2020.12.09
2022.10.11
2024.04.25
豊福 晋平さん
国際大学グローバル・コミュニケーション・センター(GLOCOM)主幹研究員・准教授。横浜国立大学大学院 教育学研究科修了、東京工業大学大学院総合理工学研究科博士課程中退。専門は学校教育心理学・教育工学・学校経営。一貫して教育情報化の研究と普及に取り組み、近年は、北欧諸国をモデルとした学習情報環境の構築に関わる。2019年に仲間と「日本デジタル・シティズンシップ教育研究会」を創立。共同代表理事として、「デジタル・シティズンシップ教育」の普及に務めている。
幼児期の「デジタル・シティズンシップ教育」で意識すべきことは、周囲の大人が子どもたちのモデルになっているということだ。親が触っているデバイスには、子どもは必ず興味を示す。「ここには自分の将来がある」ことを既に学習しているのだ。
「あなたにはまだ早いから、もっと大人になってからね」と言うと、子どもはたいてい素直に諦めるが、否定や抑止が過ぎると子どものストレスになる。例えば、他の子どもが自由に使えるのに自分だけ使えない、という過酷な状況が続けば、子どもは歪んだ認識を形成してしまうだろう。
また、幼児期のデジタルメディアとの関わりについては、「子育てをスマホにさせていいのか」という批判もある。だが、これは何も今に始まったことではなく、テレビ全盛の時代にも言われていたことだ。一時的にでも子どもが意識を集中してくれれば、親は他の用事ができるので、頼りがちになるのは今も昔も変わらない。
注意すべきは、デジタルメディアを与えるか・与えないか、ということより、子どもに対する意識や子どもとのコミュニケーションとのバランスが取れているか、ということだ。デジタルコンテンツでも紙媒体の絵本でも、親子で「これは何?」「楽しいよね」とやりとりができれば、親子の会話機会を増やすきっかけになる。
多くのデジタルコンテンツは魅力的に作られているので、子どもがその世界に没頭したり、楽しんだり、といった良い側面がある一方、目が疲れる、身体を動かす時間が奪われる、止めるのが難しい、という課題にも直面する。
幼児期は、①使う前に許可を与える ②使う時間を決める ③止める時に気持ちを切り替える(合図を決める)など親が積極的に関わることが重要だ。まずは、「メディアと生活のバランスをとって自律する、その第一歩を手伝う」という意識を。
まだ気持ちの切り替えが難しい幼児にデジタルコンテンツの時間制限を設けると、「もっと見たい」とぐずりがちだ。そこで取り入れたいのが、「深呼吸をして、タブレットを閉じて、はいおしまい!」の掛け声。
まず、あらかじめ「これだけの時間はやっていいよ」と終わりの時間を決めておいて、時間が来たら掛け声を。それから、「さあ、ここから他のことをしよう」と誘って、気持ちの切り替えを手伝おう。この時、「よく我慢できたね、えらいね」と共感を示してあげることも大切だ。その上で、「おしまいにするのは嫌だと思うけど、自分でできるようになることが大事だよ」と伝えよう。
子どもの写真をSNSにアップする親は多いが、これらの写真も子どもの「デジタル足跡」として残ってしまうもの。その意識をパパ・ママは必ず持って行動しよう。将来、子どもが成長して10 代にもなれば、自分がどのようにSNSにアップされているかを気にするようになる。個人が特定できないようにする、肌を露出した写真や本人が望まないであろう写真はアップしないなど、将来の事を考えておきたい。
小学校低学年になると学校で1人1台タブレットが配付され、プライベートでもオンラインでのコミュニケーションや動画視聴・ゲームをする機会が増える。「デジタル・メディアとの本格的な付き合い始め」ともいえる小学校低学年時期の教育で、何にも増して重要なのは、「デジタルの世界は、家の外と同じ公共空間である」と伝えることだ。
