子どもが読書好きになる「想像力を育む読み聞かせ」と一人読み移行期におすすめの絵本

子どもが読書好きになる「想像力を育む読み聞かせ」と一人読み移行期におすすめの絵本
絵本研究家であり、「非認知能力をはぐくむ絵本ガイド180」の著者である寺島知春さんによる、おすすめ絵本紹介のコラム。今回のテーマは、「“読書”ってどんなこと?」です。

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<目次>
1.絵本は「読んでもらうもの」
2.まずは焦らず、大人が音読を
3.絵本の土台が読書へつながる
4.絵本の“一人読み移行期”におすすめの絵本2冊

 

絵本は「読んでもらうもの」

親子で絵本を開く際、子どもが最も注意を向けるものって何でしょうか? それは大人の声や気配です。作品の魅力どうこうよりもまず、傍らにいる存在が大切なのです。

子どもたちは大人の発する肉声に耳を傾け、楽しそうな様子に安心を覚えて、初めてその目で画面をとらえていくことができます。そうして「絵を読」みながら、頭の中で想像の世界を広げて味わっていきます。

端から見れば、画面を見てじっとしているだけに思えるこの時に、彼らの内側ではめくるめく冒険やたくさんの深い感情が、めいっぱい膨らんでいます。これぞ絵本の楽しみ。だから、絵本はまず「読んであげる」ことが大切なのです。

まずは焦らず、大人が音読を

一方、大人はつい焦りがちかもしれません。ちょうど季節は読書の秋ですが、例えばやっと字が読めるようになった子に、「ほら、自分で読んでごらん」と声をかけてしまうことはありませんか。

これは一見、わが子を読書へ誘う働きかけとして正しいように思えます。けれど、文字を読めるようになったばかりの子どもが自分で読もうとすると、集中のすべてがそこへ移ってしまいます。

その結果、絵本を開いているにも関わらず、じっくり絵を読むことができず、内容に浸りにくくなってしまいがちです。こうなると、ほとんどの子はその作品の持つ面白さに出会いづらくなります

なぜなら、絵を読むという不可欠の段階を踏めていないからです。どの本でもこれが続くと、その子はやがて絵本というメディアそのものに興味を示さなくなってしまうでしょう。

もったいない結末を避けるためにも、まだ幼い子どもには、まずは大人がたっぷり読み聞かせてあげてほしいのです。

そして何より大切なのは、やっぱり親子で思いっきり面白がること! 『わゴムはどのくらいのびるかしら?』のようなおおらかな物語は、いつでも原点に立ち返らせてくれます。

絵本の土台が読書へつながる

絵を読むことばかりしていたら、いつまでも自分で本を読むようにならないのでは? と思うかもしれません。でも、この体験の積み重ねが、本に親しむための重要な「土台」となります。

「読書する」とは、文字を読むことだけでしょうか。もちろん本を読むときは、ページに並んだ文字の集まりの中の、一文ずつに注目し、漢字やひらがなを判別し、その文の表す意味をとらえることを繰り返して読み進めていく必要があります。

けれど実のところ、読書とはこの動きだけにとどまらないはずです。文の意味を読み取ることは作業の一段階目に過ぎなくて、次に、読み取った内容を自分の中に「イメージ」として立ち上げ、かみくだく必要があるでしょう。

つまり、文字を読み取った先に「思い描く力」が要るのです。この時、より詳しく立体的にイメージできる人は、おのずと理解が深まり、独自の発想へつなげられる可能性も増すのではないでしょうか。

絵本で絵を読む経験を重ねた子は、こうした「思い描く力」が逞しいように思います。

文字を読むだけでなく、その文章表現の意味を正しく読み取ることこそが「国語力」であり、それを踏まえて自分で考え、新たな意見・価値を生み出すという「生きる力」にもつながります。絵本はこうした人間の根幹の力を、楽しみながらじっくりと育めるのです。

このように、絵を読むことで想像力の土台をしっかり育んでから、一人読みに移行するとよいでしょう。

そんな移行期にある子を支えてくれる絵本として、『きょうのコロンペク』のような作品には、絵本を一人で開く喜びと、空想でどこまでも行ける自由さが同居します。想像を支えに読み切れた自信が、次の一冊へつながります。

絵本の“一人読み移行期”に
おすすめの絵本2冊

伸ばして伸ばして、どこまでも!?
深く立体的な想像空間にひきこまれる

3・4歳ごろ〜誰でも
『わゴムはどのくらいのびるかしら?』

マイク・サーラー/文 ジェリー・ジョイナー/絵 岸田衿子/訳
ほるぷ出版 2000年(改定新版)

男の子はある日、試してみたくなりました。わゴムを引っ張ったら、どのくらい伸びるかを。わゴムの端をベッドの枠に引っかけて、それからもう一方の端を自分の手に持って、彼は部屋の外へ出て行きます。自転車に乗って、バスに乗って、汽車に乗って、果たしてわゴムはどこまで伸びていくのでしょうか?

子どもに身近なわゴムという小道具をきっかけに、私たちの想像をどこまでもどこまでも、驚くほどに広げてくれる一冊です。

子どもたちが成長して文字だけで書かれた本を読む時に、例えばこの絵本のような想像の楽しみを知っていることは、頭の中に深く立体的なイメージを立ち上げる大きな助けになってくれます。

子どもの空想のゆたかさがここに!
やわらかな頭でどこまでも世界を広げよう

小学校低学年ごろ〜誰でも
『きょうのコロンペク コロンペクの1しゅうかん』

クリハラタカシ
福音館書店 2023年

大人には風変わりな絵本に思えるかもしれません。けれど子どもには、自由な空想を引き出して、思い切り遊ばせてくれる一冊です。

主人公のコロンペクは、日々ごきげんに生きています。この子の住む世界には、げつようび、かようび、すいようび……の他にも、私たちの知らない曜日があるみたいです。

コロンペクはペラペラの体でビュウと飛ばされたかと思えば、タコくんと考えごとをしたり、みずたまりの中の世界をのぞいたり、アクマと迷路に興じたりします。

どんな姿で帰ってきても、一緒に暮らすパマとマパはいつも「おかえりなさいコロンペク」と迎えてくれるから安心です。一人読みの楽しさに目覚めた子に、何気なく手渡してみたい作品です。

※「対象年齢」は寺島知春先生の基準によるものです。各絵本の出版社が提示しているものとは異なる場合があります。

PROFILE

寺島知春

絵本研究家/ワークショッププランナー/著述家。東京学芸大学大学院修了、教育学修士。約400冊の絵本を毎晩読み聞かされて育ち、絵本編集者を経て現在に至る。著書に『非認知能力をはぐくむ絵本ガイド180』(秀和システム)。ワークショップと絵本「アトリエ游」主宰。

HP:terashimachiharueh.wixsite.com/atelieru

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FQ Kids VOL.16(2023年秋号)より転載

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