2021.06.04
2020.11.13
2021.12.20
生きていく上で不可欠なデザインと「デザイン的思考」は子供のうちから育んでいく必要がある、と前編でお話ししました。では、「デザイン的思考」を育むために、大人が子供に対してしてあげられることは何か。「そこらじゅうにデザインはあるんだよ」「これもデザインだと思うんだけどちょっと見てみて」といった触れるきっかけを与えてあげることです。大人だってわからないわけですから、子供にデザインが何たるか、なんて説明しなくていいんですよ。
子供たちはつまらなかったら見ませんし、話も聞きませんよね。だから、面白いという入り口を作った上で、それもデザインなんだよ実は、と伝える。例えば、道路の右側通行・左側通行もデザインなんだよ、と。(モノのデザイン・コトのデザインという表現を私たちはしますが、街がスムーズに動いていくためのルールや仕組みは、コトのデザインです。)
なぜ歩行者が右側でクルマが左側なのか? どう考えられたデザインなのか? 横断歩道はなぜしましまなのだろう……など、身近なものから親子で一緒に考えてみるのもいいでしょう。
すると子供は、「えっこれもデザイン?」「何なに?」という思考が始まる。そこで「おもしろいね」で終わっちゃってもいいんです。教育ってそういうものですよね。だって、自分たちが小学生のときに読んだ小説や名文、百人一首の意味が本当にわかっていたかと言うと、そんなことないですよね(笑)。大人になってもう一度噛み砕いてみて、ああそういう意味だったんだ! ってはじめて理解できる。
子供たちの中にデザインの点を打つ。点と点がつながるのは大人になってからで構わない。もしくはデザインの種をお渡しする。それをどう育てるかは、子供たちが成長するなかで自然に育てばいい。
ただ、その点とか種みたいなものを大人が子供たちに渡してあげると、その時はわからなくても、ある時思考が始まるんです。「あ、これのことをデザインって言ってたのかな」って。だから、「これもデザインですよ」という“面白いきっかけ”をいっぱい用意してあげることがとても大事だと思うんです。
子供にいわゆるお勉強的に伝えても、よくわからないものは受け取ってくれなかったり、面白くないものには興味を持ってもらえません。「えっ何これ!」と興味を持つものというのには魅力的なわからなさがあって、「わからないからもっと知りたい」につながるのです。
「子供にわからないものを与えてどうするの」という親御さんもいると思いますが、幼いうちは基本的には知識がないわけですから、そもそもわからないんですよね。むしろ、子供にはわかるものを与えるという風潮が今の教育の大問題だなと思います。
私は子供には子供っぽいものを、というのは大反対。なぜなら、子供っぽいものというのは大人が勝手に決めているものだから。子供からすれば子供っぽいも大人っぽいもわかんないわけですよ。なにしろ概念がないわけですから。なのに、大人が思う子供っぽいものを子供に与えてしまう。当然それが、親が与えるものだから「子供が好きなもの」になっていく。そしていつの間にか「子供はこういうものが好きなんだ」と与える側も受け取る側もバランスを取ってしまう。
大人が思う子供っぽさを子供に押し付けてはいけないというのは、『にほんごであそぼ』の制作でもすごく考えています。出演者の衣装も映像のグラフィックも超一流の方々に作ってもらったり、画面に出てくる文字はすべてオリジナルのフォントを作ったり。視聴者は子供であっても、きちんとホンモノを見せたいと。
子供が純粋に「何これ!」って思うような感覚的な要素というのはすごく重要なんです。だから私たち大人はホンモノだと思うものをちゃんと見せていく。子供には良し悪しなどわからないし、すぐに分かる必要なんてないけど、いつか「あの時のアレって……」と気づきや思考につながればいい。そういう良いものやホンモノこそ、子供たちの中に残っていくと信じています。
佐藤卓(さとう・たく)
グラフィックデザイナー。1955年東京生まれ。1981年東京藝術大学大学院修了後、株式会社電通を経て、1984年佐藤卓デザイン事務所(現:株式会社TSDO)設立。東京ミッドタウン内「21_21 DESIGN SIGHT」館長兼ディレクター。NHK Eテレ「にほんごであそぼ」のアートディレクター、「デザインあ」総合指導を担当。「ロッテ キシリトールガム」「明治おいしい牛乳」のパッケージデザイン、「PLEATS PLEASE ISSEY MIYAKE」のグラフィックデザイン、「金沢21世紀美術館」「国立科学博物館」のシンボルマークを手掛けるなど幅広く活動。
文:脇谷美佳子
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