2024.09.04
2021.12.17
2024.01.23
中竹竜二さん
早稲田大学卒業、レスター大学大学院修了。三菱総合研究所を経て、早稲田大学ラグビー蹴球部監督就任。2010年、日本ラグビーフットボール協会の指導者を指導するコーチングディレクターに就任。2012年より3期にわたりU20日本代表ヘッドコーチを務め、2016年には日本代表ヘッドコーチ代行も兼務。2014年、企業のリーダー育成トレーニングを行う㈱チームボックス設立。集中力を高めるためのオンラインコーチングサービス(www.space.teambox.co.jp/front/)も話題。
「子どもは『親の言っていること』はやらずに、『親のやっていること』をやるものです」。「やり抜く力」の伸ばし方について聞いた、中竹さんからの最初の答えがこれだ。
だから、子どもだけに「やり抜く力」を求めるのではなく、まずは親が、「自分が何かをやり抜いたことはあるのか」「途中で挫折したときはどういうときか」を当事者意識を持って考えてみることが重要だという。
「そこで、何かをやり抜いた体験があった人は、成功への道筋を語ったり、背中を見せてあげることができます。無い人は、自分自身が何かやり抜くことを始めてください。そうでないと、一方的な押しつけになってしまいます」と中竹さん。
なぜなら、例えば「勉強を頑張りなさい」と注意するときにも、言う側が、勉強の本当の大切さをわかっているのとそうでないのとではまったく効果が異なるからだ。
「『自分はやらなかったけど、世の中的には勉強が大事だから頑張りなさい』と言っても、本当の意味での大切さは伝わりません。そうやって親が、自分ができないことを子どもに押しつけるようなスタンスでは、『やり抜く力』は伸ばせません」と釘を刺す。
そこで中竹さんのおすすめは、子どもと一緒に親もチャレンジすることだ。その内容は、子どもと同じでなくていい。「家計簿を1年間つけきる」「1ヶ月毎日お弁当を作りきる」でもいいのだ。
ただ、子どもが何かを「しんどいな」と思っているときに、「頑張りなさい」と外野から言うのではなく、「お父さん(お母さん)もしんどいけど頑張るから、一緒に頑張ろうよ」と声をかけられる、ともに頑張る仲間になることが重要なのだ。
「家族で一緒に頑張れば、やり抜いたときに、ともに感動できます。『お互いに全力を尽くした』という親子の物語は、強い絆になるはずです。それくらい、頑張るというのはすごいことなんです」と中竹さんは訴える。
結果が出ても出なくても、そうやって家族で「やり抜こう」と頑張ったプロセス自体が、何よりも子どもの力になるのだ。
頑張ってやり抜くか、あきらめてやめるか。幼児から小学生の過程で、この問いを感じやすい例の1つは習い事だ。子どもが「やめたい」と言ったときに、頑張って続けるよう説得するべきか、承諾するべきか、迷う親も多いのではないだろうか。
ここでは、小~高校生を対象に、子どもが習い事を続けている理由、やめたいと思う理由を調査した結果を紹介する。「続けている理由」では、「子どもが続けたいという気持ちがある」が1位に。「やめた、またはやめたい理由」では、「勉強の優先順位が高くなった」という理由に続いて、「子どもがやめたいと言った」が1位になっている。
Q1 「一番長く続いている(続いた)習い事」について、その理由を教えてください
Q2 今までに、子どもが習い事をやめた、もしくはやめたいという気持ちになったことがある場合、そのきっかけを教えてください。
参照元:小中高生の習い事に関する調査 /栄光ゼミナール公式サイト (eikoh.co.jp)
<調査概要>
調査対象:小学1年生~高校3年生の子どもを持つ栄光モニター会員(栄光ゼミナール・栄光の個別ビザビ・大学受験ナビオに通塾する子の保護者)
調査方法:インターネット調査
調査期間:2022年2月16日(水)~3月2日(水)
回答者数:408名(うち小学生保護者198名(48.5%)、中高生保護者210名(51.5%))
具体的に、「やり抜く力」とはどんな力を指すのだろう。中竹さんによれば、それは、「忍耐力」など1つの力ではなく、複数の要素から構成されているという。ここでは、「やり抜く力」に必要な要素と親の関わり方について、詳しく解説する。
