周囲とのつながりをどう保つ? 楽しさや痛みを仲間と共有する機会が減る中で

周囲とのつながりをどう保つ? 楽しさや痛みを仲間と共有する機会が減る中で
新型コロナウイルスでリモート化が進んで分かった、生徒同士のつながりの大切さ。「開かれ」が大事なのに、外遊びが激減し、教室内に「閉ざされ」たまま教育法を云々するのは愚昧と語る、宮台真司の子育てコラム。

共同身体性のない親が増えて絶望への道を進む子供たち

オンラインの時間が増えた今、体験を通じた教育がますます重要です。ただし生徒参加型の授業「アクティブラーニング」は既に先進国では捨てられました。日本のデータでも成績を全く上げない事実が判っています。実は、授業の外で得られる態勢の方が重要です。

新型コロナウイルスでリモート化が進んで分かったのは、先生と生徒のつながりが大事なのではなく、生徒同士のつながり(集まりの構造)の方が大事であること。たとえば友だちとの外遊びです。なぜか。

それは「共同身体性」を作り上げるのに役立つからですね。

小学時代を思い出すと、ブランコの立ち乗りや座り飛びや砂場での空中回転では、優れた身体性を持つ子に憧れて、その身体性を自分の中で再現して挑戦しました。危険な遊びで友人が怪我をすれば、その痛みを自分事として体験して動転しながら親を呼んだりした。

この共同身体性が言外・法外・損得外でのシンクロを可能にします。共同身体性を欠けば言葉の自動機械・法の奴隷・損得マシーンに育ちます。

1980年代からの地域の新住民化で、地域の信頼が消えたことと、安心・安全が第一になったことで、外遊びが激減します。そこで育った子が親になるのがゼロ年代。言葉の自動機械・法の奴隷・損得マシーンつまりクズが、拡大再生産中です。若者の性的退却が進んだだけでなく、セックスもマニュアル化し、相手の表情や体温などの身体性に自動的に反応する能力が劇的に低下しました。

そうなるとセックスが忘我の眩暈ではなくなり「二人オナニー」に近づく。相対的な快楽に過ぎなくなるので「スマホゲームの方がいいや」となる。恋愛できなくなるから結婚しなくなり、結婚してもセックスできなくなる。だから少子化が止まることはありません。

「閉ざされ」から「開かれ」へ親は自分の劣化を自覚しよう


新型コロナの在宅化で、僕の息子や娘たちはスマホゲーム「マインクラフト」に興じる時間が増えました。目的が決まっていないクリエイティブなゲームなので与えたのですが、「虫取りに行こうよ」と誘うと「いやだよ。パパ1人で行ったら?」と言われる始末です。

ところが実際に虫が沢山いる場所に騙して連れていくと、バンバン虫を取り始める。「やっぱ虫取り好きじゃん」と言うと、息子が「そうじゃなくて体が勝手に動いちゃう」と答える。環境からの呼び掛けで体が自動的に反応する事態を「アフォーダンス」と言います。

これは「人間中心主義の非人間性、脱人間中心主義の人間性」に関わります。人間中心主義が「閉ざされ」を、脱人間中心主義が「開かれ」を意味するからです。最近の学問界隈や映画界隈(僕は映画批評家ですが)は「閉ざされ/開かれ」が中心的なモチーフです。

これからは、自分で選択しろと教えられた子供は選択に「閉ざされ」ます。ハイテク化で子供が仮想現実に「閉ざされ」ます。「閉ざされ」によって環境から呼び掛けられる能力が消えます。セックスで相手の身体から呼び掛けられる力も消え、御粗末になります。

言葉の自動機械・法の奴隷・損得マシーンのクズが授業にアクティブに参加しても「閉ざされ」ているので何も蓄積されない。「開かれ」た子供は、本を読んだり映画を見たりするだけで物凄く吸収できます。全てを「閉ざされ/開かれ」の観点から見直すべきです。

親も教師も教室内に「閉ざされ」たまま教育法を云々するのは愚昧です。その前に子供が育つプロセスを吟味すべきです。赤子のうちはヒトにも狼にも日本人にも米国人にもなり得ますが、言語を覚えるにつれ、ヒトへと「閉ざされ」、日本人へと「閉ざされ」ます。

むろん「閉ざされ」ないと社会を生きられません。でも「閉ざされ」で幸せが逃げます。だから、「閉ざされ」の界隈に「なりすまし pretending」で関わり、時々その外側に出て、ヒトならぬ何か、日本人ならぬ誰かへの「なりきり becoming」の時間を持つのが大切です。

仲間の愉悦を自分の愉悦とし、仲間の痛みを自分の痛みとする、共同身体性が与える共通感覚は「なりきり」の力で、これを回復させるのが拙著『ウンコのおじさん』のプロジェクト。外遊び環境が乏しいので、①外遊びに加え、②コンテンツを武器として使います。申し上げた通り、共同身体性の喪失は80年代から。

今の親は言葉の自動機械・法の奴隷・損得マシーンのクズ。子供を「閉ざされ」から「開かれ」にもっていく能力がない。だから親は、その能力を持つ「ウンコのおじさん」、例えば僕に、委ねる必要があるのです。

「ウンコのおじさん」は共同身体性が豊かです。共同身体性が豊かな人は他人を巻き込むカリスマ性が強い。昔の子供界隈でいえば「ガキ大将」みたいな存在。ケンカが強いだけでなく、危険に飛び込むときも「彼についていこう」と思わせる魅力があります。何かあっても他人の痛みを自分事として感じてくれるリーダーです。

ただそうした人の数は世代交代とともに減りました。クズな親は子供を他人に委ねることすらできない。クズな親はどうにもできないから、クズを子供に感染させないようにする必要がある。

そのためには、まず親に「自分の劣化」を自覚させる必要があり、次に子供を抱え込もうとするクズ親から子供を奪還する必要があります。幸いインターネットをツールとして利用できます。それが僕が進める「ウンコのおじさん」プロジェクトの本質です。

PROFILE

宮台真司/SHINJI MIYADAI

1959年宮城県生まれ。社会学者。映画批評家。首都大学東京教授。公共政策プラットフォーム研究評議員。東京大学大学院人文科学研究科博士課程修了(社会学博士)。『日本の難点』(幻冬舎)、『14歳からの社会学』(世界文化社)など著作多数。


FQ Kids VOL.03(2020年夏号)より転載

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