2021.01.27
2022.12.17
2024.08.14
「幸せ」とは何か? を考えるとき、3大幸福論の1つ、フランスの詩人のアランの「幸福論」は、実に示唆に富みます。
「幸福」は「社会環境」であると同時に、個人の「マインドセット」にも関わるものなのです。
毎年「国際幸福デー」の3月20日に発表される「World Happiness Report(世界幸福度報告書)」の2024年版が発表されました。(※1)
※1 国際的な研究組織「持続可能な開発ソリューション・ネットワーク」(SDSN)が国連と共同で発表)。
国別の幸福度ランキングで1位は6年連続フィンランドで、今回の幸福度は7.741。上位はヨーロッパの国々が目立ち、特に北欧5ヶ国が7位までに入っています。日本の順位は143ヶ国中51位となり、前年(137ヶ国中47位)より下降しました。
幸福度指標とは、幸福度を具体的に見えるように各種指標で表したものです。個々人の「幸福」をある程度、地域、時系列で比較可能にした物差しであり、評価のためのツールです。
「経済」や「軍事力」ではなく、「幸福度」という物差しで、それぞれの国を見ていく、SDGs時代の比較的新しい尺度といえるでしょう。僕自身、大学の社会起業家論の授業などで「幸福とは何か?」を考える回を設けているのですが、客観的に「幸せ」とは何かを考える指標として活用しています。
ただし、この幸福度指数で注意しなければならないのは、「国連の考える幸福」の順位ということです。スイスのギャラップ社のデータをもとに、以下の6項目を数値化したものなのです。
簡単にいえば、福祉が充実していて、お金があって、健康で、民主的な国が、国連の考え方では幸福度が高いということなんですね。
でも、本当に彼らは「最も幸せ」な人たちなのでしょうか。例えばパレスチナに毎日空爆をしているイスラエルの幸福度は世界5位なのだけど、僕にはイスラエルの人が世界で5番目に幸せな人たちとはとても思えない。
ちなみにOECDによる「自殺率」の国別ランキングを見ていくと、上位に北欧のフィンランド(9位)、スウェーデン(11位)、デンマーク(24位)があり、客観的に幸せそうな国の人が必ずしも皆幸せを感じているわけではない、という事実がある。
日本は4位で、アメリカは7位。物質的に豊かでも、福祉が充実していても、個人が必ずしも幸せを感じているかは別なわけです。
一方、純粋幸福度、つまり、個人が「幸せだー」と感じている、主観的な幸福度のみを見ていくとどうでしょう。世界幸福度調査2018(※2)に見る世界の純粋幸福度は以下の通り。
※2 米国の世論調査会社ギャラップ・インターナショナルとWINによる共同調査)。
1位はフィジー。どちらかといえば貧しい南の国が純粋幸福度が高いのがわかります。2位コロンビア、3位フィリピン、4位メキシコ。どこも治安が良いとはいえない国だし、貧困率も高い、政治も腐敗していると思われる国が多いわけですが、そこに暮らす人は主観的に「幸せ」と感じている人が多いんですね。
なんくるないさー、あるいはハクナマタータ(どうにかなるさ)という、自然と(あるべきように)なるものだ、という南方独特な感覚のような気がします。
社会の制度が充実していても、人は幸せであるとは限らない。幸せそうに見えることと、幸せであることはイコールではないわけです。「客観的な幸せ」と「主観的な幸せ」。この2つは先のアランの言葉にもあらわれています。
条件が整っているから幸せなのではなく、幸せを感じる「気質」や、分かち合いの文化、コミュニティのあり方、そして、最後は自然の成り行きに任せるという感覚、それが「幸福実感」に関係しているのではないかと感じます。
子どもたちにとっても「幸せである」ということは、「生きる意欲」に関係するのではないかと思います。富裕層に生まれ、良い学校に行って、何不自由なく育った子どもでも、ワクワクする気持ちやセンスオブワンダーを失ってしまっていたら、幸福度は高いとはいえないでしょう。
他者から褒められることに慣れた子どもは、他者評価によって幸福度が左右される。褒められないと何もできない子どもになる。自分で興味を発見し、意欲を持ち、創造性を育む。そうすると子どもは、自己成長が自分の喜びとなる、と思うわけです。
谷崎テトラ
1964年生まれ。放送作家、音楽プロデューサー。ワールドシフト・ネットワーク・ジャパン代表理事。環境・平和・社会貢献・フェアトレードなどをテーマにしたテレビ、ラジオ番組、出版などを企画・構成する傍ら、新しい価値観(パラダイムシフト)や、持続可能な社会の転換(ワールドシフト)の発信者&キュレーターとして活動中。シュタイナー教育の教員養成講座も修了。
HP:www.kanatamusic.com/tetra
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FQ Kids VOL.18(2024年春号)より転載
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