2020.02.25
2022.03.10
2024.02.05
「プレイフルラーニング」という言葉を聞いたことはあるだろうか。夢中で遊ぶことにこそ学びがあふれているというプレイフルラーニングとは、どんな考え方なのか。発達心理学が専門の十文字学園女子大学教育人文学部幼児教育学科教授の大宮明子先生に詳しく聞いた。
「『遊び』と聞くと、“一生懸命取り組んでいない”“手抜きをしている”といったイメージを持つ大人が多くいらっしゃいます。特に学校教育が始まると、子どもにとって遊びは学びの対極とされます。
そんな中で、それは違うということを表すために生まれた言葉がプレイフルラーニングです。子どもたちが夢中になって物事(遊び)に取り組むこと、われを忘れるくらい入り込んで夢中になる体験を通して成長していくことを指します。
子どもが好きなものについて自主的に調べるなど、ドキドキ・ワクワクした気持ちに満ちあふれた『遊び』は、集中力や考える力、想像力などの学びの基礎となる力を育てます。
遊びを通して『できた!』という成功体験を重ねることで、自信も育まれるのです。幼児期に夢中で遊ぶ経験をたくさんするほど、就学後にさらに学びの力を発揮できるようになります」。
世の中には、楽しく勉強をするために動画やゲーム性を取り入れたドリルや学習マンガなどがある。これらもプレイフルラーニングといえるのだろうか。
「プレイフルラーニングのポイントは、自分の気持ちがかきたてられてワクワクしてくるかどうか。ゲームやマンガを使った楽しい学習だからといって、プレイフルラーニングとはいえません。
子どもは目標や目的を持って遊ぶわけではなく、自分の興味に従って遊びます。子ども自身が好きになったり興味を持ったりしたことを追求する遊びを通して、結果的にさまざまなことを考えて身につけていくのです。プレイフルラーニングの実践には、親が遊びのとらえ方を変えていく必要があります」。
図1.就学前の遊びを通じて身につけた力
「あなたのお子さまは就学前の時期の遊びを通じて次の5つの力がどのくらい身についたと思いますか」という設問の各項目に対して、「きちんと身についた」と回答した人の割合。
「プレイフルラーニング〜幼児の『遊びと学び』プロジェクト」の2013年の調査によると、難関とされる大学や資格、職業等を突破したことのある人(難関突破経験者)が「就学前の遊びを通じて身につけた力」では、「集中力」が高いポイントを記録した。
「幼児期に夢中で遊ぶ経験によって、1つのことにじっくり取り組む集中力や継続する力が身につきます。この他、応用力や想像力といった学習の基礎がしっかり作られます」(大宮先生、以下同)
図2.熱中体験の有無
「あなたのお子さまは、就学前の時期に、時間を忘れて夢中になるコトやモノはありましたか」という設問に対して得られた回答。
難関の大学や資格、職業等を突破した経験者と未経験者に対し、就学前の熱中体験の有無を調査した結果によると、「たくさんあった」と答えた割合は、経験者が未経験者よりも約10%高い結果に。
「幼児期の遊びから、集中力や持続力、やり抜く力など、非認知能力が育まれます。これらは小学生や中学生、高校生、就職後にも影響があるといわれています」。
図1・図2 出典:プレイフルラーニング〜幼児の「遊びと学び」プロジェクト
調査対象:20歳代の社会人の子どもを持つ親1,040名(難関突破経験者の親316名、難関突破未経験者の親724名)。本調査における「難関」とは、難関大学突破、または弁護士資格や医師免許等の難関資格の取得、難関職業への就職、スポーツ・芸術・文化領域での入賞や実績を上げる等の活躍を指す。
プレイフルラーニング
実践編
手を出さずに見守ること
家族内で接し方の共有も
子どもが遊びに夢中になれるよう、大人はどう接するとよいのか。
「大人は子どもをつきっきりで見なければいけないと思いがちです。でも、そんなことはありません。関わりすぎると集中を妨げることになるため、適度な距離で遊びを見守ることが大切です。
プレイフルラーニングでの子どもとの関わり方は、パパ・ママはもちろん、接する機会の多い、例えば祖父母にも共有しておくと安心です。遊びを見守ってくれる人が増えると子どもにとって刺激が増え、『おじいちゃんがいるときはこんな遊び方をしよう』と子どもなりに工夫して遊べるようになります」。
集中しているときは邪魔しない
「子どもの興味のあるものに対する集中力の持続はすごいものです。そんなときに、横から手を出したり話しかけたりするのは、集中力をブツブツと切ってしまうもの。親の自己満足です。遊びに夢中になっているときは、手を出したり話しかけたりするのを少し控えましょう」。
道具がなくても子どもは遊べる
「大人が『遊び』について考えるとき、『道具がなければ遊べない』と思い、部屋におもちゃをたっぷり用意することもあります。でもこれは、大人がよかれと思って用意した環境に過ぎず、子どもが興味を持つとは限りません。
子どもにとっては、リモコンやティッシュ、蛇口から出る水など身近なものも立派な遊び道具になります。子どもには身の回りにあるもので工夫して遊ぶ力があるので、大人がどんどんおもちゃを買い与えなくても大丈夫です」。
遊びの選択権は子どもにある!