ぜひやってほしいのが、「外で道を渡る時はどうする?」と問いかけること。「車が来ないか確かめる」といった答えが返ってきたら、「デジタルの世界もそれと同じだよ。安全な場所と、気をつけないといけない場所がある。だからパパ、ママと一緒のときはいいけど、一人で外に出ないといけないときはどうしたらいいかな?」と問いかけ、一緒に考える時間を持ちたい。
オンラインで誰かとやりとりするときも、「外に出てすれ違った人に、自分の電話番号や住所を言ったりしないよね。それはデジタルの世界でも同じだよ。相手によって、言っていいこととダメなことがあるんだよ」と伝えよう。
その上で、最初は家族だけ、先生、友達と、だんだんやりとりする範囲を広げ、経験を積んでいけるよう導こう。「オンラインの安全な場所とそうではない場所」を判断する感覚を、本人が磨いていけるようリードするのだ。
また、タブレットなどを使うとき、本人に「遊んでいるのか、学んでいるのか」意識ができるようにしてあげることも大切だ。タブレットを使って勉強するつもりが、いつの間にか遊んでしまうのはよくあることで、それに自分で気付く必要がある。
ただし、先生や親が指示したことだけをやるのが勉強ではない。例えば、学校の休み時間にタブレットを使っていたとして、「係の決めごとをするために文章を入力する」「掃除の仕方をみんなに伝えるために動画を撮影する」といった作業をしていたとしたら、それは大切な学びの一部。
家でも、「それは遊びだと思う? 学びだと思う?」と問いかけることで、本人が自分のデジタルメディアの使い方に自覚的になり、聞かれたら用途や意図をきちんと説明できるような習慣を作ってあげることが大切だ。
最近の学校教育では、学習のプロセスをAARサイクル(計画・実行・振り返り)で進めるアイデアが普及しつつある。そこで、子どものデジタルメディアの利用計画ではなく、大人も参加して、自分たちの健康的な生活のためのメディアバランスを考え、家族全員で共有するルールをAARサイクルで検討してみよう。
例えば「家族で話をしている時には、スマホを見ない」「食卓では使わない」「ご飯を食べた後にリビングでゆったりする時は、こういう使い方をしよう」など。ルールが守られているか子どもは必ず見ているので、親も意識してきちんと守ろう。
PCやスマホには、故障や不調がつきもの。その際に、親がどのような行動をとるかは、子どもの問題解決能力に影響を及ぼす。先に述べた通り、デジタル・シティズンシップでは、①立ち止まる ②考える ③たずねる の3ステップが大切。
すぐに諦めてしまうと、②の考えて試行錯誤する機会を失ってしまう。親子で一緒に考えながら検索などで調べ、解決する場面を作ることで、子どもは課題の把握の方法や解決の段取りを身につけるだろう。
小学校中・高学年になると、友達やきょうだい関係の影響もあって、SNSやゲームのチャットなど何らかの形でオンラインコミュニケーションが始まっている可能性が高い。
この時期の子どもと向き合う際には、まず、「デジタルメディアは、これからの時代の生活に必要不可欠である」と親が理解して臨むことが大前提。使い過ぎが良くないことや、他とのバランスを取ることが難しいことは、あえて大人が口にしなくても、子ども自身がよくわかっていることが多い。
特に、デジタルメディアの長時間利用については、心身の疲労や生活への影響はあるが、薬物・ギャンブル依存症のような重篤な事案はほとんどない(重篤なケースは依存そのものよりも、背景に深刻な課題を抱えていることが多い)。
過度に「依存」を疑うのは、保護者にも子どもにもストレスになるので注意しよう。 また、子どもの興味・関心や性格、行動特性、あるいは家庭の方針や環境の違いによって、最適なメディアの利用時間とバランスは、1人ひとり違うもの。だからこそ、デジタルメディアの利用は自分自身で計画・コントロールできるようサポートし、適宜振り返ることが重要だ。
さらに、家族や友人以外とのオンラインコミュニケーションが始まっている子どもも多いこの年齢。「どんな相手とコミュニケーションしているか」「どんなやりとりをしているか」「自分自身はどんな課題があると思っているか」などを聞いてみよう。
