『シュタイナー教育』に学ぶ、乳幼児期~小学生の「調和のとれた身体」の育て方

『シュタイナー教育』に学ぶ、乳幼児期~小学生の「調和のとれた身体」の育て方
「意志」や「感情」を育てるためには、器としての健全な身体が必要と考えるシュタイナー教育。乳幼児期~小学生の「調和のとれた身体」を育てるために必要なことを東京賢治シュタイナー学校教師の鴻巣理香さんに聞いた。

<目次>
1.内在している「意志」を実現するための身体づくり
2.多様な動きの経験の中で人との関係や感情を学ぶ
3.歴史あるオルタナティブ教育「シュタイナー教育」の考え方
4.「意志」を育てる身体の動かし方
5.身体を育てるシュタイナーの年齢別ワーク

 

この人に聞きました!

鴻巣理香さん

東京賢治シュタイナー学校教師。6年生担任および国語・芸術(絵画)の専科担当。「正直であるというところから人間は真の強さを生み出す」を信念とし、子どもたちが自分を素直に表現できるように関わることを心がけている。

【シュタイナー教育とは】
内在している「意志」を
実現するための身体づくり

子どもの感性や芸術性を育てる教育として語られることが多いシュタイナー教育だが、思考力や意志を育てるために「身体づくり」にも力を入れている。

「子どもは誰にも教えられなくても座るようになり、立ち始めますよね。この“立ちたい”という衝動こそが、子どもに内在している意志

“立ちたい”といった成長のタネは生まれた時から子どもに備わっているので、周りの大人がうまく発芽したり、伸びていくよう、環境を整えることが大切です」と語るのは、東京賢治シュタイナー学校で教員を務める鴻巣理香先生。

シュタイナー教育では、子どもに内在している「したい」という気持ち(=意志)を育てるためには、器である身体を大事に育てる必要があると考えられている。

身体を健やかに育てるには、0~7歳までが特に大切な時間。この時期には大人が何かの訓練を押しつけることは避け、遊びながら自然に出てくる柔らかな動きが発展していくよう、たくさんの動きを経験させることが大切だ。

「幼稚園や小学校に入るまでに、文字を覚えたり算数ができるようになっていなくてはと焦るパパ・ママもいますが、7歳までの子どもの身体は未完成な状態。

先走ってあれこれ詰め込もうとすると、頭で何かを覚えることにエネルギーを費やしすぎて、身体が育たなくなってしまいます。身体が十分育って初めて、学びにしっかり向かうことができるようになります」。

子どもの身体を育てるために大切なのは、「動くことは楽しい」という時間を一緒に過ごすこと。子どもは真似をするのが大好きなので、時には大人が率先してやって見せることも大切だ。

【シュタイナー教育とは】
多様な動きの経験の中で
人との関係や感情を学ぶ

初めて立ち上がった瞬間、視界が変わることで子どもの世界は大きく変わる。つまり身体が動きを習得するということは、ものの見方や世界との関係が変わることにもつながる

また、身体を動かし、身体感覚を発達させることは、周囲の人との「距離感」をはかったり、相手の考えや気持ちを感じ取る力にもつながる、とシュタイナー教育では考えられている。

「子どもは “意志”“感情”“思考”の順に内面が育っていきます。乳幼児期にたくさんの動きを体験しておくことは、その後“思考”を育むためにも必要な経験。いろんな動きを体験させてあげてください」。

歴史あるオルタナティブ教育
「シュタイナー教育」の考え方

シュタイナー教育では、人の成長は7年ごとに大きな変化を迎えると考えられている。誕生してから最初の7年間は、身体を育てるための大切な期間。ここでしっかりと育まれた身体が、子どもに内在する意志や感情、思考の器となる。

7年の区切りで考える「7年周期説」とは?

7年ごとの周期を繰り返しながら、身体や生命力、精神を育てる。また、どの期間の中にも、それぞれ意志・感情・思考の順に育つ時期があると考えられている。

0~7歳:身体を育てる
室内・野外でたくさん身体を動かし、いろんな体験をさせることが大切。身体を動かすことで、身体の成長が調和する。

7~14歳:心を育てる
いろいろな学びやお話から、さまざまなイメージをふくらませる時期。たくさんの感情を動かすことで内面が豊かになり、想像力が育まれる。

14~21歳:思考を育てる
思春期に入り、自分と世界を少し離して考えるようになる。イメージをつなぎながら思考し、思考を発展させ、自分の答えを見つけていく時期。

【シュタイナー教育とは】
シュタイナー教育の
「意志」を育てる身体の動かし方

毎日繰り返す動きの中で達成感や意志が育まれる

シュタイナー教育を実践する「東京賢治シュタイナー学校」では、「7年周期」の理論を元にしながら、年齢に合わせた身体づくりに取り組んでいる。

「特に幼児期は、身体の内側でいろんなタネが育ち始める時期。大人を模倣したい気持ちも強いので、子どもの“やりたい!”の気持ちを大切にしつつ、時には大人が率先して動く姿を見せることも大切です」。

