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2021.11.10
「怖いと思い込んでいたクモに、そーっと近づいて、触れた瞬間、『自分が変われた気がする!』なんて言う子もいます。自然って、『気づき』のチャンスにあふれているんです」。
小学生への出張授業や体験講座などを通じ、自然から学ぶことの大切さを伝えつづける気象予報士のわぴちゃんこと岩槻秀明さん。身近な生きものや草花に触れ、季節を感じる幼少期の体験が、成長にいかに影響を与えるかを実感してきた。
「例えばトンボ1つとっても、大きさの感覚って図鑑だけでは得られませんよね。でも現物に触れば、『赤トンボって意外とちっちゃいんだ』とか、『触ると柔らかい』と気づく。オニヤンマを見て、『デカい!』とその意外さに驚く子は多いですよ。そんな『気づき』が、次の好奇心を生み出してゆくんです」。
岩槻さんの自然教室は、教えこまない。生きものに向き合えば、子供たちは自然と思考し、工夫しはじめるのだという。
「まずは自由に散策してもらいます。例えば川で魚をとる時も、最初は網を水に突っ込んでいるだけでつかまえられない。でもそのうち、どうすればうまくいくか考えはじめますね。『網を隅に追いやればいいんだ』とかね」。
失敗をする。試行錯誤する。こうしてたどりついた成功だからこそ、達成感も大きい。楽しみながら、知らないうちに様々な能力を身につけてゆく。それが、子供の力だ。
「道具は必要最低限にし、なるべくその土地にあるものでやるのが大事です。秋の草むらだと、木の枝で草をゆするだけで、隠れていたバッタがわーっと飛び出し、歓声があがります。それだけで、子供の感性って刺激されるんです」。
自然が題材だからこそ、1つの興味が他分野へつながりやすいと、岩槻さんは語る。
「生きものの命は全部つながっています。だから希少種保護でも、その種類だけ大切にしても守れない。その土地に生きるすべての生きもの、地域の人々との関係、ひいては気候などの全体的な環境についても考えなければならない。だから自然と他の分野への理解も深まってゆくのだと思います」。
教科という視点から見ても、自然教育は可能性を多分に秘めたテーマだ。
「例えばススキだと、国語では秋の七草とか、万葉の植物だとか。社会では昔は茅葺き屋根の材料だったとか。さらに深く調べるとなると、海外の資料も必要になるから英語力も備わる。植物を1つ知ることで、多教科の知識が深まる。視野もぐんと広がるんです」。
季節のうつろいを感じる秋は、自然観察には最適な季節。子供と散策に行く際、親はどんな関わり方をすればよいのだろうか。
「1番大切なサポートは『安全』です。命にかかわるような危険な場所は、事前に親が情報を頭に入れ、しっかりガードしてください。ただ過保護にしすぎる必要はありません。多少のスリキズは経験のうちです。
近くの公園も、校庭も、子供にとっては『気づき』のかたまりです。工夫次第で、驚きやわくわくにたくさん出会えると思いますよ。そして子供たちは見つけた気づきや不思議をいっぱいしゃべってくると思います。それにしっかり耳を傾けて、親自身が知っていることがあれば、さりげなく教えてあげても良いでしょう」。
身近な自然に触れることで
身につく非認知能力
●創造性
●対応力
●探究心
自然とのふれあいは、子供の五感を高める。季節や天候により状況が変化するなかで、何度も失敗し、工夫を重ね、対応力や創造力が培われていく。さらには自然界の横のつながりの中で、1つの好奇心から他の事柄をもっと追究していこうとする探究心も芽生え、視野が広がってゆく。
岩槻秀明さん
気象予報士。植物、昆虫、気象など自然に関する書籍や雑誌に執筆を行う。「わぴちゃん」の愛称で親しまれ、テレビなどのメディアにも出演。小学校への出張講義や自然教室が人気。最新刊に「雲の図鑑 最新の国際基準で見分ける」(日本文芸社)。
文:甲斐 望
イラスト:岡本 倫幸
FQ Kids VOL.08(2021年秋号)より転載
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