今日からできる! 自己肯定感を高める、ハートフルなおうち性教育の始め方|専門家監修

今日からできる! 自己肯定感を高める、ハートフルなおうち性教育の始め方|専門家監修
子どもからの「赤ちゃんってどこからくるの?」の問いにとまどった経験はないだろうか。そう聞かれたら性教育のチャンス。家庭の中で身近な関係である親だけが伝えてあげられる、ハートフルな性の話について考えてみよう。

<目次>
1.大事なわが子の性教育 学校任せにしないために
2.“生理の授業は女子だけ”そんな時代に育った親世代
3.毎日の触れ合いから生まれるハートフルな性との向き合い方
4.こんな時どうする? どう答える? ハートフル性教育お悩みQ&A/a>

 

性教育って何から始めればいいの?
自分もそうだったし、自然に学んでいくものでは?
子どもからの性に関する質問に答えられなかった……
性教育って性被害から守るためにするものでしょ?
セックスの話を子どもにするのに抵抗がある
「寝た子を起こすな」性教育の後進国・日本
パパ・ママの常識や知識はアップデートが必要

教えてくれた人

小貫大輔さん

東海大学国際学部教授。担当授業は「ジェンダーとセクシュアリティ」など。東京大学とハワイ大学で性教育を学び、1988年にブラジルに渡りスラムでの社会活動に参加。その後はブラジルでエイズ予防などの分野で活動した。2023年5月、性についての学びを進める上で教師と保護者の連携を推進する「性と文化プロジェクト」を始動。

大事なわが子の性教育
学校任せにしないために

日本の学校による性教育には受精に至る過程は取り扱わないという「はどめ規定」があり、子どもたちは性交についての正しい知識を持たないまま、インターネットやSNSなどからゆがめられた情報をワンクリックで手に入れてしまう危険と隣合わせにある。

近年、海外ではユネスコが定める「国際セクシュアリティ教育ガイダンス」に基づいて人権やジェンダーなども含めた広い概念で性教育が扱われている国が多いが、日本はかなり不完全で遅れているというのが現実だ。

そもそも、性教育とは何のために必要なのだろう。「子どもを性被害、性暴力から守りたい」「望まぬ妊娠をしないように」など、親ならばそんな目的を見出すだろうし、それは最重要事項の1つといえる。

しかし、ネガティブな側面だけから性教育を見つめていては、本質的な部分を見落としてしまうのかもしれない。今回は東海大学の小貫大輔教授に、これからの日本に必要な性教育について伺った。

「これまでの学校や家庭では、性の話は『恥ずかしいもの』『個人的な秘密』として避けられてきたかもしれません。でも、今、お子さんの性教育に関心を持たれたのなら、自分自身の価値観を見直し、性をポジティブにとらえなおすチャンス

人間の性は他の動物のように単なる生殖のための行為ではなく、関係を深め人生を豊かにする特別な意味があります。子どもたちが『いやらしいこと』『怖いこと』という通念を身につける前に、命の始まりにつながる大切なものとして性について教えることは、自己肯定感にもつながるのです」。

では、私たち親が家庭で性教育を始めるとき、まず何をすればいいのだろうか。

「性教育は『答えのない問い』であり、正しい答えというのはないのだと思います。子どもは1人ひとり性向も異なり、発達のスピードも違います。家庭では、機会をとらえて、いわばオーダーメイドで教えられます。

お子さんが生まれた時のことを、お腹の中にいた時のことから話してあげるのも性教育。そして、心の通った肌と肌の触れ合いや毎日のハグや抱っこも、家庭ならではの性教育です。

重要なのは、性は『大切なこと』であると伝えることです。お子さんを生涯支えるのは、子どもの時に培う身体と性へのポジティブな態度です。叱ったり、怖がらせたりするのではなく、親から教わったことがハートフルな思い出として心に残るようにしてあげたいものです」。

“生理の授業は女子だけ”
そんな時代に育った親世代

パパ・ママ自身は、幼い頃に性教育を受けた記憶があるだろうか。むしろ性について親に聞くと困った顔をされて、いつしか素朴な疑問すら聞きにくくなってしまったような経験はないだろうか。

