2022.04.28
2022.05.02
2022.03.28
>>前編はコチラ
「好奇心にフタをしない」という話(前編)で思い出すことがあります。私が高校生だった頃、ある日家に帰ったら母が「今日、壁掛け時計が落ちて、動かなくなっちゃった」と私に言いました。父が直そうとしたらしいのですが、直らなかったと。
そこで私はまず、その時計が壁にどのように吊るされていたのか現場検証をしました。ネジ1本で引っかけてありました。次に、落下したら時計のどこの部分が床に当たるのかを分析しました。するとその場所に、棒が1本出ていることに気づきました。針の向きを微妙に調整するための棒です。真下に落下した場合、その棒部分が最初に床に当たることは明白です。
私は時計を裏返して棒の奥を辿り、その力はどこに向かうのか? どのようにぶつかって、その力はこっちに移動して、それから、それから……と辿っていきました。
すると、ある箇所がほんのちょっとだけ曲がっていることに気づきました。「あっ」の瞬間です。「これだ!」と。その部分をドライバーで0.5mmくらい戻すと、秒針がみごと「カチ、カチ、カチ、カチ」と動き始めました。あの「あっ」のひらめきと時計が動き始めた瞬間は、一生忘れられません。
父親が直せなかったものを直すなんて自分には無理だと思ってしまえば、その瞬間には出会えなかった。でも、時計を直すことに対する私の好奇心のフタは開いていた。父親ができなかったことを自分がやることで対等になれる! みたいな、男同士の独特な意識も働いたんでしょうね。年頃でしたから、子供扱いされたくない気持ちもありました。時計を直した時、父親はニコッと笑っていましたが、悔しかったと思います。
このような子供の好奇心を掻き立てる出来事は、日常いつどこで起きるかわかりません。だからこそ「あ」の瞬間を見逃さずにいてあげてほしいです。
例えば転んでしまった時にも、「転ぶとはどういうこと?」と考える子供もいるかもしれない。自分の歩き方がいけないのか、靴か、石ころの場所か、段差か、それとも複合的なものか。転んだ原因も、徹底的に分析したら必ず理由があります。
「そうか、そういう理由だったんだ」なんて、すぐに答えは出ません。でも子供だって、悶々といろいろ想像して「わからない」から思考を深めていく。そしてそのデザイン的思考の先で「わかった!」に出会った時の感動は、とても大切な経験となるはずです。
子供の好奇心が何に役立って、何を得られるのかといったことは、親があまり理屈で考える必要はありません。子供は環境を与えられれば、勝手に学んで、勝手に自分のものにしていきますから。
佐藤卓(さとう・たく)
グラフィックデザイナー。1955年東京生まれ。1981年東京藝術大学大学院修了後、株式会社電通を経て、1984年佐藤卓デザイン事務所(現:株式会社TSDO)設立。東京ミッドタウン内「21_21 DESIGN SIGHT」館長兼ディレクター。NHK Eテレ「にほんごであそぼ」のアートディレクター、「デザインあ」総合指導を担当。「ロッテ キシリトールガム」「明治おいしい牛乳」のパッケージデザイン、「PLEATS PLEASE ISSEY MIYAKE」のグラフィックデザイン、「金沢21世紀美術館」「国立科学博物館」のシンボルマークを手掛けるなど幅広く活動。
文:脇谷美佳子
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