
2023.06.20
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2025.06.27
乳児期から幼児期は脳が発達する大事な時期。周囲を見たり、音を聞いたり、歩けるようになって新しい人と出会ったりといったさまざまな刺激を受けることで、脳の神経細胞同士は枝のようにつながり、複雑に発達していく。
脳細胞のネットワークは20歳を過ぎても発達するとはいえ、子どもの可能性を広げるためには、この乳幼児期にバランスのよい脳をつくり、脳全体を活性化させることが大切。
脳神経細胞同士がつながる中、得意な能力の「枝振り」は太く成長するが、苦手な能力の「枝振り」は細いままなので、神経ネットワークの枝が通っていない部位を減らし、偏りのないネットワークをつくることが必要となる。弱点の少ない脳を育てることで、さまざまな能力を身につける下地がつくられるのだ。
「脳全体を活性化させるためには、乳幼児期に脳の視覚系と運動系の神経を相互に結びつけることが大切」と語るのは、小児科の専門医として発達脳科学を研究する加藤俊徳先生。
脳内に存在する1千億個を超える神経細胞は、同じような働きをする細胞同士が固まっている。主に情報収集や理解などを担当するインプット系の神経細胞と、思考や行動などを担うアウトプット系の神経細胞の連携がスムーズになれば、バランスよい脳の発達が期待できるのだとか。
加藤先生は、この中でも特に聴覚系の神経細胞に注目。「聞く」ことによって受ける情報は脳全体を刺激し、脳全体の活性化へとつながっていくと考えている。
「幼少期に“聞く力”を鍛えることは、記憶力や言語能力を伸ばすのにも効果的。例えば日常的に音楽を聞く習慣をつけるだけでも、“聞く力”は伸びていくはずです」。
● 聞く力を育てる
日常的にラジオや音楽をかけて、「聞く」習慣を身につける
● たくさん歩いて運動能力を高める
長く歩ける子どもは「長く聞く」「長く見る」能力も高くなる
● 子どもの話をじっくり聞く
話す能力を高めることで、自分で考える力も育つ
脳の神経細胞は、似た機能や働きを持つ細胞同士で集まり、区画を形成している。右脳と左脳でそれぞれ60、合計120の機能別区画が存在しており、さらにこれを大まかな系統で8つのエリアに分けたものを、加藤先生は「脳番地」と名付けている。
1「思考系」脳番地
2「感情系」脳番地
3「伝達系」脳番地
4「運動系」脳番地
5「聴覚系」脳番地
6「記憶系」脳番地
7「理解系」脳番地
8「視覚系」脳番地
それぞれの「脳番地」は個別に機能している訳ではなく、緻密なネットワークを構成しており、そこでは外部からの刺激(情報)の受け渡しや情報処理が行われている。
脳全体を活性化させるために、「聞く力」に注目した加藤先生。その理由は、聴覚系の刺激を受けることで、複数の脳番地が動きだす脳内ネットワークにある。
「耳で聞いた音(刺激)はまず聴覚系の脳番地(⑤)に入り、そこから理解系(⑦)と記憶系(⑥)、さらに思考系(①)や伝達系(③)、感情系(②)へと伝わっていきます」と加藤先生。耳から側頭葉へ、脳内を一巡するように伝わる聴覚系情報に対し、目から後頭部へと伝わる視覚系情報の流れは、短くてシンプル。聴覚系の情報が脳全体を活性化させる理由がここにある。
耳から得た情報は、⑤聴覚系脳番地から①思考系や③伝達系番地へと脳内をぐるりとまわって処理される。
また、脳は左脳と右脳に分かれている。左脳側の聴覚系脳番地は、言語を正しく聞き取り、聞いた内容を理解する機能を担当。右脳側の聴覚系脳番地は、音に対して注意を向け、集中して聞く機能を担っている。どちらも人の言葉に耳を傾けたり、情報を正確に理解するためには欠かせない機能だ。
聴覚系脳番地は記憶系脳番地とも密接な関係にある。「聞く力」を育てることは、理解力や記憶力の発達にもつながっていくのである。
コミュニケーションの基本は、まず相手の話を聞き(聴覚系)、理解した上で(理解系)、考え、自分の気持ちを相手に伝える(伝達系)こと。「聴覚系」→「理解系」→「伝達系」への脳番地の流れは一連のループとなっており、「聞く力」を育てることが、このルート全体を強化することになる。「高いコミュニケーション能力は豊かな人間関係をつくり、自己肯定感を高めるためにも欠かせません」と加藤先生。
「聞く力」を育てるためには、日常的に音に触れるのが効果的。普段からラジオなどでいろんな音楽を流したり、乳幼児期であれば音の鳴るおもちゃで遊んだりと、音に触れる生活を送ることで「聞く力」は育っていく。ベーシックな音楽をしっかり聞きながら、結果に焦らず、時間をかけて育てることが大切だ。
「聞く力」を育てるのにさらにおすすめなのが、楽器の演奏。楽器の音を聞いたり、自分の歌を聞くことで聴覚系脳番地を育てるのはもちろん、表現することで伝達系、運動系といったアウトプット系の脳番地も発達していく。