日本では、性については非常にプライベートな部分としてとらえられ、家庭でも学校でも、性教育は最低限のものだった。例えば性教育として記憶の片隅にあるのは、小学4年生の頃に男女別の教室に集められ、初経や精通について教わったことくらい。

あれから数十年がたち、男女別だったのが男女一緒になった程度で、学校の現場での性教育は実はほぼ進歩していない。小学5年生で習う月経の具体的な内容については、今も女子だけが集まり聞いているのが現状だ。

今世界では「国際セクシュアリティ教育ガイダンス」で性をポジティブなものとして、5歳から学ぶことがスタンダードになっている。学ぶ内容も生殖だけに限らず、人権やジェンダーなど包括的な内容をじっくり学んでいく。

これからの新しい時代の性教育において、家庭の役割は大きい。幼い頃から日常の会話や触れ合いの中でさまざまな性の話を、当たり前に会話できる親子関係を作り上げることが必要だ。

性教育というものをしっかり受けてこなかった親世代にとって、性を語るのはハードルが高いことかもしれない。だが、子どもは小さければ小さいほど、性の話を素直に受け入れる力を持っている。ぜひ一歩を踏み出してほしい。

性教育は親から子へのプレゼント
毎日の触れ合いから生まれる
ハートフルな性との向き合い方

着替え、お風呂、トイレ、遊び、テレビ鑑賞……家庭では、多くの日常から性教育につなげることができる。小貫教授に、子どもが学校で性教育を習うよりも前に家庭でできることを教えてもらった。

グッドタッチとバッドタッチの違いを教える

子どもを性被害から守ってあげたい。しかし、加害者は身近で親しい人である場合が多いという。「そんなはずがない」と見て見ぬふりをするのではなく、大人はしっかりと子どもを守る必要がある。

とは言え24時間監視しているわけにもいかない。だから子どもには、嫌な触り方をしてくる人がいたら、すぐさま「やめて!」と拒否するのだということを教えておきたい。「親しい大人に対しても、嫌なことはすぐに嫌だって言うんだよ。言っていいんだよ」と伝えよう。

もし被害に遭ってしまったら、決して子どもを非難しない。「あなたは何も悪くない」「話してくれてありがとう」という姿勢で受け止めることが大切だ。そのことを理解した上で、知ってほしいのが「グッドタッチ・バッドタッチ」という概念だ。

グッドタッチとは、安心感をもたらす気持ちのいいスキンシップのこと。バッドタッチは反対に、子ども自身が嫌だと感じるタッチのこと。プライベートゾーンに限らず、身体のどこでも同じだ。グッドタッチをしっかりと体験しているからこそ、バッドタッチを「嫌だ」と感じる力が育つという。

「安心感のある触れ合いは、オキシトシンというホルモンを分泌させます。オキシトシンは『愛情と信頼のホルモン』とも呼ばれ、小さい時にたっぷり体験することで、生涯にわたって心の安定を支えてくれます」。

最も親密なテーマ“性”を
親密な人とシェアできる幸せ

人のプライベートなテーマの最たるものである性について、家族に相談できる子どもはとてもラッキーだ。

「親密なテーマについて語る、会話ができる関係にある人がいるというのはとても幸福なこと。よくテレビドラマなどの『性のシーンで親が凍り付く』ことがあると思いますが、望ましいとは言えません。逆に『このキスすてきだね』なんて話ができたら最高ですね」。

男の子はおちんちん。女の子は……?
おうちで性器を何と呼んでいる?

小さい頃から性の話を避けない姿勢は、日々の何気ない会話からも始められる。例えば家庭で男性器の名前は、多くが「おちんちん」などと呼ぶのではないだろうか。ところが、女性器の呼び名は性的なものとしてタブー視される傾向にあり、長らく家庭での気軽な呼び名は無いに等しかった。

「最近の調査では、『おまた』と言う家庭が増えていることがわかりました。正確に女性器を指す名前ではないですが、呼び名が無いよりいい傾向ですね」。

呼び名がなければ性教育どころか、洗い方さえキチンと教えることができない。お風呂で赤ちゃんや幼児期の子どもと身体を洗うときは、ぜひためらわずに性器の呼び名を教えてあげよう。

