に辞めてしまう方が多い、と。離職の理由は、業務量の多さや賃金の低さだけでありません。多くは「職場の人間関係と保護者対応」にあるのです。

厚生労働省「保育の現場・職業の魅力向上に関する 報告書」参照

幼児教育理論が発達し、大学での教え方はすごく上手くなっています。非認知スキルのこともよく理解しながら、これまで以上に科学的に教えるようになっている。ところが「教育学」の世界では、これまで職場の人間関係について、ましてや保護者対応についてなど教えてきませんでした。短大を出てすぐに保育園の先生になれば、まだ20歳。20歳の人が子育て中のお父さんお母さんと渡り合うには、大学で教えてあげないと、難しいですよね。

昔は、園長先生と若い女性の保育士さんで構成されていた幼稚園・保育園ですが、今は結婚・出産後も多くの方は保育士を続けます。逆にそうしていただかないと日本は滅んでしまう。それまで中間管理職がいなかった職場にそういうポジションの人が出てきた、といった変化も、女性の社会進出によって、ここ10~15年くらいで急速に広まってきました。

子供に限らず、コミュニケーションの問題をそういう社会変化の大枠の中で、全体としてしっかり捉えなければいけません。このように社会と組織に変革が起こると、必要とされるコミュニケーション能力も変わってくるのです。

変化する時代の中で必要な
“緩やかな”付き合い

コミュニケーション能力には、大きく2つあります。「自分の知っている人とうまくやるコミュニケーション能力」。そして、「自分のことを知らない人、価値観の違う人や異文化の人とうまくやるコミュニケーション能力」です。

今までの日本で重要視されてきたのは前者の能力でした。しかし、地縁・血縁の強固な共同体の在り方には限界がきています。お互いが「知らない」「異なる」ということを前提にしながら、「何か」で繋がっているような社会・組織に作り替えていかないといけません。

社会が変化してくれば、地域や近所との付き合い方もこれまでとは大きく異なってきます。誰もがコミュニティ内での人との付き合い方を模索していますよね。そこで僕がおすすめしているのは、「濃すぎず薄すぎず、ちょうどいい付き合い」。これをコミュニティの中でどう作っていくかがこれからの課題です。

1つの案として僕が考えているのは、これまで強固な共同体として存在してきた地縁・血縁の共同体や、生計のための企業社会という利益共同体とは異なる、「関心共同体」。自由に離脱ができて、趣味や嗜好によって集まる緩やかな繋がりの共同体です。

例えば、よく問題になるPTA。その学校に子供を通わせているから「PTAに入らなければならない」のではなくて、親子で見る映画鑑賞サークルとか、ダンスサークル・フットサルサークルとかをたくさん作って、そこに親子で参加する。それを通じて、親同士が映画友達、サッカー友達になる。

今までの義務的なPTAをやめて、みんながどこかには入っていて、みんながどこかで繋がっているという緩やかなネットワーク社会、総合体としてのPTAを作る。それが、関心に基づくコミュニティ、関心共同体です。簡単なことではありませんが、おそらくここにしか解決の道はない。

もちろん学校任せにするのではなく、行政用語で言うと、社会教育と学校教育を連携させる必要もある。戦前の反省から独立を高めてきた学校教育ですが、これからは垣根を低くして、文化政策と教育政策とを連動させることが必要だと思います。

子供たちに増やしてあげたい
知らない他者と触れる機会

兵庫県豊岡市のわが家が住む地域では共同体がまだ残っていて、3ヶ月に1回くらい神社の掃除があります。40~50分ほどですが、落ち葉を集めてからたき火をするので、うちの子はそれが大好きみたいです。近くの金比羅さんではお祭りで餅まきなんかもあります。絶対に参加しなければいけない、というわけではないので、僕からするとちょうどいい緩さです。

これまで何度もお話ししてきましたが、子供のコミュニケーション能力は決して低下しているわけではありません。世の中の要求が高まってきているのです。どちらかと言うと能力はちゃんとついてきている。今求められている「知らない他者とのコミュニケーション能力」は、昔から日本に欠けていた部分なのです。これからもっと、知らない他者とコミュニケーションできる機会を増やしていかないといけないですね。

PROFILE

平田オリザ
1962年東京生まれ。劇作家・演出家。芸術文化観光専門職大学学長。劇団「青年団」主宰。江原河畔劇場芸術総監督。こまばアゴラ劇場芸術総監督。1995年『東京ノート』での第39回岸田國士戯曲賞受賞をはじめ国内外で多数の賞を受賞。京都文教大学客員教授、(公財)舞台芸術財団演劇人会議理事、豊岡市文化政策担当参与など多彩に活動。

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文:脇谷美佳子

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