2021.10.30
2023.06.27
2024.03.28
現在、日本の子どもの9人に1人が「相対的貧困」にあるといわれている。相対的貧困とは、その国や地域の水準と比較して困窮していることを指し、周囲からは気付かれにくい。また、夕食を家族と取らず、子ども1人だけで食べる「孤食」も深刻だ。
そんな子どもたちに食事や居場所を提供したい、という思いから生まれたのが「こども食堂」だ。メディアでも大きく注目され、今では全国に広まっている。
貧困家庭への支援に限らず、地域の多世代交流拠点として、子どもだけでなくその保護者や地域住民にも広く門戸を開いているところが多い。全国各地域のこども食堂をつなげるネットワークも存在し、自治体などによるガイドラインや補助金の整備も進んでいる。
NPO法人 全国こども食堂支援センター「むすびえ」によると、全国のこども食堂は増え続けており、2023年度の調査では9,132ヶ所となった。これは全国の公立・国立中学校の合計とほぼ等しい。
一方で、こども食堂の多くはボランティアで運営されており、飲食店ではなく公民館や個人宅などで開催される場合も多い。開催場所、資金、スタッフなどを確保する必要があり、頻繁な開催が難しい場合もある。
このようなこども食堂の課題をカバーするような形で、新たに登場した仕組みが「こどもごちめし」だ。
「こどもごちめし」は、地域の飲食店をこども食堂として利用する仕組み。会員登録した子どもたちは、お食事チケットをお店に提示することで、無料で食事をすることができる。
元からある飲食店を利用するので場所・資金・人手の問題がクリアでき、調理場所や衛生面の心配もない。また、“毎日”利用することがより簡単になることが期待できる。
財源は寄付で賄われ、運営をデジタルプラットフォーム化することで、寄付金の約90%を子どもたちの食事代に充てている。企業の協賛の他、ふるさと納税などで個人でも寄付をすることができ、クラウドファンディングでは700万円以上の支援が集まるなど、注目されている。
「こどもごちめし」は中学生までの子どもなら誰でも使うことができる。事前にサイトから保険証などの身分証明書を登録すれば準備OK。スマートフォン画面にチケットを提示して店員に見せることで、子どもは無料で食事をすることができる。
利用は、1日1,000円以内を週3回まで。生活保護対象家庭は毎日利用可能だ(4月以降は週1回に改正。生活保護受給家庭のお子様は毎日でも利用可能)。一度会員登録をすれば、参加しているすべての飲食店を利用できる。スマートフォンの画面を見せるだけなので人目も気にならず、気軽に利用できるのも魅力だ。
子どもたちや子育て家庭にとって助かるのはもちろん、利用者が増えるなど飲食店にもメリットがある。また、利用すると支援企業が表示され、感想やメッセージを書くと、匿名で支援企業や寄付をした人に届けてくれる。感謝の気持ちが見えて支援者も嬉しいという、「三方よし」を実現する仕組みとなっている。
そんな「こどもごちめし」は、どんな想いからリリースされたのだろうか。「こどもごちめし」を運営するNPO法人Kids Future Passportの代表、今井了介さんにお話を聞いてみた。
株式会社NPO法人 Kids Future Passport代表理事
Gigi株式会社代表取締役
TinyVoice,Production 代表取締役
音楽プロデューサー・作詞 作曲家
今井了介さん
作曲家・音楽プロデューサー・起業家。安室奈美恵『Hero』や、TEE/シェネル『ベイビー・アイラブユー』など、数多くのアーティストの楽曲プロデュースを手がけ、2004年に作家・プロデューサーのエージェンシーTinyVoice,Productionを創業・主宰。2018年にWEBギフトサービス「ごちめし」でGigi株式会社を創業。コロナ禍の先払い店舗支援「さきめし」、社食サービス「びずめし」、法人向けギフト「GOCHI for ビジネス」や、こども食堂のDX事業「こどもごちめし」を運営する。
◆今井さんが社会貢献事業に携わろうと考えたきっかけは何でしょうか。
もともとは、マイケル・ジャクソンの「We Are The World」※1に感動したのが原体験で、音楽の先輩たちが音楽を通じた社会貢献活動をしているのを見て、自分も夢を叶えながら社会に還元していける活動をしたいと思っていました。
途上国を支援するさまざまなNGOやNPOを支援してきましたが、「食」に意識が向いたのは3.11、東日本大震災のときです。
音楽やエンターテイメントの力が及ばないような厳しい現実を突きつけられて、改めて日本という国を見つめ直したときに、海外の子どもも大切だけど、そもそも自分の母国に対してもっとできることがあるんじゃないかと考えました。
