2024.09.11
2022.08.25
2023.07.14
非認知能力が注目されるようになってきました。非認知能力とは、「学力テストなどでは数値化されない、子どもの将来や人生を豊かにする力」のことです。昔は知能を1つの指標(例えばIQ)で測ろうとしていましたが、「知能」には多様性があることがわかってきました。
ハーバード大学教授のハワード・ガードナー氏による「多重知能(Multiple Intelligences=以下MI)」の研究では、知能は「音楽・リズム知能」「対人的知能」「論理・数学的知能」「博物学的知能」「視覚・空間的知能」「言語・語学知能」「身体・運動感覚知能」「内省的知能」といった8つがあることが示されました。
僕が授業の枠を持たせていただいている京都芸術大学も、創造学習センター(現・芸術教養センター)の創設時にMI理論の考え方を学習プログラムに取り入れ、リアルワークや言語や表現に関するカリキュラムを組んだり、あるいは畑作りなどを授業に取り入れたりしていました。
芸術大学に進学してきた学生は、必ずしも「芸術家」を目指して生きてきたわけではありません。たまたま発達障害や学習障害などが原因で、「変わった奴」だと学校から疎外され、学力テストの成績が評価される学校で不適応を起こした子どもたちが、その代替として芸術の自由な表現を選択してきた可能性もあるわけです。
こういった学生との触れ合いのなかで、時折、ハッとするような才能に触れることがあります。画一的な学校教育のなかでは、評価されにくい才能のことを、「異才」あるいは「ギフテッド」と言われたりします。「異才発掘」という言葉を聞く機会も近年、増えてきました。
「異才」とは、ビル・ゲイツや、エジソン、アインシュタインなどのように、学校では落ちこぼれていた子どもが、 天才的な発明をしたり社会的な業績を上げたりするという、限定された興味の範囲で非常に優れた能力を発揮する人たちの存在です。神様からの贈り物という意味で、「Gifted(ギフテッド)」と呼ばれたりもします。
彼らの存在を見ていると、幼児期からの教育環境がとても大切だと実感します。生まれつき知能や特定の能力が突出した人であっても、環境によってはその能力が否定されたり、周りの対応によっては子どもの自己肯定感が下がってしまったり、場合によっては障がいというレッテルに苦しんだり、さまざまな問題が起こり得ます。
また異才を持つ一握りの子どもだけではなく、それぞれ異なるすべての子どもたちの個々に持っている才能に応じて、「学びの個別最適化」が求められるようになりました。
文科省の「特定分野に特異な才能のある児童生徒に対する学校における指導・支援の在り方等に関する有識者会議」(令和3年11月1日、東京大学未来ビジョン研究センター客員研究員・福本理恵氏)の資料によると、現代を「個才」の時代、と位置付けています。
生まれつき知能や特定の能力が突出した「異才」だけではなく、すべての子どもたちの「学びの個別最適化」が必要と考えられるようになってきたわけです。先に述べたガードナーのMI理論でも、8つの知能のバランスは、人によって異なります。そして知能のバランスが異なる理由のひとつに、いままでの体験や環境の影響を受けていることが挙げられています。
「個才」をめぐる実証研究は始まったばかりですが、多様な認知特性への理解や、ICT機器の導入など合理的配慮や個別支援による環境調整、既存の枠組みを外す環境づくり、例えば教科書なし、時間制限なし、目的なし、といった教育の方法論など、さまざまな試みが行われています。
「個才」は特殊な領域で専門性を発揮するだけでなく、社会全体の「クリエイティブ」の力を高め、日本に必要とされるイノベーションのきっかけを作る可能性を秘めているわけです。
その可能性を引き出すためにはまず、我々が「大人世代の価値観で子どもを見ないようにすること」「数値化されない子どもの将来や人生を豊かにする力を見つけ、育むこと」が何より大切です。
谷崎テトラ
1964年生まれ。放送作家、音楽プロデユーサー。ワールドシフトネットワークジャパン代表理事。環境・平和・社会貢献・フェアトレードなどをテーマにしたTV、ラジオ番組、出版などを企画・構成するかたわら、新しい価値観(パラダイムシフト)や、持続可能な社会の転換(ワールドシフト)の発信者&キュレーターとして活動中。シュタイナー教育の教員養成講座も修了。
HP:www.kanatamusic.com/tetra
FQ Kids VOL.13(2023年冬号)より転載
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