非認知能力を育てる「読み聞かせ」のコツとは? 幼児から大人まで、おすすめ絵本14選

非認知能力を育てる「読み聞かせ」のコツとは? 幼児から大人まで、おすすめ絵本14選
絵本は、子どもが楽しんでこそ。でも、どうすれば本当に楽しいか、何を選ぶべきか――? 絵本の専門家である寺島知春さんに、非認知能力を育てる読み聞かせのコツや、非認知能力UPにおすすめの絵本を教わった。

教えてくれた人

寺島知春さん

絵本ワークショップ研究家/ワークショッププランナー/著述家。東京学芸大学個人研究員。絵本編集者の後、現職。「アトリエ遊」主宰。
HP:terashimachiharueh.wixsite.com/atelieru

読み聞かせ体験で
生きる力が強くなる

私は絵本とワークショップの専門家です。普段は執筆、ワークショップ、研究などをしています。

ワークショップでは、絵本をはじめとする美術遊びのオリジナルプログラムを提供(写真/セレオ国分寺「オープンスタジオ」)

活動の根幹には、子ども時代を約400冊の絵本とともに過ごした経験があります。夜、母の待つ寝床に本棚から好きな一冊を持っていって、読み聞かせをめいっぱい楽しんでから寝る日々が、物心つく前から小学校卒業まで続きました。40代間近になった今も、あの時間を時々懐かしく思い出します。

絵本と非認知能力は切り離せない

「非認知能力」という言葉は、絵本のあり方をよく表していると思います。絵本って、子どもの興味のツボをとらえて、情動を刺激するのが得意なメディアなんですよ。

例えば、4歳頃の私は『やっぱりおおかみ』(ささきまき、福音館書店)を読んでもらいながら、主人公のおおかみに自分を重ね合わせ、深い孤独や寂しさ、開き直りの爽快さを味わって楽しんでいました。

物語に夢中になると、子どもの内側には空想の世界が立ち上がってきます。そこではいろんな疑似体験が待ち構えていて、子どもはさまざまな気持ちを重層的に経験していくわけです。これはまさに、非認知能力を耕す動きそのものです。

子どもは絵本の「絵を読む」
その時間は、愛の体験

絵本で非認知能力を伸ばそうとするなら、子どもが心底絵本を楽しめているのが肝心と言えます。

そのためにはシンプルなコツが2つあります。1つは、身近な大人が「そばで声を出して読んでくれる」こと。もう1つは、子どもが落ち着いて「絵を読」んでいられることです。

「絵を読む」とは何でしょうか? それは、文章に語られない物語を、画面から読み取るということです。空想が生き生きと動き出すには欠かせないプロセスで、ほとんどの子は本能的にこれができます。けれど、言葉にされることはほぼないため、大人は見過ごしがちですね。

絵を読むには、絵に没頭する必要があります。文章が耳から入ってくれば自分で文字を追わずに済みますから、大人の音読はここでまず有意義です。

でも、それだけではない。いつも忙しい大人が自分のために読み、一緒に面白がってくれるのが、子どもには本当に嬉しいんですよ。彼らが絵本を開く目的はこれだと言い切ってもいいくらいです。

ぬくもりに包まれて空想に遊ぶ時間は、子どもには至福のひとときです。難しくとらえず、親子で思いっきり絵本を面白がっていてください。その時、子どもの非認知能力はひとりでに刺激されています。

効果はすぐにはわかりません。でも何十年も先に、たしかに愛された記憶が「生きろ」と背中を押してくれるほど、力強い支えはないように思います。

読み聞かせって、愛の体験です。読んでもらうから得られるものが、たくさんあるんですよ。

今すぐ役立つ絵本カタログ
非認知能力がUPする絵本14選

<1歳ごろ~誰でも>

たしかな満足がほしい時に
『きんぎょがにげた』

五味太郎 福音館書店 1982年

くりっとしたきんぎょの目玉に、子どもの視線は奪われます。文章を読む大人の声に「どこに にげた」と問われれば、たまらず「ここ!」と答えたくなります。強烈な魅力を放つ一匹を、射抜くように言い当てる瞬間は、快感です。その一瞬の満足感が「できた」の確信になるのです。

