2024.09.27
2023.10.03
2025.01.08
「言うことを聞いている時だけ、大好きだよ」。これは、多くの親が気づかないうちに子どもに伝えてしまっているメッセージかもしれません。
言うことをよく聞く時には「えらいね」「よくできたね」とほめて愛情を注ぎ、こちらの都合に合わなければ「置いていくからね」と愛情を引っ込める。親の愛情が無条件なのか条件つきなのかは、受け手である子どもの自己肯定感に大きな影響を与えるため、私たちが意識する必要があるのです。
条件つき子育てとは、子どもの行動や成果に応じて親が愛情を示す育て方です。例えば、親の期待に応えた時にだけ子どもを褒めたり、良い成績を取ったらおもちゃを買ってあげる。逆に親の期待通りではない時は罰を与えたり、わがままを言ったら無視したりする、といったことです。
多くの場合、親御さんがお子さんを心から愛しているのは大前提ですが、子どもからすると、親の愛情はその言葉や行動でしか測れません。
ですから、特定の行動をしたときだけ親が愛情を示したり、引っ込めたりすると、子どもは「僕の行動や成果によって愛情が変わる」と認識します。親の意図とは裏腹に、子どもは「いい子じゃなければ愛してもらえない」と感じてしまうのです。
一方、無条件子育てとは、子どもの行動や成果に関係なく、親が常に愛情を示し続ける育て方です。この方法では、子どもはどんな状況でも親からの愛情やサポートを感じることができます。
例えば、テストの点数の良しあしに関わらず、「頑張った〇〇ちゃん/くんのことを誇りに思うよ」と伝えたり、(大人にとっては)わがままなことを言って子どもが泣き叫んだ後も、夜にはいつも通り一緒に絵本を読んで眠りについたりする、といったことです。
ここで大切なのは、無条件の子育てとは、子どものすべての行動や要求を何でも受け入れ、子どもがすべての主導権を握るということではもちろんありません。親は子どもに無条件に愛情を示すことと同時に、「やってはいけないこと」の適切なガイダンスや境界線を示すことも必要です。
子どもが間違ったことをした場合でも、親は第一に愛情と理解を持った上で、責任を持って対話し、子どもが社会的なルールや責任を学ぶ機会をつくることが大切です。
条件つき子育ては、短期的には子どもが親の期待通りに動くような効果があるかもしれませんが、長期的にはいろいろな弊害があります。
まず、子どもの自己肯定感に大きな影響を及ぼします。子どもは、自分の行動や成果によって親の愛情が変わってしまうと感じることで、外からの評価なしに自分に価値を見いだすことが難しくなります。
また、条件つき子育ては子どもの精神状態にも悪影響を及ぼす可能性があります。親の期待に応えようとするプレッシャーが大きくなると、子どもは過度なストレスや不安を感じることがあります。
親の期待に応えられなかった場合の罪悪感や自己否定の感情も、子どものメンタルにネガティブな影響をもたらします。これが長期的に続くと、うつ病や不安障害といった深刻な問題を引き起こすリスクもあります。
さらには、条件つき子育ては親子関係にも悪影響を与えます。親が子どもに対して条件つきの愛情を示す場合、子どもは親に対して不信感や嫌悪感を抱いてしまうことがあります。「親は僕のことを本当には愛していないんじゃないか」と疑問を持ってしまい、親子の絆にヒビが入ってしまうのです。
一方、無条件子育ては、子どもの発達にとってたくさんのメリットがあります。
まず、子どもの自己肯定感が高まります。行動や成果に左右されずに親から愛されているという実感があることで、子どもは自分自身を価値のある存在だと感じることができます。これにより、自己肯定感が高まり、自分自身に対する自信や自己評価がアップします。
自己肯定感が高い子どもは、挑戦や困難に対しても前向きに立ち向かえる「グロースマインドセット」を持つことができます。また、子どもが親に対して信頼感を持つことができ、親子関係がより深まります。
さらに、無条件子育ては子どもの社会的スキルの発達にも寄与します。親が子どもに対して無条件の愛情を示すことで、子どもは他者に対しても同じように尊重や愛情を示すことができるようになります。
また、健全な親子関係があることで、子どもは他者との関わりにおいても安心感や寛容な気持ちを抱き、より良い人間関係が築きやすくなります。
このように無条件子育ては、子どもの自己肯定感、親子関係、人間関係の発達にとてもポジティブな影響があるのです。
無条件子育てをするためには、まず大人は、子どもが同じ人権を持った「1人の人間」である、という意識を持つことが必要です。この子どもへの尊敬の気持ちこそが、子どもの意見や感情を尊重し、その話に耳を傾ける基本となります。
そしてこの無条件に受け止めてもらう経験を通じて、子どもは親から愛されていることを実感し、自分のアイデアや意見を表現する自信を持つようになります。これが「自分でできる力」を育むことにつながるのです。
具体的には、子どもに対して探偵のように興味を持って接することがおすすめです。子どもがどんな行動をしても、自分の価値観だけで善しあしを判断する前に、子どもがその行動に至った理由やそこに至ったプロセスに「なぜだろう」という目を向けるのです。
他にも具体的な方法については、今回を含めて4回の連載記事で詳しく紹介します。それぞれの記事では、「ほめ方」、「叱り方」、そして「アクティブリスニング」に焦点を当てていきます。ぜひお楽しみに!
島村華子
オックスフォード大学修士・博士課程修了(児童発達学)。日本人で唯一の、モンテッソーリ&レッジョ・エミリア教育の2つを司る研究者。上智大学卒業後、カナダのバンクーバーに渡り国際モンテッソーリ協会(AMI)の教員資格免許を取得。カナダのモンテッソーリ幼稚園での教員生活を経て、 オックスフォード大学にて児童発達学の修士、博士課程修了。現在はカナダの大学にて幼児教育の教員養成に関わりながら、日本でも教育・子育てについて、親や教育者に寄り添ったアドバイスを発信している。
FQ Kids VOL.19(2024年夏号)より転載
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