2020.05.29
2020.09.22
2024.02.09
僕は普段、芸術大学の客員教授として芸術教育に関わっているのですが、実はシュタイナー教育の教員養成講座で学んだことがあり、その学びをもとに講義を設計しています。
僕がシュタイナー教育と出会ったのは、環境活動や持続可能性についての取材を通じてでした。世界の持続可能な共同体やエコビレッジを取材する中、さまざまな方からルドルフ・シュタイナーの名前が出てきました。
環境先進国で知られるドイツではシュタイナーに学んだ人々が多いといわれています。ユングやクレー、シュヴァイツァー、ヨゼフボイス、ミヒャエル・エンデなど、さまざまな思想家、芸術家に影響を与えました。
そんなシュタイナー教育を僕が実際に学ぶきっかけとなったのは、 あるシュタイナー学校の教員との会話でした。あるとき「シュタイナー教育の目指すものはなんですか?」と聞いてみました。すると、とてもシンプルにこう答えが返ってきました。
「世界の美しさに気付くこと」
この世界は美しさに満ちている。自然の中に、生命の中に、人間の中に。その色彩や動き、フォルム、光や音、天体の動き、変化する世界、その法則や神秘、そして科学、そこから生まれる詩や文学、芸術、この世界が「美しさ」に満ちていることに気付き、その多様性の中での調和を学び、世界を圧倒的に「肯定」していくことができる人間を育てる。それこそが「教育」の目的なのだ、というのです。
僕は驚きました。自分が受けた学校教育の中で、そんなことを教えられたことはありませんでした。学校は良い成績を取って、良い学校に進学して、良い会社に就職するために、公式や歴史の問題と答えを暗記し、受験に勝ち残っていくためのもの。そんな高度成長期の受験戦争、偏差値社会の中で育ってきたからです。
僕はシュタイナー教育を学んでみようと考えました。その日から、僕の人生のテーマは「世界の美しさ探し」になったのです。
「美しいもの」といったら、何を思い浮かべるでしょうか。海や空、星、風景、音楽、人によっては「数式」や「デザイン」「詩」や「音楽」あるいは「生き方」「考え方」「たたずまい」など、さまざまに「美しさ」を発見できます。
シュタイナー教育の基本は「観察」です。花や木々、空や雲、自然の中に、その美しさを見つけ、その美しさそのものになる。そして芸術とは、まさに総合的にこの世界を感受する方法なのだなあと思ったのでした。
自然の中に行って花をスケッチし、さらにその花の変化をダンスで表現(オイリュトミー)したり、その図形を数式で表現したり、シュタイナー教育では「美しさ」の発見が「学び」のスタートになるわけです。世界はワクワクすることで満ちあふれている。僕自身が子どもになってその中に飛び込んでいきたいと思ったわけです。
ルドルフ・シュタイナー(1861年〜1925年)はオーストリアやドイツで活動した神秘思想家、哲学者、教育者です。ゲーテの自然科学論の研究者としても知られ、色彩論や自然の観察から生まれる詩的な哲学はそこから生まれました。
シュタイナーは0~18歳までの教育理論で知られていますが、実はシュタイナーの思想では、「老年学」「死生学」など、人間が一生かけて7年周期で成長していく過程が示されています。それを美学、建築、経済学、 医学、教育学、経済学、 有機農業など、多用な領域で実学化しました。
芸術と社会、そして普遍的な人間学を体系的に結びつけたこれらの思想は「人智学」と呼ばれています。
目指していたのは「社会」そのものの変容、社会進化でした。人類の種としての成長が、新たな社会を生み出していくことを提起していたとされています。
自然を学び、宇宙の法則を知ること。そして人間の成長をそこに重ね合わせるのが「人智」です。すべての子どもたちが、毎年春が来るたびに生命の目覚めを感じ、夏が来るたびに虹色の光を感じ、秋が来るたびに宇宙の豊穣を感じ、冬が来るたびに暗闇に灯る希望を感じるように。
大人たちは「LET IT BE」で、すべてを受け止め、日々の生活の中で、美しさや魂の静けさを感じられるように。それがシュタイナーの語る、普遍的な「人間」の在り方だと僕は考えます。
谷崎テトラ
1964年生まれ。放送作家、音楽プロデユーサー。ワールドシフトネットワークジャパン代表理事。環境・平和・社会貢献・フェアトレードなどをテーマにしたTV、ラジオ番組、出版などを企画・構成するかたわら、新しい価値観(パラダイムシフト)や、持続可能な社会の転換(ワールドシフト)の発信者&キュレーターとして活動中。シュタイナー教育の教員養成講座も修了。
HP:www.kanatamusic.com/tetra
FQ Kids VOL.16(2023年秋号)より転載
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