「やり抜く力」と聞くと、親はつい子どもの意思力が重要だと思ってしまいがちだ。だが、中竹さんによると、「やり抜く力」とは、さまざまな要素が集まる「総合力」なのだという。
「子どもの意志力によるところは4分の1くらいです。そして意志力にも、『困難に立ち向かう力』と『粘る力』という2つの要素があります。
さらに、やり抜くためには『環境』も重要です。他のことに気が散りにくい『集中できる環境』。そして、孤独に1人で頑張るのではなく、誰かと一緒に頑張れる『人間関係』がポイントです」と中竹さん。
上の「習い事が続いている理由」の調査でも「子どもが続けたいという気持ちがあるから」が1位であることからもわかる通り、本人に「やりたい」という意思があることが最も重要であることは言うまでもない。
しかし、困難があっても「やり抜く」ためには、すべてを子どもの意思だけに任せるのではなく、意思が揺らぐときに、親がこれら4つの要素を意識してサポートしてあげることが必要だといえるだろう。
「困難に立ち向かう力」とは、失敗を恐れない度胸のこと。この力は筋トレと同じで、いきなりつくわけではなく、常に挑戦し、「うまくいった体験」「失敗した体験」をたくさん重ねることで、だんだんついていくもの。
だから、傍から見て多少無茶なことも、それでたとえ失敗しても、“何かに挑戦する姿勢”を称賛することが大切だ。また、このときに親の「失敗を積み重ねて成功に至ったリアルな体験」を話すと、より手助けになる。
「粘る力」をつけるためには、「先を見据える」ことが必要だ。「最初は大変だったけど、やり抜いたらうまくいった」という経験が何度もあれば、今はしんどくとも「10回続けるとうまくいくかも」と先を見据えられるようになるのだ。
ただ、子どもは過去の体験が少ないため、1つひとつの経験の「意味づけ」が必要になる。うまくいったときにただ喜ぶのではなく、「大変だったときのことを覚えてる? 今あのときのことを振り返ってどう思う?」などと問いかけ、「大変だった経験の意味」を子ども自身に考えさせることが大切だ。
「おもちゃやゲームがあったらつい遊んでしまい、習い事の練習に集中できない」といった場合は、おもちゃが見えないように箱に入れる、なるべく遠くに置き場所を作るなど、「集中できる環境」に子どもがいられるルール作りをしよう。もちろん、親が一方的にやるのではなく、子ども自身が納得することも大切に。
親はついつい、1人でも頑張れる「意志力が強い子どもに育てたい」と思いがちだが、孤独に1人で頑張るのではなく、「仲間も一緒に頑張っているから」と、お互いにモチベーションを高められる環境が重要だ。
また、親やコーチなど、常に自分のことを見てくれる人、励ましてくれる人がいることも、「やり抜く力」を伸ばす上で大きなポイントとなる。人と励まし合ったり、時には悩みを話して力を借りたりできる「人間関係」を構築できているかにも注目して見守ろう。
時々は息抜きする日も設けよう
「やり抜く力」を伸ばすためには、時々「チートデー(無礼講の日)」を設けて、家族みんなで「今日は頑張るのをお休みしよう」と息抜きをするのがおすすめ。
スポーツなら自主練習を休んだり、ダイエットならお菓子を食べてもいい。すると、子どもは「しんどいけど、また頑張ろう」とメリハリがつき、よりやり抜ける要素になるのだという。
「やり抜く力」はもちろん重要だが、一度始めたことのすべてをやり抜く必要があるわけではない。ここでは、「やり抜く力」とともに、必ず知っておきたい2つのSTEP、「立ち止まる力」「あきらめる力」について解説する。
振り返り、続けたいか否かを
問いかける時間を定期的に
「何かを始めた時に、何が何でもやり抜くことだけを強要するのは、子どもにとって良いこととはいえません。子どもが本当には望んでいないことをやり抜いても、そこに費やした長い時間は、子どもにとって幸せではないかもしれませんよね」と中竹さん。
そこで親子両方に必要なのが、「立ち止まる力」だ。立ち止まるためには、子どもが「やめたい」と言い出す前からの定期的な振り返りと、親子の対話が重要になる。
習い事を始めて1ヶ月、1年など節目節目で、「ここまで続けた感想」や「これからも本当に続けたいのか」を問いかけ、さらに続けるか続けないか、立ち止まってしっかり考える勇気を持とう。
やりたいことではないことを
続ける方がもったいない!
