2022.04.01
2021.10.29
2020.04.24
パースを選んだ理由は、幼少時に住んでいたから。両親からいいところだと聞いていたし、調べてみるとオーストラリアの教育が我が家の子供たちには合っていそうだと判断しました。
厳しい受験がなく、子供時代を日本よりものんびりと過ごせる代わりに、大学ではしっかり勉強しないと卒業できません。加えて、多文化共生教育と、18歳の春で全てが決まるわけではないシステムにも共感しました。
西オーストラリア州の州都であるパースは人口約200万人、日本との時差は1時間。物価が高いのが悩みの種ですが、生活必需品は10%の消費税の対象外なので、極力外食を避けるなど工夫して節約しています。
オーストラリアでも教育熱心な親たちはこぞって子供を私立に入れます。でも学費がとてつもなく高いので、うちは無理。息子たちは公立のハイスクールに通っています。
私たち夫婦が大事にしているのは「コアを押さえて、状況に応じて最善の選択をする」ということ。具体的にいうと我が家の場合は、将来子供たちがどこで生きるにしろ、英語力と、多様性を受容する力が必須であるという認識で一致しています。
それをどのような形で与えるかは、その時の状況に応じて最善の選択をしようという方針です。「あの学校に入れる」と決めて、そこに向かってまっしぐらというのとは違うやり方です。
今回のコロナ危機でも明らかなように、英語で情報にアクセスできるのとそうでないのとでは、見える世界が全く違ってしまいます。一歩日本を出れば私たちはマイノリティで、アジア系ゆえに不利になる場面も少なくありません。
それでもなお、英語ができれば、日本語だけで生きていくよりは選択肢が増えます。日本は先進国ですが、今後国力が劇的に増大することは想像し難く、若者を養えるだけの余力がどれほどあるのか、わかりません。
また、従来型の日本の教育が、日本以外の場所でどれほど通用するのか、あるいは今後日本で起きる新たな変化にどれほど対応できるのかも未知数です。
2019年の東京大学の入学式祝辞で上野千鶴子さんは「あなた方には、東大ブランドがまったく通用しない世界でも、どんな環境でも、どんな世界でも、たとえ難民になってでも、生きていける知を身につけてもらいたい」と述べました。
“東大ブランド”はいろいろな言葉に置き換えることができます。そして“たとえ難民になってでも”はものの例えではなく、現実にあり得ることです。
移民や難民を受け入れているオーストラリアには、母国で高い専門性のある仕事についていた人たちが、英語の壁ゆえに全く異なる仕事をして生きていかねばならない現実があります。
そういう人たちに国が英語の教育支援をしているのは素晴らしいですが、現実は厳しい。未知の環境で生き延びるには、語学力とIT対応力の二本柱に加えて、新しい環境や多様性に順応する力も不可欠です。
もちろん、そうした力は海外に移住せずとも、日本で学びながら身につけることができます。どこで/どの学校でではなく、何を/どのようにして学ぶかが重要です。状況に応じて最善の選択をすることの繰り返しですね。
コロナ後の世界は以前とは変わるはず。気候危機も深刻です。そんな時代の子育てでは、子供たちに“何が起きようとも地球のどこかで生きていける力”をつけさせることが必要なのだと思います。
大げさだって? いえいえ、去年の今頃は、こうして全世界が共通の危機に瀕することになるなんて想像もつかなかったでしょう?
人生は何が起きるかわからない。子育ては、我が子を予測不能な未来へと送り出す難事業なのです。
小島慶子(こじま・けいこ)
エッセイスト、タレント。東京大学大学院情報学環客員研究員。昭和女子大学現代ビジネス研究所特別研究員、NPO法人キッズドアアドバイザー。1972年オーストラリア生まれ。95年学習院大学卒業後、TBS入社。アナウンサーとしてテレビ、ラジオに出演。99年、第36回ギャラクシーDJパーソナリティ賞受賞。2010年に独立後は各メディア出演、講演、執筆など幅広く活動。14年、オーストラリア、パースに教育移住。自身は日本で働きながら、夫と息子たちが暮らすオーストラリアと往き来する生活。著書『仕事と子育てが大変すぎてリアルに泣いているママたちへ! (日経DUALの本)』、他多数。
オフィシャルサイト
Twitter:@account_kkojima
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