親は子どもの気持ちに寄り添って
「子どもの遊びを見ているとき、つい『こう遊ぶのよ』と遊び方を押し付けたり『もっとこうしたら?』と遮ったり誘導したりすることはないでしょうか。大人から見ると『これって遊びなの?』と思うことでも、子どもにとっては楽しい遊びです。
子ども自身が考えて試行錯誤できるよう、大人は適度に見守り、気持ちに寄り添う姿勢が大切です。何でどう遊ぶかを決めるのはあくまで子ども。この経験が、考える力や想像力を育むことにつながります」。
プレイフルラーニングの対象に正解はない
「子どもの興味のある対象はさまざまです。昆虫や恐竜、電車といった物に向かう子がいれば、お絵描きなどの内面に向かう子、ごっこ遊びが好きな子もいます。プレイフルラーニングの対象は子どもによって異なります。
正解はなく自由で、失敗もありません。特定の遊びがいいわけではなく、夢中になって取り組む経験が学びにつながります」。
声かけはグッと我慢し
褒めるときは的確に
何気なくしている子どもへの声かけ。よかれと思ってしていることも、実は間違っていることもある。
「子どもが遊びに夢中になっているときは、ひとつのことに集中しているとき。大人はつい声をかけがちですが、我慢をして見守ることが大切です。
また、『なぜこうしているの?』などと質問し、子どもに説明させていませんか? これは大人の自己満足で、避けたい声かけです。子どもは楽しくてワクワクするから遊んでいるだけで、目的や目標はありません。あえて黙って見守り、ここぞというときに的確に褒めましょう」。
質問攻めにしない
「よかれと思って『これは何?』『どうやって遊ぶの?』などと遊んでいる子どもに質問を重ねていないでしょうか。夢中になって遊んでいるときに声をかけるのは禁物です。
ただ、声をかけないといっても、子どもを放置するわけではありません。子どもの近くであえて黙っていること。『パパ、これね』などと子どもから話しかけられたら、聞いてあげてください」。
褒める言葉は積極的にそして的確に!
「集中しているときの声かけは気をつけたいものですが、褒める言葉はどんどんかけて構いません。子どもにとって親に認められることは、自己肯定感や自信につながります。
とはいえ、何でも『すごい、すごい』と褒めておけば自己肯定感が高まるわけではありません。大切なのは、的確に褒めること。『この前よりも上手になったね』などと遊び方の変化や成長ぶりを言葉にするのがポイントです。日頃から子どもを見ていると的確に褒めることができますよ」。
遊びに飽きていたら声をかけて
「遊びに夢中になっていても、飽きてしまうことはあります。また、興味のあるものがうまく見つからずにフラフラしてしまうこともあるでしょう。
そんなときは、見守るよりもそっと声をかけてみるのがおすすめです。遊び道具を持ってきて誘導するというよりも、『これ楽しいね』と軽く語りかけてみて。そこから『やってみようかな』と興味が生まれるかもしれません」。
強制する言葉やアドバイスはせず
話すなら体験談や感想を
「大人は『こう遊んでみたら』などとアドバイスや指示をしがちですが、遊びを型にはめることにつながります。子ども自身が考えて行動できるよう、指示や強制するような声かけはやめましょう。『ママもこの遊びが好き』『前に試したら面白かったよ』と自分の感想や体験を絡めて話すだけで十分です」。
想像力を働かせて遊べるおもちゃを
遊び道具としておもちゃを取り入れるとき、どのような基準で選ぶのが良いのだろうか。
「好ましいのは、できるだけ想像力を働かせて遊べるおもちゃです。遊び方が1種類しかないなど限定されているおもちゃは、何度か遊ぶうちに飽きてしまうことも。
自由に遊べるおもちゃや、遊び方を変化させることができるおもちゃがあると、子どもの想像力が育まれ、大人が思ってもいない遊び方をするなど遊びの幅が広がります。特別におもちゃを買う必要はなく、身近にあるものを取り入れて工夫しながら遊べるといいですね」。
身の回りにあるものも
子どもには立派なおもちゃ
「子どもが遊ぶおもちゃは、市販されているものだけではありません。空き容器やラップの芯などの身の回りにあるものも、立派な遊び道具になります。自由度が高いものほど、工夫しながらいろいろな遊びをすることができます。大人は安全面を確保して、遊びを見守って」。
用意するなら
遊び方が決まっていないもの
「おもちゃは、遊び方が決まっているものよりも、想像力を働かせる余地のあるものがプレイフルラーニングに向いています。
例えばブロックの場合、組み合わせて何かを作ったり、車に見立てて動かしてみたり、お店屋さんごっこのお金の代わりにしたり……さまざまな遊び方があります。自分なりに考えて工夫して遊べるおもちゃがおすすめです」。
「工作」なら作る過程も遊びも味わえる!