目次1の「習い事が続いている理由」の調査でも、「やめるのがもったいない」「続けることに価値がある」といった回答がある通り、つい親は、「それまで費やしたお金や時間、労力がもったいない」と感じてしまいがちだ。
しかし、子どもは毎日いろいろな体験をして成長していくため、「これがやりたい」と思っていても、「やはりあっちをやってみたい」と興味・関心が変わっていくもの。
「本当にやりたいことではないことを最後まで続ける方が、よほどもったいない」と中竹さんは言う。子どもにとって「実は惰性で続けている」「親が安心するから続けている」などの場合もあるので、よくよく観察し、定期的に親子で対話する時間を持つようにしよう。
「やめた時」を「本当にやりたいことを探す時」に
立ち止まって考えた上で、続けていたことを思い切ってやめる――それが「あきらめる力」だ。ただし、何か1つのことを「やめた時」は、それに代わる「本当にやりたいことを探す」タイミングと位置づけよう。そうすれば、親子両方がやめたことをネガティブにとらえずに、「前向きな一歩を踏み出した」と前向きにとらえることができる。
「長い人生の中では、さまざまなものに触れて、好奇心を持ち、『自分で本当にやり抜きたいと思うものを見つけること』の方が大事だと思うんです。ただ単に『やり抜く』だけが先走るのは少し危険だと、ぜひ認識しておいてください」と中竹さんは指摘する。
親が子どもにかけるちょっとした言葉も、意識して使えば、「やり抜く力」をサポートする大きな力になる。ここでは、中竹さんおすすめの「やり抜く力」を育てる言葉を紹介する。
「自分がこんなことをやり抜いて楽しかった、嬉しかった」という感情表現は、聞いていて気持ち良く、時に相手を勇気づけるもの。ただしこのとき、子どもがやり抜けないことを否定して、「私はできた」という文脈で語るのはNG!
また、「だから私はすごいだろう」という、自己承認欲求を感じさせるニュアンスにならないように注意しよう。
親も、ダイエットやランニングなど、「大変なことでもチャレンジしていること」を積極的に子どもに伝えよう。そうやって弱さをさらけ出した方が、「家族で一緒に頑張っている」というチーム意識、仲間意識が芽生えやすい。
さらに、自分からすると完璧に見える人物が、実は最初はこんなことがあって失敗していた……と伝えることも、人間同士の信頼関係を構築しやすいもの。あえて「しんどくて、時には失敗もする自分」を見せよう。
うまくいかないことを本人も自覚しているときは、「“今はまだ”うまくいかないんだな」と「今はまだ」をつけよう。それだけで、受け取り方は大きく変わる。「いつかは必ず成功する」と信じている姿勢が感じられるからだ。これを中竹さんは「Yet精神」と呼んでいる。
反対に、「“やっぱり”うまくいかないんだな」と「やっぱり」をつけると、信じていないニュアンスになるのでNGだ。
習い事に行くのがちょっと憂鬱そうに見えたら、「それでも行こうと思ったあなたはすごい」とまずはポジティブに肯定しよう。その上で、「行ってみてどうだったか」という本音を対話から引き出し、続けるのか、立ち止まるかを親子で一緒に考える習慣を。
家族で目標を決めて振り返る時間を持とう
「立ち止まる力」「あきらめる力」でも触れたが、家族で1日を振り返る時間を持つと、人生が大きく変わるという。簡単なやり方は、毎朝3分、家族各々にちょっとした目標を立てて言い合い、1日の最後にまた3分、結果がどうだったかを話すというスタイル。子どもはもちろん、親も毎日を意図を持って生き、充実した人生を送るための重要な要素となる。
文:笹間 聖子
FQ Kids VOL.14(2023年春号)より転載
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