幼児期に始めたい「ポジティブ性教育」って? 専門家に聞く、まずおさえるべき大前提

幼児期に始めたい「ポジティブ性教育」って? 専門家に聞く、まずおさえるべき大前提
ここ数年、日本でも注目が集まる性教育。しかし、誤った性教育は性に対するネガティブイメージを与えてしまう危険も……。ポジティブに家庭での性教育を進める方法について、思春期保健相談士の中谷奈央子さんに聞いた。

身体はその人自身のもの
0歳から親が意識する

今、性教育の定義は変化している。以前は、月経の仕組みや性行為についての教育を指すのが一般的だったが、現在は性の多様性や、性暴力から身を守るための知識、そして自分の身体を大切にする意識なども含めた、広い内容になりつつある。そのため、開始時期も早まってきているという。

「昔で言えば『0歳なんてまだ性教育は必要ない』と思われたかも知れません。ですが、0歳では教えるというより、大人が意識するもの。例えば、おむつ替えや着替えをさせる時に、『大事なところを触るよ』『お洋服脱がせるね』と言うのも1つです。無言で作業的に行うのとでは、大人側の意識が全く変わります。

親はつい子供を所有物のように扱ってしまいがちですが、たとえ子供であっても他人に触れることへの同意を取ること、すなわち、“自分と他人の境界線”を大人が意識して行動することが、『人の身体はその人自身の大切なもの』と、子供に認識させる第一歩になるのです」と中谷さん。

嫌がる注射や薬も、子供自身の身体なのだから、まず「嫌」という気持ちを受け止めてから説得すべきだという。それがいつか子供が自分を守り、大切にする行動へとつながるからだ。

決して“タブー”にしない!
日常生活の中で性の会話を

また、3~6歳くらいの幼児期からは、性を“タブー”にしない家庭環境を作ることも重要だ。

「国連教育科学文化機関(ユネスコ)や国連児童基金(ユニセフ)などが共同で発表している『国際セクシュアリティ教育ガイダンス』には、『性をポジティブに教えることが大切』と明記されています。

しかし日本では『こんなことに気を付けなさい』『人に身体を触らせない』といった、怖い部分ばかりが取り上げられがち。それも大切ですが、心地よい触れ合いなど、性のプラスの側面も伝える必要があります。

さらに、『何かあったらすぐ家で相談できる』という信頼関係を得るためにも、家庭では、性や身体の話をできるだけ隠さず、日常的にすることが大切なんです」。

家庭で性の話題が“タブー”になると、何か起きても相談できず、取り返しのつかない事態につながる恐れも……。だからこそ、家庭での性教育が大切なのだ。

学校での「性教育」は
方針により差がある

ちなみに、日本の幼稚園や学校での性教育は、現在どうなっているのだろうか。

「世間では早期からの性教育にスポットが当たっていますが、公立の小学校でカリキュラムとして学ぶのは、4年生の保健の授業から。内容もLGBTにさえ触れておらず、世界的基準にはまだ追いついていない印象です。地域や学校によっては力を入れているところもありますが、管理職や教員の判断で大きく分かれてしまっていますね。

また幼稚園や保育園生活の中で、道路から丸見えの場所で着替えをさせたり、男女の呼び方や色を分けるなど、性教育の観点からはよくないと感じる話を聞くこともあります」。

では世界はと言えば、先述の「国際セクシュアリティ教育ガイダンス」では「性教育は5歳から」とされている。ヨーロッパには0歳からのカリキュラムもあり、中国や韓国も、日本より先進的に取り組んでいるという。

日本には古くから隠す・慎むことを良しとする文化や、嫌なことを「嫌」と表明すると、「空気を読んで周りに合わせなさい、ワガママを言っちゃいけない」と注意される同調圧力的な風潮もある。

「そういう部分が性教育の遅れや子供・個人の権利という視点の欠損につながっているのでは……」と中谷さんは指摘する。

家庭での性教育は
伝え方も重要な要素に

全国の学校では来年度から、昨年政府で閣議決定された「性犯罪・性暴力対策の強化の方針」に基づく、「生命の安全教育」という教材が使用される。

これを機に性教育が広がると見る向きもあるのだが、その内容は性暴力への注意に重きが置かれているため、変に怖がらせてしまったり、言葉を選んで説明しなければ性被害にあっている子供に対してのセカンドレイプになってしまう可能性も。そのため、学問として性教育を研究する識者からは問題を指摘する声があがっているという。

だからこそ重要になる家庭での性教育。けれど、性教育の範囲は思うより広く、伝え方に工夫が必要だということも分かってきた。

家庭での子供との性に関する
会話の現状

(3~6歳の未就学児童を持つ2,215人の保護者対象) 令和3年度 調査結果

※性教育サイト「命育」 厚生労働省 令和3年度子ども・子育て支援推進調査研究事業「保健師等による幼児等低年齢児の保護者に対する効果的な性教育方法に関する調査研究」より引用

表1.子供との性に関する会話、質問の経験

(n=2,215)

保護者の7~8割が家庭において性に関して会話したこと、子供から質問されたこと、子供の性に関する質問や言動の対応に困った経験がない。

▼「ある」詳細

表2.子供との性に関する会話、質問の経験詳細

こちらは表1で「ある」と回答した人の性別・年齢の詳細であるが、その中でも、それぞれより経験があるのは男性よりも女性だった。また、若年層ほど各経験が多い様子がうかがえた。(複数回答)

表3.子供との性に関する会話をもつタイミング

表1で、「子供から性に関する質問をされたことがある」、または「特に質問をされていないが、性に関する話を子供にしたことがある」の回答者のうち、「質問されたときはその場で回答する」保護者が71.8%、質問されていない場合については、「自ら教える場面では、教えたいと思ったタイミングで会話する」保護者が28.1%となっている。(単一回答)

表4.子供との性に関する会話の必要性

全体の2~3割の保護者が広く性に関わるテーマについて話すべきと思っているが、実際に会話したことがあるという回答の割合と比較すると乖離があった。(複数回答)

教えてくれた人

中谷 奈央子(にじいろ)さん

思春期保健相談士/性教育講師。小学校、高校の養護教諭を経験し、退職後、フリーランスとして活動。子供から大人までを対象に、講演活動、相談活動を行っている。また、性教育サイト「命育」(meiiku.com)の「お悩みQ&A」監修も担当。2児の母。


監修:中谷奈央子
文:笹間聖子

FQKids VOL.11(2022年夏号)より転載

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