2024.02.21
2024.03.29
2020.02.17
あなたははもう、子供へのSTEM教育を始めているだろうか。STEMとは、科学・数学・技術領域を横断的に学ぶ教育方針だ。
今や世の中は、スマホアプリを用いたタクシー配車サービス「Uber」、金融サービスと情報技術が結びついた「FinTech(フィンテック)」「Airbnb(エアビーアンドビー)」など、テクノロジーを活用した新しいビジネスモデルが次々と誕生し、技術革新による破壊的イノベーションが加速度的に進む世界が構築されている。
経営コンサルタントで起業家の大前研一氏は、これを見えない経済大陸「デジタル新大陸(デジタルコンチネント)」と呼び、「いまビジネスマンに必要なのは、それぞれのテクノロジーのつながりを俯瞰する視点である」と著書『テクノロジー4.0 「つながり」から生まれる新しいビジネスモデル』(KADOKAWA刊)で述べている。いまやITの恩恵を受けられる人と受けられない人との間には大きな経済格差と情報格差が生まれているのだ。
STEM教育の本質は、科学技術やIT技術を学ぶことを通じ、自ら学び、自ら理解していく自発性・創造性・判断力・問題解決能力といった21世紀を生き抜くために必要な諸々の能力を高めること。
これまでように子供たちが教師から一方的に知識や情報を「受ける」のではなく、自らが学びの主体となって能動的に学習するアクティブラーニングへと教育現場は大きく変わってきている。
そこで今回、日本で初めてSTEM教育スクールを開設した先駆者にして、プログラミング教育における公立小学校への導入実績ナンバーワンの「STEMON(ステモン)」を運営する株式会社ヴィリングの代表・中村一彰氏にお話を伺った。
STEMは、Science(科学)、Technology(技術)、Engineering(工学)、Mathematics(数学)の4つの教育分野の総称。発祥はアメリカ。米国では幼稚園から高校までのSTEM教育の向上のため年間30億ドルの予算が投じられた。アジアでの先進国は、科学的応用力や数学的応用力などで世界1位にもなったシンガポール。
STEM教育が注目されているのは
「高収入が見込まれる」から
US60,000$を超える高所得者がSTEM分野の卒業生。米国では政府主導でSTEM教育が普及し、民間では2011年米国IBMが教育格差是正に向けたSTEM教育に焦点を当てた教育機関P-TECHを立ち上げ、IT業界へのエントリーレベルの職に就ける資格を無償で身に付けさせる。日本でも平成29年版「労働経済白書」で理系の中でも特にSTEM人材がAIに代替される可能性が極めて低いと報告している。
日本は科学教育が進んでいるが
「男女に決定的な格差」がある
OECDが実施した2015年のPISA(学習到達度調査)の結果によると、OECD諸国の中で日本は科学分野でトップスコアを取得した一方で女性のスコアが低くく、その差は先進国で4番目。男女間に大きな差が出た。要因の一つは「理系は男性、人文系は女性」という根強いジェンダーバイアスによるもの。STEM系学位取得者の割合も、男子はトップクラス、女子はワースト3。先進国のサービス系学部の女子の割合は日本は8割。
「STEM教育といっても、特別な場所でお金をかけて特別な教育をするものではなく、実はお絵描きや料理、楽器演奏などからでもSTEM的な学びは得られます。論理的に考えるとか、自分が作ったものを表現するとか、先を見通せなくてもとにかく手を動かそうとする初動力とか、我々が考えるSTEM教育の最終目的は“自己肯定感”を育むことにあります。環境さえ整えれば、生活の中で子供は自ら主体的に学んでいきます。その根本となるのが6つのCです」(中村氏)。
①Contents(コンテンツ)
知識・情報を水平方向に広く浅く繋げる。STEMONでは、テコや貨車の原理など物の見方のヒントを簡単に与えたら、あとは手を動かしながら自ら発見する自由創作活動の時間とする。
②Collaboration(コラボレーション)
集団での学び合い。自分が作るものと友だちが作るものが違ったり、誰かのアイデアを参考にしたりしながらマネて作ることで多様性とグローバルな視点の土台を養う。
③Communication(コミュニケーション)
自分の伝えたいことを友だちに「正確に」「効果的に」伝える能力&友だちが伝えたいことや意図を理解する能力。
④Confidence(自信)
「とりあえずやってみよう」と手を動かす初動力が身につき、失敗しても何度でも粘り強く取り組み「自分は困難を乗り切れる」という自信に繋がる。
⑤Create(創造力)
作ることで学ぶ。お手本通り、説明書通り作るのではなく「自由制作」が基本。作りながら新しい知識を得て脳内に構築する(コンストラクショニズム)。
⑥Critical Thinking(批判的思考)
「こうあらねば」という固定概念を疑う思考。子供は疑うベースがないので、どんなに風変わりなエレベーターを作ってもOK。「これがぼくのエレベーターだ」という自信に繋げる。
親として心がけたいことは、知識(コンテンツ)を木に例えるなら、上へ高く伸ばそうとするよりも、横へ横へ枝を茂らせ根を伸ばすようにすること。「足し算の次は引き算へ、この単元ができたから次の単元へ、といったような上へ伸ばすやり方では、子供の思考は広がりません」。
つまり垂直ではなく水平方向へと広げるやり方だ。そのほうが思考が硬直化せず、枠にも捕らわれず、様々な立場・時間など視点を変えて自由にアイデアを生み出せるようになるのだ。
STEMON代表 中村 一彰さん2015年4月からアフタースクールコンテンツ「STEMON」 として展開し、学習塾などとの提携も含めて全国50か所で開催。8歳と6歳の2人の娘のパパ。公立小学校5年生に理科を教えていた経歴を持つ。「創ることで学ぶ」コンストラクショニズムをベースとした独自プログラムを展開。
文:脇谷美佳子
FQ JAPAN VOL.49より転載
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