家庭での性教育ポイント

ネットの情報には要注意!
インターネットやSNSの普及で、アダルトコンテンツへのアクセスが容易な時代。幼児や小学生をネット上の有害な情報から遠ざけようとする場合、子どもの自制心だけに頼るのは危険だ。

子どもの判断力は未熟で、刺激に夢中になりやすく、現実とフィクションの区別もつきにくい。スマホやパソコンのペアレンタル・コントロール機能を活用し、有害なサイトから子どもを守れる状況を作ることが親の責任だ。

可能な限り両親の参加を
性教育は性別に関係なく、信頼できる大人、つまり家庭においては可能な限りパパとママ両方から伝えることが大切。パパが気後れする場合もあるかもしれないが、家族の一員なのに、性の話ができるような「親密な関係」にパパだけ入れないのは非常にもったいないこと。

生涯続く「親密な信頼関係」を築けるように、この際、パパも女の子のことを、ママも男の子のことを勉強してみよう。

何回でもやり直しができる
改まって教えようと意気込まなくても大丈夫。日常生活で直面したときや子どもの質問に答えるなどやり取りを繰り返すことが大切で、失敗しても問題ない。伝わらなければ、伝え方や内容を見直し進められるのが家庭性教育のメリットだ。

そしてよくある小さな子どもの性の質問には、シンプルに直接的に答えるのが一番。「赤ちゃんはおまたから出てくるんだよ」と言ったら、子どもは素直に受け入れてくれるはずだ。

こんな時どうする? どう答える?
ハートフル性教育お悩みQ&A

お友だちにキスをしたりされたりするようで心配しています。

小さなお子さんは、周りの世界を探求するのがお仕事。すべての遊びが、世界への発見につながります。キスをすると相手がどんな反応をするか、周りがどんな顔をするか、そんなことを試しているのかもしれません。

遊びを通じて子どもが学ぶとっても大切なことは、相手の気持ちを尊重できるようになることです。相手が嫌がることはしない。自分が嫌なことは「やめて」と伝えること。大人自身が、その見本を見せることも大切です。

例えば、小学生になってお母さんのおっぱいを触ってくる子どもに「そこは触られると嫌なんだ。だからやめてね」と自分を主語にして伝えましょう。

子どもが自分の性器を触っているのを目撃……どう対応すればいい?

まず確認したいのは、病変がないか、痒いのではないかということ。気持ちいいから触っているだけなら、小さな子どもがよくする自然な行為です。叱るなどしてトラウマにならないように、むしろ見守る姿勢を持ちましょう。

性器はプライベートな場所だから人前では触らないんだよ、と教えてあげることも大切です。頻繁に繰り返すときは、寂しさが原因かも。

ひとり親が、異性の子どもに性教育するのに気をつけることは?

性教育の重要な目的の一つは、異性を理解すること。親が異性の子どもを理解しようと努力することは、子どもにとって最高の性教育であるはずです。性についての親子の会話は、3、4歳の頃から始めるのがベスト。小さい時に築いた「性について話せる関係」は、きっと思春期になっても続くでしょう。

子どもが性別と反対のおもちゃや洋服に興味を示しています。
どうしたらいい?

小さな子どもは、性別にとらわれずにいろんな遊びや表現を試してみるものです。しかし、5、6歳くらいになると、周りに期待される「女(男)らしさ」に強くこだわるようになるものです。

生まれたときの性別に違和感のある子どもは、その頃からとても辛くなってしまうことがあります。その違和感は一時的なこともあれば、本質的な性自認に関わる場合もあります。子どもの個性を尊重して見守ってあげましょう。多様な性のあり方について書いた素敵な本がたくさんあるので、勉強してみてください。

自分の生理を子どもに見せていいのか悩みます。

プライバシーの少ない日本の親子関係でよくあることですね。むしろ性教育のチャンスでは? 子どもは「ママ病気なの? 死んじゃうの?」と心配するかもしれません。「大丈夫だよ。大人の女性はたいてい毎月くることだから安心して」と教えてあげてください

その機会に「生理は赤ちゃんの育つお部屋のおふとんを取り替えることなんだ。毎月、古くなったおふとんを取り替えてるんだよ」と話してあげてはいかがですか。

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文:松永敦子

FQ Kids VOL.17(2024年冬号)より転載

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