2021.09.13
2021.09.20
2021.12.06
私はデザインの仕事を生業にするデザイナーですが、2003年から始まったNHK Eテレ『にほんごであそぼ』という番組に立ち上げから関わらせていただいています。きっかけは約20年前、NHKの番組プロデューサーから突然受けた「一緒に子供のための日本語の番組を作りたい」という相談でした。
その方は、当時で言えば、私がデザインしたペンギンのイラストの『ロッテ クールミントガム』のような製品パッケージや、2001年に始めた「デザインの解剖展(※1)」をご覧になって、一緒に番組作りがしたいと思われた、と。
テレビ番組はもちろん、映像をきちんと作ったこともなかったので、なんで私なんですか? と逆にお聞きしたくらいびっくりしましたが(笑)、何か新しい試みとして私にもできることがあるのではないかと、参加させていただきました。
※1:「デザインの解剖展」
佐藤卓さんが2001年より取り組んでいるプロジェクト。当たり前に日常で触れているものが、どのようにできているのか、なぜそうなっているのかを、外側から中に向かってデザインの視点で解析し、誰でもわかるように解説していく。これまでに『ロッテ キシリトールガム』、『富士フイルム 写ルンです』、『タカラ(現:タカラトミー) リカちゃん』、『明治乳業(現:明治) 明治おいしい牛乳』などの製品が解剖され、それぞれ一般的に紹介されることのなかった部分が引き出された。
番組作りはまず、“子供のための日本語の番組”とはどうあるべきか、から始まりました。幼い子供には、これはこういうものだ、という概念がまだまだないので、大人の思考ではダメなんだ、ということを改めて考えさせられましたね。
番組のアートディレクションには、子供たちが登場する背景をどうするか、ロゴは、名前は……等々、様々なデザインの仕事があります。それらを子供たちがどのように受け取るのか、もちろん親御さんも見られますが、主役は子供たちなので、これでわかるんだろうか・わからないんだろうか……いや、わからなくたって構わないじゃないか! と議論を重ねたものです。
そんな中、「子供のためのデザインの番組が必要なんじゃないか」と、番組プロデューサーと話し合ったことが『デザインあ』の誕生につながっていったわけです。
デザインって、実は日常のありとあらゆるところに潜んでいます。意識的なものから無意識的なものまで、我々の周辺には無数にあるものです。なぜなら、デザインはすべての物事に必要なものだから。
例えば、なくてはならない信号機の赤青黄色や交通ルール。人々が安全に行き来できるようにするにはどうしたら良いのか? と気遣い、施されたその工夫こそデザインなんです。
でも、世間では未だに誤解をされていて、なんとなく「カッコよくする」「オシャレにする」といった、いわゆる特別なもの、本質的には不要なものだと誤解されがちです。
興味がある人やデザインの学校に通っている人、デザイナーなどはデザインに対する意識はもちろん高い。でも、例えば世の中のデザインを決定する人というのは、アカデミックなデザインの勉強を必ずしも受けているわけではなく、むしろそんな誤解をしている人の方が多い。
これは、デザイン学校でデザインを教えること以上に、もっとさかのぼって、子供のときから触れるきっかけを用意しておいた方がいいのではないか、と。普段の仕事からそんな問題意識を感じていましたが、『にほんごであそぼ』に関わりながらさらに強く思うようになりました。
どんな技術も情報も、デザインが無ければ、的確に届けることはできません。デザインと関わりのない生活などありえない。そして「デザイン的思考」とは、その技術や情報、それらを届けるために思考することであり、誰かのために先回りして為す(なす)気遣いや思いやりです。
生きていく上で不可欠なデザインと「デザイン的思考」は子供のうちから育んでいく必要がある。まだ色々な概念が刷り込まれる前に、たとえよくわからなくても、まずはデザインに触れるというきっかけだけは、大人が作ってあげなければと思うのです。
佐藤卓(さとう・たく)
グラフィックデザイナー。1955年東京生まれ。1981年東京藝術大学大学院修了後、株式会社電通を経て、1984年佐藤卓デザイン事務所(現:株式会社TSDO)設立。東京ミッドタウン内「21_21 DESIGN SIGHT」館長兼ディレクター。NHK Eテレ「にほんごであそぼ」のアートディレクター、「デザインあ」総合指導を担当。「ロッテ キシリトールガム」「明治おいしい牛乳」のパッケージデザイン、「PLEATS PLEASE ISSEY MIYAKE」のグラフィックデザイン、「金沢21世紀美術館」「国立科学博物館」のシンボルマークを手掛けるなど幅広く活動。
文:脇谷美佳子
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