「おもちゃを手作りすることもおすすめです。作る過程に発見があり、できあがった後も自由に遊ぶことができます。例えば空いたペットボトルを使ってマラカスを作り、そのマラカスを振ってダンスをすることもできますね。工作は、作って終わりではない広がりのある遊びなのです」。
性別ではなく
その子の興味で選んであげて
「『男の子だから車』『女の子だからままごとセット』などと性別でおもちゃや遊びを限定してしまうと、その子の興味を伸ばしてあげることができなくなります。大切なのは、何に興味を持っているか。その子にとってやりがいのある遊びを見極めて、おもちゃを選ぶことが大切です。
また、子どもの興味や意欲を見ながら、少し難しい遊びにチャレンジすることもおすすめです。意欲や探究心も育まれます」。
知育玩具に依存しすぎない
「さまざまな知育玩具がありますが、『知育玩具で遊ばせれば頭が良くなる』わけではありません。他の遊びやおもちゃと同様に、夢中になって遊ぶことで自然と学ぶ力につながります。知育玩具に依存するのではなく、子ども自身の興味を探っていきましょう」。
教えて! 大宮先生
プレイフルラーニングQ&A
Q.動画はプレイフルラーニングですか?
動画をずっと見続けてしまうほど、夢中になって見ています。これってプレイフルラーニングと呼べるのでしょうか。
A.一方通行でやりとりができないとプレイフルラーニングにはなりにくい
動画などの映像は、ワクワク・ドキドキするものかもしれませんが、プレイフルラーニングにはなりにくいです。なぜなら、見るだけの一方通行の遊びであり、やり取りが生まれないからです。
子ども自身が映像に向かって働きかけることはできず、動画製作者の意図の中でしか遊ぶことができません。これはゲームも同様のことがいえます。
Q.何かを調べるときに動画を見ることが。注意点はある?
興味のあるものを調べようと、動画を見ることがあります。映像の場合、気をつけることはありますか?
A.子どもの発達を意識したものを
「子ども向け」とされるアプリや動画サービスはたくさんありますね。ただ、映像の内容やカメラワーク、構成などに関して、子どもの発達を研究して制作しているものは多くはありません。
例えば、5歳頃までは現在・過去・未来の区別がつきにくく、回想シーンのある映像は見せても理解できないことが多いです。また、子どもに見せたくない映像が流れる場合もあります。動画を選ぶときは気をつけましょう。
Q.違う遊びをしてほしいときも
やっぱり見守るべきですか?
水道の水を出して流れを観察したりティッシュペーパーを出すことを楽しんだりして遊んでいます。できればやめてほしいと感じているとき、どんな声かけをすればいいのでしょうか。
A.子どもの気持ちをまず受け止めて
そこから一緒に考える
本人は楽しそうに夢中で遊んでいても、親から見ればやめてほしいことはたくさんありますよね。親にも事情があり、子どもを優先できることばかりではありません。でもまずは子どもの気持ちを受け止めることが大切です。
まず、『ティッシュがどんどん出てきて魔法みたいだね』と受け止めて、『だけどさ、使えなくなっちゃうよ』と大人の考えを伝えます。一度大人が受け止めることで子どもが納得してやめてくれることもあります。
Q.夢中になっていれば何でもOK?
「これってプレイフルラーニング?」と疑問に思う遊びをしていることがあります。夢中になっていればすべてプレイフルラーニングなのでしょうか。
A.何でもいいわけではもちろんなし。なぜダメなのか、はっきり伝えて
夢中になっているからといって、何をしてもいいというわけではもちろんありません。周りに迷惑をかけることや危ないことに夢中になっているのであれば、『ワクワクしているから止めちゃダメなのかな』と考えず、やめさせて。子どもの気持ちは尊重しつつ、なぜしてはいけないかをきちんと伝えましょう。
Q.プレイフルラーニングは
スポーツや芸術の分野にも影響する?
幼児期に物事にワクワク・ドキドキした経験は、勉強以外にスポーツや芸術の場での活動にも影響があるのでしょうか。
A.集中力や継続力、
創造力などに結びつく
プレイフルラーニングは、学校の勉強や受験だけではなく、スポーツや芸術の分野にももちろん関わります。スポーツでも芸術の世界でも、突然、一流になるわけではありませんよね。コツコツと練習を続ける力や集中力、創造力、やり抜く力などを身につけることが活躍につながります。
幼い頃から何かに夢中で取り組むことで上達することもありますし、もしその分野で結果が出なかったとしても、そこで身についた力が他の分野で必ず生きてきます。
大宮明子先生
十文字学園女子大学教育人文学部幼児教育学科教授。博士(人文科学)。発達心理学、認知心理学、とくに子どもの思考の発達、乳幼児期の親子の関わりを専門研究分野とする。
文:鈴木ゆう子
FQ Kids VOL.14(2023年春号)より転載
編集部のオススメ記事
連載記事
#今話題のタグ