「8歳ぐらいまでの子どもは、インプット系の脳番地とアウトプット系の脳番地のつながりがまだ未発達。楽器の演奏は、この2つの脳番地のつながりを強化する効果があります」と加藤先生。
例えば楽譜を見て指を動かし、周りの演奏者らと息を合わせながら演奏することで、インプット系・アウトプット系の回路を強化。すべての脳番地を刺激し、脳全体を活性化させる結果となる。
参考資料:『「音楽する」は脳に効く 弾く・聴く・歌うで一生アタマは進化する』(学研プラス 音楽事業室)
親子で一緒に歌を歌うのは、子どもにとって気軽に音楽に親しむことができる時間。幼稚園や保育園、小学校で習ってきた歌を歌うことが、記憶系脳番地のトレーニングにもなる。
特別に歌を歌う時間を設ける必要はなく、例えば一緒にお風呂に入っている時や、車などで移動している時に気軽に取り組めばOK。また親子で息を合わせ、一緒に歌うことは、コミュニケーション能力を高める効果もある。
身近に音楽が流れる環境は、想像以上に幼い子どもの脳を活性化させる。ただし、テレビやタブレットで音楽番組を流すと、どうしても視覚系の刺激が強くなってしまうため、聴覚系脳番地を強化したいなら、ラジオなどで音楽を流すのが効果的。
日常的に音と触れ合う環境を作り、音楽を聞く習慣を身につけることによって、じっくり時間をかけて聴覚系脳番地をトレーニングすることができるようになる。
音と気軽に触れ合う機会として、音が鳴るおもちゃで遊ばせるのもおすすめ。おもちゃで遊びながら音を鳴らすことは、聴覚系脳番地と運動系脳番地を同時に刺激することにもつながり、2つの脳番地の回路を活性化させる効果も期待できる。
まだ本格的な楽器の演奏が難しい乳幼児期なら、太鼓やタンバリンなど楽器を模したおもちゃや、市販の電子音が鳴るおもちゃなどで、いろんな音を楽しむ機会をつくってあげよう。
ひと言で音楽といっても、歌詞のある童謡やポップス、歌謡曲などは左脳にある聴覚系脳番地を刺激するのに対し、クラシックやジャズといった歌詞のない音楽は、右脳系の脳番地を活性化させる。脳全体をバランスよく活性化させるためには、ひとつのジャンルに限らず、いろんな音楽に日常的に触れさせ、多彩な聴覚系の刺激を与えることが重要だ。
TVや動画なら気軽に音楽に触れることもできるが、スピーカーなどを通さない生の音楽はより脳に届きやすく、脳の活性化にはさらに効果的。コンサートやライブはもちろん、近所のお祭りなどの太鼓などの音に触れる機会でも、その効果は期待できる。
奏者が楽器を演奏する様子を目で見て、演奏の音を耳で受けることは、視覚系・聴覚系の情報を同時に受けることとなり、子どもの脳にとってバランスのよい刺激となるだろう。
脳内科医
加藤俊徳先生
小児科専門医。加藤プラチナクリニック院長。株式会社「脳の学校」代表。昭和大学客員教授。MRI脳画像診断の専門家であり、加藤式MRI脳画像法を用いて1万人以上を診断・治療。「脳活性助詞強調おんどく法」を提唱している。
子どもの脳の発達についてもっと知りたい方には、今回お話を伺った加藤俊徳先生の著書『男の子は「脳の聴く力」を育てなさい』『女の子は「脳の見る力」を育てなさい』(青春出版社)がおすすめ!
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音楽体験3選
親子で一緒に音楽体験を楽しむためにおすすめのサービス、イベント、施設などを厳選して紹介!
0歳~10代
ソニー⾳楽財団・サントリー芸術財団サントリーホール
2025年5月3~6日の4日間、ソニー⾳楽財団とサントリー芸術財団サントリーホールが、子どもに向けた世界最大規模の本格的クラシック⾳楽の祭典をサントリーホール(東京都港区)およびその周辺で開催。0歳~10代まで年齢に合わせた多数のコンサートを楽しめる。
公式サイト:www.kofes.jp
0歳~大人
ヤマハ
横浜に多彩な機能を持つ体験型のブランドショップ「ヤマハミュージック 横浜みなとみらい」が誕生。さまざまな人が五感で音楽や楽器を楽しめる体験型の施設だ。最新技術を使った演奏体験や音楽没入体験も。
公式サイト:retailing.jp.yamaha.com/shop/yokohama-minatomirai
3歳~大人
オール・コネクション
現役プロミュージシャンや現役の保育士から音楽を習えるオンライン音楽教室。80名以上の講師が、リトミック、歌、楽器など300種類以上の多彩なレッスンを提供する。お試しも簡単にできるので、子どもに合うジャンル探しにもぴったり。
公式サイト:www.allconne.jp/wte/kids
文:藤城明子
FQ Kids VOL.20(2024年秋号)より転載