<3歳ごろ~誰でも>

「ひとりぼっちかも」と思った時に
『やっぱりおおかみ』

ささきまき 福音館書店 1977年

ひとりぽっちのおおかみが、町をさまよい歩きます。探せど仲間は見つからず、寂しさはやがて諦めに。孤独の海を深く潜っていく感覚を、小さな子も主人公に自分をなぞらえて味わいます。これは、自分を認める道のりです。うちの子には早すぎる、なんて心配はご無用です。

<3・4歳ごろ~誰でも>

子どもの目の鋭さを味わいたい時に
『バムとケロのにちようび』

島田ゆか 文溪堂 1994年

子どもたちの大好きな「バムとケロ」シリーズ。1作目の『バムとケロのにちようび』は、雨の日曜日のお話です。

主人公の1人・バムは、読書を思い立ちますが、部屋はケロが汚して、ちらかり放題です。バムは、すっきり片づけて準備万端にしてからにしようと、掃除を始めます。するとケロもやってきて、さて、2人は楽しい日曜日を過ごせるのでしょうか。

描きこみの豊富な作品です。大人が本書を開くと「細かくて目が疲れるなあ」なんて思いながら、どちらかといえば包容力のあるバムに肩入れして読むことでしょう。バムはなんとなく「親」的で、いつもの自分と視点が似ています。

でも、読み終わった時に、子どもたちは口々につぶやきそうです。「ケロって優しいよねー」とか、「あの絵動いてたよ!」とか。バムに注目してきた身としては、意外性たっぷりな一言。本を見返して確認し合う遊びが、始まりそうです。

同じ一冊を見ても、大人と子どもで視点が違う――。本シリーズはそれを鮮やかに発見させてくれます。

じっくり観察したい気分の時に
『いきものづくし ものづくし12』

松岡達英・舘野鴻ほか/絵 福音館書店 2022年

「てつどうのたび」「みんぞくいしょう」など、多彩なテーマを大きな精密画で心ゆくまで見られるシリーズです。

最終巻の本書で私が特に好きなのは「いし」のページです。石って、私にはなんだか無性に気になるものなのですが、だからこそこのページはいくら見ても見飽きません。わが子がそんなふうに関心を寄せるテーマがシリーズ内にあれば、ぜひ親子でどうぞ。

画面にしがみつき始めたら「大好き」の合図です。非認知能力はそこでよく伸びます。

作家コメント
石はさまざまな鉱物のかたまりのことを言いますが、その割合や状態で石の呼び名が違います。それぞれの石の成り立ちを探っていくと地球の歴史にまで直接つながっています。どうしてこの石はこんな色、模様、形なのか。すべてに理由があるのです。この仕事をいただいてから、私もすっかり石ころのとりこ。どこへ行っても石ころを探すようになりました。(舘野鴻さん)

 
わが子が挑戦しようとしている時に
『はるのひ』

小池アミイゴ 徳間書店 2021年

ことくんは父の畑を出発して、遠くの煙を確かめに行きます。これが筋書きのほとんどすべてですが、「目標は大がかりでなくていい」というメッセージがありそうです。ことくんが呼べば、必ず「おーい」と返してくれる父の声は、安心感となって挑戦継続の意欲を生みます。

おもいっきりやっちゃえ!
な気分の時に

『こんにちは! わたしのえ』

はたこうしろう ほるぷ出版 2020年

女の子が絵の具で絵を描く、ただそれだけの話です。全身で描く気持ちよさを、読み手の子どもたちはのびやかに疑似体験できます。非認知能力がもっともよく養われるのは、遊びに没頭するこんな瞬間です。大人には、その感覚を知るものさしにもなる作品でしょう。

<4歳ごろ~誰でも>

なんだか発散しきらない気分の時に
『オレときいろ』

ミロコマチコ WAVE出版 2014年

猫のオレは「きいろ」を見つけて、つかまえようと追いかけます。でも、きいろは溢れんばかりの生命力そのもので——。予測できない大きな存在を前に、流れに任せる感覚を、読み手は味わうでしょう。発散しきらないパワーを、大流にのせて昇華させるのです。