小学校入学以降は、徐々に身体も成長してできることが増えていくので、同校ではその成長に合わせた課題を提案。課題を毎日繰り返し、「できた!」という達成感を得ることは、新しい動きに挑戦したいという子どもたちの意志を育てることにもつながっている。

【シュタイナー教育とは】
身体を育てる
シュタイナーの年齢別ワーク

【幼児期】
トレーニングはまだ不要
身体を自由に動かす

大人の「おお~きな鬼がやってきた!」といった物語を聞きながら、「おお~きな!」「どすーん(足音)!」といった言葉や動きを真似して、身体全体で表現する「ライゲン」。

「ライゲン」と呼ばれるお遊戯は、シュタイナー幼児教育の特徴の1つ。先生がお話を語りながら、それを身体で表現する。子どもたちもその動きを真似して、大きな動きや細やかな動きで登場人物になりきる。まだ身体ができ上がっていない幼児期は、単調な反復訓練や練習は控え、身体全体をのびのびと動かして自由に表現することを楽しむ。

【1~2年生】
「お手玉」の課題に挑戦して
バランス感覚を育てる

お手玉を頭に乗せたり、足の間をくぐらせたり、上から落として下でキャッチしたりしながら、上下・左右の感覚、速さの感覚などを身につける。

1~2年生になると、まだ動きはぎこちないものの左右の感覚がつかめるようになり、身体を動かす力が少しずつ身につく。「お手玉」の課題では、毎日お手玉に触れることで、バランスや上下・左右の感覚、速さの感覚を育てる。

手を叩いたり、歩いたりしながら数を数え続ける。時には1個ずつ数字を飛ばしたり、逆戻りで数えたりして、身体とリズムで数を覚える。

「数」の授業で手を叩き、歩きながら数を数え、身体で数を覚えるのも定番のワーク。

【3~4年生】
「まり」の課題を楽しみながら
力の加減方法を身につける

上に投げて後ろでキャッチしたり、まりをつきながら前・後ろへ移動する「まり」の課題。まりを大きくバウンドさせ、後ろの子がキャッチする動きでは、力加減を学ぶことができる。おそろいの帽子は手仕事の授業で自分で編んだもの。

3~4年生ぐらいになると、子どもたちの身体つきもしっかりして、力がぐっと強くなってくる。この時期の課題「まり」では、まりの動きをコントロールするために自らの力加減を学ぶことになり、自分の動きに自覚的になる。バランス感覚を養う竹馬も、この時期人気のワーク。

【5~6年生】
大人の身体に近づく年頃
バランス感覚をリセットする

呼吸を整えながら一輪車に乗ることで、心肺機能も成長させる。

バランス感覚を育てるために、一輪車に挑戦する5~6年生。これまで以上に身体が大きく成長し、子どもの身体から大人の身体へと近づく時期、特に6年生以降は、身体のバランスが取りにくくなるため、毎日一輪車の練習を重ねることで、呼吸の取り方や身体のバランスを整える。

骨がしっかりとしてくるので、手が自由に動かせるようになる。硬い物が握りやすくなるので、木工作業で強い力の使い方を学ぶ。

また、やり投げ、円盤投げ、短距離走などの古代オリンピック競技に挑戦する恒例行事も。身体をめいっぱい使う喜びを育てる。

【7年生】
自分自身の身体のサイズ感を
「ジャグリング」で取り戻す

お手玉、皿まわし、空中コマ、シガーボックスといったジャグリングの練習を重ねることで、バランスが取りにくくなっていた身体を整える。

身体がさらに重くなり、どこまでが自分の身体か自覚しにくくなる時期。身体が傾いたりポケットに手を入れるのはそのせいという面も。「ジャグリング」に挑戦することで、バランス感覚を整え、身体をもう一度自分のものとして自覚させる。

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文:藤城明子

FQ Kids VOL.16(2023年秋号)より転載

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