そこで、ただ稼いだお金を寄付するだけじゃなくて、音楽業界にいる僕が、音楽業界だけではできないこともしていきたいと考えるようになりました。
※1:1985年にアメリカで発売された歌。マイケル・ジャクソンが作詞・作曲し、45名の著名なアーティストが参加。CDやグッズ等のすべての印税が、アフリカの飢餓と貧困層解消のためにチャリティーとして寄付された。
◆その中でも「子どもの食」に注目された理由やきっかけを教えてください。
3.11で痛感したのは、音楽ではお腹はいっぱいにならないし、暖も取れないということ。エンターテイメントが力を発揮するのは、最低限の衣食住が足りてこそということです。そこで、まずは衣食住の「食」に関わりたいと思いました。
子どもの成長にとって食は一番大切ですが、食にまつわる日本の課題を深掘りする中で、当初考えていた以上に困窮家庭が多いことを知りました。現在、子どもの9人に1人が「相対的貧困」と言われており、1クラス4~5人はいる計算です。人口にすると200万人以上にも上ります。
それに対して「こども食堂」が全国的に広がっているのは素晴らしいことですが、地域の人によってボランタリーに行われているため、場所や頻度にばらつきがあるという面もあります。
そこで、地元の地域の飲食店にも気軽に参加してもらえるようなプラットフォームを作ることで、もっともっと食事の提供数を増やせるのではないかと考えました。
既存のこども食堂は、子どもにとっては居場所的な意味があったり、地域の人との接点になったり、コミュニティ形成の場になるという面があります。一方で、毎日開催できるわけではない場合が多いため、その部分を「こどもごちめし」の飲食店がカバーできたらと思っています。
◆現時点での成果と、今後の期待や目標を教えてください。
「こどもごちめし」の運営はNPO法人 Kids Future Passportで行っていますが、そのシステムは僕が経営するフードテック企業、Gigi株式会社の「ごちめし※2」をベースにしています。ごちめしの開発当初から、「こどもごちめし」のような社会貢献事業に繋げたいという構想がありました。
※2:オンラインで飲食店のメニューを贈れるギフトサービス
非営利事業でよく起こりがちなのが、事業の運用に人手がかかることで、寄付金が組織の運営コストに回ってしまうということ。「こどもごちめし」では、DX化したプラットフォームを作ることで、人的・時間的なコストをできる限り下げ、寄付金の90%を子どもたちの「食事」として届けるということを実現しています。
また、デジタル庁やこども家庭庁と連携することで、本当に支援が必要な子により多く食数を提供できる仕組みを、さらに整えていく予定です。デジタルの仕組みを使うことで、周りの人に気づかれずにプライバシーを保ちつつ、経済的に困窮している方にピンポイントで食のサポートを届けられると考えています。
もちろん、一般の子育て家庭の方にも、ぜひ「こどもごちめし」を使っていただき、ママ・パパの間で広めてほしいです。子育て中の状況はさまざまだと思うので、誰が使うべき人で、誰が使うべきじゃないかを決めないことも大切だと思っています。
食に困っていなくても、子どもの食べる楽しみや外食体験にも繋がると思いますし、地元の飲食店に足を運ぶきっかけにもなれば嬉しいです。
そして、もし子どもの食のサポートへの想いがある方は、ぜひ「こどもごちめし」に寄付をしてほしいです。地域別に支援ができるような仕組みも整えているので、身近にいる困窮家庭の子どもたちを応援する気持ちでご寄付いただけると嬉しいです。
現在、空前の少子高齢化と言われていますが、子どもたちの食事くらいは誰もが十分に食べられるような世の中を、たくさんの方と手を取り合って作っていきたいと思っています。
「こどもごちめし」を運営しているのは、2023年に設立されたNPO法人Kids Future Passportだ。すべての子どもの健やかな成長を見守る持続可能な仕組みを目指し、さまざまな飲食店やこども食堂運営団体とともに、食事の提供を通じて子どもの未来を支援している。
地方自治体と連携した取り組みも多く行っており、それらを含めた提供食数は2023年12月末までで累計91,096食に上る。
未来を担う子どもたちの食を支援するとともに、飲食店を支援することで町や地域も元気にする。食と笑顔の輪を広げる「こどもごちめし」。子育て中の方はぜひ一度使ってみて、そして応援していきたい。
文:ダブルウイング
編集協力:NPO法人 Kids Future Passport
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