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2020.08.17
「大切なことは、知識ではありません。図鑑に載っている生き物の名前を覚えるより、自然を実際に見て、手で触れ、匂いをかぎ、五感を使って自ら発見し、感動することです。そして、好きになることです。好きなものは誰でも大切にするからです」。
そう話してくれたのは、環境先進国スウェーデン在住の高見幸子さん。幼児のための自然環境教育「森のムッレ教室」を80年代に日本へいち早く紹介した女性だ。
北欧には古くから「アッレマンスレッテン」という自然享受権が認められている。
「アッレマンスレッテンというのは、自然はみんなのものだから、みんなが恩恵を受ける権利があるというものです。かつて土地を持たない貧しい人々も、所有者が採取した後に残るベリーやキノコを分け合ったのが始まりです」。
スウェーデンでは、自然を含む国全体が宿泊地としてAirbnbに登録され、自然保護区などの場所を除いて、ほとんどの場所でキャンプやサイクリング、ベリーやキノコを土地の所有者に対価を支払わずに採ることができる。
しかし、その代わり、所有者と自然に配慮することが当然の義務になっている。自然享受権の権利と義務は、森のムッレ教室が代表するように、伝統的に幼児教育で教えられている。
ではここで、スウェーデンの就学前学校における自然の位置づけを振り返っておこう。1900年代初期に幼児教育で主流になっていたのは、世界で初めて幼稚園を創設し、現在の“遊びを中心とする幼児教育”の礎を築いた人物、フレーベルの思想だった。
その後、保育指導文書において「自然」は常に大きな位置を占め、現在の「就学前学校カリキュラム」では、環境問題に重きが置かれている。その中の「目標と指針」の項目には次のように記されている。
・就学前学校は環境問題や自然保護問題を重視しなければならない
・いろいろな自然のサイクルや、人間と自然と社会がどのように影響しあっているのかについて感心と理解を育てる。
・自然科学について、問題を提起しあったり、識別、調査したり、言語化する能力を育てる。
環境活動家グレタ・トゥーンベリさんはスウェーデン人だが、こういった幼児期からの自然環境教育が基盤にあるのは間違いない。
「『森のムッレ教室』は、森の妖精・ムッレからエコロジー(生物界の共生)を学び、自分も自然の一部で、自然を大切にしなければならないことを学びます」。
今、自然環境が子供の精神発達に影響を与えるとの報告が相次いでいる。札幌医科大学神経精神医学講座准教授の鵜飼渉氏によると、自然と触れ合うことによって、ストレス耐性・落ち着き・寛容さの増強から、心の病の発症予防に至るまで、様々な効果を示す報告が世界中で続いているという。
森のムッレ教室は、子供たちは環境意識だけでなく、健康な心も育てているのかもしれない。
森のムッレ教室は1957年に始まり、これまで200万人以上の子供たちが参加した。ムッレは森の妖精。「子供たちはムッレからエコロジー(生物界の共生)を学び、自分も自然の一部で、自然を大切にしなければならないことを学びます。そうすることで、大人になれば持続可能な社会に貢献できると考えています。スウェーデンの先進的な環境政策を担っている人たちは、きっと森でムッレに出会ったことがあるでしょう」と高見さん。
高見幸子さん
ヨスタ・フロム森のムッレ財団理事。スウェーデン在住。スウェーデンの自然環境教育などを日本に紹介し、幼児の自然環境教育「森のムッレ教室」の普及活動を支援。共訳『スウェーデンにおける野外保育のすべて』(新評論刊)など訳書多数。
文/脇谷美佳子
FQ Kids VOL.02(2020年春号)より転載
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