2022.12.26
2021.06.05
2022.04.25
>>関連記事【非認知能力を身につけると学力も伸びる!? ポイントは乳幼児期の「親の働きかけ」】
学力に密接に関わるもっとも大切な非認知能力のひとつとして、増田先生が真っ先に挙げるのが、“思いを伝える力”だ。
「非認知能力に含まれるものとして、思いを伝える力、つまり、言語能力こそが、一番大きな影響を持っていると考えています。言語能力が育てば、いら立ちや嬉しさなど、自分の気持ちをしっかり言語化することができます。
暴力行為に走ってしまう子供の多くは、自分の気持ちを伝えるのが上手ではありません。言語能力を高めることで、あらゆるトラブルの原因が解消されることも非常に多いです。
言語能力とは、成長に必要ないろいろな能力を身につけるための一番基礎的な力。言語能力が育たなければ、学力は上がりません。また、言語能力を伸ばすことが、ほかの非認知能力を育てることにも繋がっていきます」。
一般的に「読み・書き」能力は、認知能力として語られることが多い。一方で、増田先生の言う言語能力や思いを伝える力とは、もっと広義なものを指している。相手の意図や関係性を踏まえ、自分の思いを言語化し、相手との関係を築き、社会性を育む。
それは、コミュニケーション能力、優しさや思いやり、想像力といったさまざまな非認知能力と、論理的に考える認知能力とが有機的に絡み合い、成り立つ能力のことだ。
増田先生の研究調査のなかで、こんなケースがあったという。
「非常に感情的で、暴力的だった小学2年生の8歳の男の子がいました。『学習障がいではないか』と親御さんが相談にきたので、文構造について学習できるサイコロ文法遊び(※「どうやって伸ばす?」を参照)を行うようにしました。
すると、途中からサイコロを自分で振るようになって、能動的に遊び方を発展させていきました。続けると、大きな変化があったんです。感情のコントロールがとても上手になり、暴力行為もなくなった。文構造を学ぶことで、自分の気持ちが伝えられるようになり、感情の整理やコントロールができるようになったのです」。
非認知能力は、社会と関わり、生きていくための力とも言われるが、こうした事例からも、言語能力はまさにその力を養う礎になる能力だといえるだろう。
もちろん、学力への好影響も絶大だが、それは単純に国語などの文系教科だけに限らない。小学校で必修化されたプログラミング教育においても、言語能力が鍵となるという。
「プログラミングは理数系の教科と思われがちですが、一番関係するのは言語能力。言語能力が高い人の方が、プログラム言語を習得する能力が高いという結果がたくさん出ています。学習の理解には、言語能力が必要なんです」。
では、幼少期から思いを伝える力を養うにはどうしたらいいのだろう。増田先生は、「もっとも大切なのは、子供の話を聞いてあげること」だと話す。
「とにかく、いっぱい話をすること。子供に話しかけられたら、忙しくてもまずは子供の思いを受け止めてあげることが大事。そして、子供の言葉をどんどん増やすように促します。どんな内容であれ『それ違うでしょ』と先回りして否定をしないこと。言っても無駄だなと感じたら、子供は話さなくなります。
それに話を聞いてもらえていない子供は、先生の話も聞けません。子供と丁寧に関わり、子供の話を聞いて、家庭内でも子供の意志で生活や学習の習慣を決めていくこと。そうすることが非認知能力の向上にも学力の向上にも繋がっていくはずです」。
言葉で伝える力
どうやって伸ばす?
サイコロ文法遊び
サイコロを使って「いつ・誰が・何をした」を表現する遊び。青が「いつ」、赤が「誰が」、黄が「何をした」にして、絵と言葉を考え合う。何が出るか分からないため、おもしろい文章になる。
「日本語の一番の難しさは助詞。その助詞を埋めさせることで、日本語の特徴を覚えていくこともできます」。下のサイコロの場合は、「プールのとき」「だるまさんが」「おならした」という文章ができ、子供たちが大喜び。
<広がる遊び>
1 組みたて方を変える
同じサイコロの目でも、組みたて方によっては強調文になる。上は、「おまつりで」「わたしが」「笑った」。下は、「笑った」「わたしが」「おまつりで」。
2 数を競う
普通のサイコロも併用して、言葉の数とサイコロの目を競う遊びもできる。「とうもろこし」なら6、サイコロの数字は3なので、とうもろこしの勝ち。一音一文字という日本語の特徴を学ばせることができる。
おはなしづくり
1人ひとりが思い思いに描いた絵をつなぎあわせながら行う「おはなしづくり」。言語能力はもちろん、友達と話し合いをしながら進めることで創造性、協調性、豊かな感性と表現力など、さまざまな非認知能力を養える。
①子供1人ひとりが折り紙で、同じ動物や虫などを作成する。
②作った折り紙の動物などを画用紙に貼り、1人ひとりが好きな背景を描いて一場面を仕上げる。
③4人グループになり、それぞれが描いた絵を見せて、ひとつながりの話になるように話し合う。
④グループごとに全員の前で順に発表する
増田修治先生
白梅学園大学子ども学部子ども学科教授。1958年生まれ。埼玉大学教育学部卒。小学校教諭として28年間勤務経験を持つ。初等教育の教員育成に携わるとともに、保育・幼児教育・小学校教育における子どもの発達や学力、いじめなど多様な課題に取り組んでいる。著書に、『笑って伸ばす子どもの力』(主婦の友社)、『「ホンネ」が響き合う教室』(ミネルヴァ書房)、『幼児期の終わりまでに育ってほしい10の姿を育む保育実践32』(黎明書房)など多数。
文:曽田夕紀子
イラスト:岡本倫幸
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