とはいえ、子どもは「言っても、どうせ説教される」と思っている相手には絶対言わないもの。オンラインでのリスクやトラブルは、子どもの側から相談されないと大人は気付きにくいので、「オンラインコミュニケーションって面白いよね」と共感ベースで話をしながら、一緒に考えられる場面を作りたい。
子どもの経験を認めた上で、「自分の方が少しは経験を持っているから、一緒にどうするか考えよう」と、解決策や、リスクを軽減する選択肢を伝えよう。
ぜひ中高生になっても親子で続けてほしいのが、「計画」「実行」「振り返り」の習慣だ。ビジネスの「PDCAサイクル」とほぼ同様のもので、教育においては「AARサイクル」<Anticipation(予測)、Action(実行)、Reflection(振り返り)>という言い方もされる。これはデジタル・シティズンシップ教育に限らず、子どもが自律して考えられるようになるために効果的なやり方だ。
方法としては、まずAnticipation(予測)として、「今日起こした行動が、将来どういう結果になるのかを考える」。いきなりは難しいので、最初は「ゲームをする時間を毎日1時間は確保したい」など、質問して希望を引き出し、「どうやったらそこまでのステップがたどれるか」を少しずつ本人に考えさせよう。
次のAction(実行)は、「予測した希望に向けて、意図をもって自分で行動を起こす」ことだ。「ゲームをする時間を毎日1時間は確保したい」が予測なら、例えば、「宿題は毎日帰宅後すぐに取り掛かって、それが済んだらゲームを1時間してみる」。親は、「行動を起こしたら、それは自分か周囲の人、社会に影響を与えて何かを変える。そこには必ず責任が伴う」ことを伝えて見守ろう。
最後のReflection(振り返り)は、実行したことについて、「今回こうしてみたけど、ちょっと無理だったから変えてみよう」など、必ず振り返る習慣を持つということ。「宿題に時間がかかるので、ゲームは30分にしよう」など、方向ややり方を自分で正しい方向に調整するための訓練といってもいい。
この「AARサイクル」を親子で続けられるペースで継続し、いつか一人でもできるようになると、デジタルの世界でもリアルにおいても、自律していくための大切なステップになる。
何に使う? どれくらい使う?
みんなのメディアバランス事情
今どきの子どもたちは、実際どれくらいデジタルメディアに時間を使っているのだろうか? 幼児と小学生、それぞれの最新調査を紹介する。
グラフ引用:学研教育総合研究所 小学生白書2022年/幼児白書2022年より
幼児4~6歳
回答者:満4~6歳の各年齢で、幼稚園児の男女100人ずつと保育園児の男女100人ずつ(計1,200人)©学研教育総合研究所(Gakken)
小学校1~6年生
回答者:小学1~6年生の各学年で男女100人ずつ(計1,200人)©学研教育総合研究所(Gakken)
幼児・小学生の「1日の通信機器の利用目的・時間」に関する学研教育総合研究所の調査によると、利用の平均時間が最も長いのは、どちらも1位が「動画の閲覧」、2位は「ゲーム」だった。
幼児で「写真・動画を見る」と答えたのは80.9%で1日平均43分、「ゲームをする」と答えたのは66.3%で1日平均32分。一方小学生は「動画閲覧(学習以外の目的で)」が75.7%で1日平均52分、「ゲームをする(学習以外の目的で)」が71.3%で1日平均48分だ。
通信機器を利用している子どもの割合は多いものの、時間は幼児・小学生ともに1時間未満という層が大多数。1時間以上やっている場合は、比較的長い方だといえる。
また、全体平均の時間も過去調査に比べると長くなりつつある。気になる場合はメディアバランスを見直してみてもいいかもしれない。その際は、ぜひ親も一緒に自分自身を振り返り、よりよい時間の使い方を親子で一緒に考えてみよう。
監修:豊福 晋平
文:笹間 聖子
FQ Kids VOL.15(2023年夏号)より転載
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