多様性ってなんだろう?
と思った時に

『みえるとかみえないとか』

ヨシタケシンスケ/作 伊藤亜紗/相談 アリス館 2018年

「障害」の語を使わない、障害(特に視覚障害)の絵本です。宇宙人がたくさん出てきて、頭の体操をする感覚で軽やかに読めます。そのうち、障害とか「普通」とか、それって何だっけ? となるのです。多様性は自分の中にも宿っていると気づける、素知らぬ顔したスゴイ一冊。

何かをじっくり考えたい気分の時に
『このあいだになにがあった?』

佐藤雅彦+ユーフラテス/作 山本晃士ロバート/デザイン 福音館書店 2017年

あてっこ遊びの写真絵本。ものごとの変化の様子を前・中・後の3段階に分けて、前と後だけを先に見せ、中を読み手に当てさせます。中を考える時に、子どもの想像はふわぁと大きく膨らみます。胸高鳴らせてページをめくり、予想が合致していた暁には、喜びが体を駆け抜けます。

<4・5歳ごろ~誰でも>

つながりと広がりを感じたい時に
『リボン』

アドリアン・パルランジュ/作 きたむらまさお/訳 大日本絵画 2018年

絵本の底面にリボンがついたしかけ絵本です。リボンは風船のひもになったり、ページをめくるたびに変身。画面と現実をつなぐリボンを手にした子どもは喜びを感じ「私は世界に影響を及ぼせる」と確信し、自信を育みます。

編集・翻訳担当コメント
初見時に、なんて凄い発想だと感心しました。翻訳は子ども向けにせず、意識的に万人にわかるようにしました。この本の作家は純粋で優しく魅力的な方です。(大日本絵画・きたむらまさおさん)

 
「ま、いっか!」と思いたい時に
『うろおぼえ一家のおかいもの』

出口かずみ 理論社 2021年

アヒル一家の買い物は、頼まれものをすっかり忘れて大迷走。近そうでちょっと違う品を次々に買って――。読む子は「あれじゃない?」と想像しながら、自分も一員になった感覚で物語の中を歩きます。忘れ放題でも何とかなるという気づきが、愉快さとともにやってきます。

年取った人と仲良くしたい時に
『ひみつのかんかん』

花山かずみ 偕成社 2014年

わたしのところに転がってきたビー玉。ひいばあちゃんの持ち物のようです。手渡そうとすると、ひいばあちゃんは昔話を始めて――。老人と小さな子が同じ目線で空想に遊ぶ本作のような話は、珍しく感じます。老いた人への眼差しが一層温かくなる予感です。

自分の気持ちとのつきあい方を
探りたい時に

『かなしみがやってきたらきみは』

エヴァ・イーランド/作 いとうひろみ/訳 ほるぷ出版 2019年

男の子のもとに、ある日「かなしみ」が訪ねてきました。この感情がどう振る舞うか、うまく付き合うにはどうしたらいいかを、シンプルに示してくれる物語です。読者は、受け入れると楽になる感覚を経て、やがて自尊心の成長も受け取れそうです。

<5歳ごろ~誰でも>

自分の良さに気づいてほしい時に
『てん』

ピーター・レイノルズ/作 谷川俊太郎/訳 あすなろ書房 2004年

ワシテの画用紙は、お絵描きの時間が終わっても真っ白のまま。先生に促され、彼女は投げやりにマーカーを押し付けました。すると、先生は意外な行動を起こし、ワシテの眠れる情熱には火がつきます。その様子に子どもは気持ちよさを覚えます。自尊感情も高まりそうです。

※こちらの紹介ページにある「対象年齢」は寺島知春先生の基準によるものです。各絵本の出版社が提示しているものとは異なる場合があります。

CHECK!

寺島知春さんの著書『非認知能力をはぐくむ絵本ガイド180』(秀和システム)では、非認知能力を伸ばす180冊の絵本を、子どもの視点に立って紹介する。


文:寺島知春

FQKids VOL.13(2023年冬号)より転載

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