2022.07.12
2020.04.20
2022.01.08
小学校でプログラミング教育が必修化されるなど、日本の教育現場でも近年急速に浸透しつつあるSTEAM教育。Science(科学)、Technology(技術)、Engineering(工学)、Art/Arts(芸術/リベラルアーツ)、Mathematics(数学)の頭文字をとったSTEAM教育は、技術を習得するだけでなく、非認知能力を伸ばす効果があると言われている。
STEAM教育の第一人者である、株式会社STEAM代表取締役・中島さち子さんは、STEAM教育が求められるようになった社会的な背景についてこう話す。
「STEAM教育では創造力を育みますが、AIが台頭する世の中で重要になるのが創造力です。ビッグデータに基づいて判断するAIに対し、違う分野からアイデアを着想したり、哲学的なことを考えたりすることが人間の得意分野。それと、人の心の喜びに関するものもそうですね。人はそもそも何かを作り出すことが喜びなんです。万人に創造力が求められる時代になっているんです」。
そしてもう1つ、あらゆる物事の境界がなくなってきたことも大きいという。
「例えば、ビジネスでいえば、シェアリングエコノミーやサイバーリスクなどに端を発するように、同業や多分野での競合や境界がなくなり、新しい業種が生まれています。また、学術界でも、数学と生物など垣根を超えた共同研究が盛んになっています。ジャンルを超えてすべてが融合する時代になってきているなかで、STEAM教育の横断的な能力が求められるようになっていると思います」。
まさに未来を生きる力を養ううえで欠かせないSTEAM教育。とはいえ、まだ新しい教育概念ゆえ、その哲学や概要をしっかり理解する保護者はそう多くないだろう。STEAM教育の定義とは一体何なのだろうか。その核にあるのは、中島さんいわく「ワクワク」なのだという。
「STEAM教育とは、創造的、実践的、横断的で、そして、プレイフルな学び方。経済産業省『未来の教室』では、ワクワクを軸とした“創る”と“知る”の循環と表現しています。科学や数学そのものを学ぶというよりは、『科学者や数学者のように考えて、芸術家やエンジニアのように作る』という感覚が近く、海外でもよくそのように表現されていますね」。
中島さんは続けてこんな例を挙げてくれた。科学者になるには、正しい知識を学ぶだけでは足りない。かつて天動説が信じられていた時代があったように、長年、支持されてきた説がひっくり返ることもある。科学者に求められるのは、現実を疑ったり、仮説を立てて考えたり、「自分で問いを立てる力」なのだ、と。そこで重要な役割を果たすのが、STEAMにおける「Art」なのだという。
「一足先に日本でも普及が進んでいたSTEM教育に、“A”が加わったのがSTEAM教育ですが、Artイコール、絵を描く、彫刻をするということだけでもないんです。本来的にはArtにはもう少し広い意味があって、“新しい視点を生み出すのがArt”。実は科学者や数学者のように、問いを自分で立てて考えるという行為には、Artの要素が必ず入っているんですよね」。
中島さんが率いるsteAm,Inc.では、研究者や芸術家や各界のスペシャリスト、ユニークな教育者たちが集い、様々なSTEAM教育的ワークショップを開催している。例えば、デザイン、作曲、社会課題など異分野と数学をかけ合わせた「数学×◯◯シリーズ」、フィジカルコンピューティングを体験する「スライム楽器・果物楽器づくり」、AI思考や戦術にも落とし込める「スポーツ×STEAM」など、ジャンルレスで心躍るものばかりだ。
なかには、幼児や低学年でも体験できるものもあるというが、「日常の中にもSTEAM的な能力を伸ばす方法はある」と中島さんは言う。
「幼児でも遊べるロボットやタブレットなどのソフトも現在では充実していますし、ツールを使うことももちろん1つの方法ではあります。でも例えば、折り紙だって立派なエンジニアリングだし、あやとりだって面白い。必ずしもプログラミングをやらなきゃ、ということではないんです。
プログラミングだって、問いを見つけて、解決したいものがあって初めて生きてくるものですから。自由度の高い自然の中にも学びはいっぱいある。ワクワクを基軸に、知る・創るの螺旋で問いを深めていくことこそがSTEAMの学びなんです」。
中島さち子さん
steAm, Inc.代表取締役。主に音楽・数学・STEAM教育・メディアアートなどの世界で、国内外にて多彩に活動。国際数学オリンピック金メダリスト。大阪・関西万博テーマ事業プロデューサー。明治大学先端数理科学インスティテュート・東京理科大学研究員。経済産業省「未来の教室」実証/STEAMライブラリーに多数関わる。主な著書に『人生を変える「数学」そして「音楽」』『音楽から聴こえる数学』(講談社)、絵本『タイショウ星人のふしぎな絵』(絵:くすはらじゅんこ、文研出版)ほか。
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文:曽田夕紀子
FQ Kids VOL.07(2021年夏号)より転載
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