2024.05.31
2022.12.19
2023.05.09
人生には、寄せては返す波のように、困難が立ちはだかるもの。こうした困難にどう立ち向かうか、どう対応するか、という問いに絶対的な答えなどない。
そこで重視したいのが、小さな子どものうちから自分自身で何かを感じる、考える、想像する体験を積むこと。こうした観点から、「絵本」の存在は見逃せない。
絵本の読み聞かせは昔から行われているが、効能についての研究は始まったばかり。ただ、子どもの感性にダイレクトに訴える情報のわかりやすさ、膨らんでいくイメージは、経験を深く豊かなものにするはずだ。
絵本の読み聞かせ方や選び方などについても、最新の知見を交え、考えてみたい。
絵本を読むことは子どもの語彙力や想像力を豊かにするというイメージがあるが、実際はどうなのだろうか。
発達心理学・保育学が専門で、幼児教育に関して多面的に取り組んでいる野澤祥子先生に聞いた。
「絵本を読み聞かせることが語彙力に関係するという研究はありますが、想像力などの非認知能力については、計測が難しく明確なエビデンスがあるわけではありません。
ただ、アニメーションや動画では動きを表現するのに対して、絵本ではページをめくるとまったく別の場面に転換します。離散的である、いわば『デジタル』な側面が絵本にはあると指摘する人もいます。シーンがつながっていないのです。
読み手はその間にあるものを、自分で想像してつないでいく。絵本とは、そもそもそうやって、想像力で補って読んでいくものであるといえます」。
わかりやすさが重宝されがちな情報過多の時代だが、絵本を読むことで情報の背景に思いを巡らせる訓練は成長の助けとなるはずだ。
「年齢が上がるにつれ、ストーリーを理解し、構成できるようになるのは、想像力で情報を補えるようになったということでもあります」と指摘する先生。
逆に年齢の低いうちは、1ページから順を追って一言一句をきちんと読まなくても、単に絵に興味を示したり、ページをめくることに楽しさを感じたりするだけで十分だという。これらも貴重な絵本の役目であるからだ。
また、「〇歳になったから物語を理解しなければ」というものでもない。子どもの興味や関心は千差万別。まずは子どもが楽しいと思うところからきっかけを作り、親子の貴重なコミュニケーションツールとして、絵本の読み聞かせを取り入れたい。
手軽にできるのは、子どもと図書館や書店へ足を運ぶこと。多すぎて選べないなら、タイトルや表紙の絵、作家の名前など、ちょっとでもピンときたものから始めてみよう。
出典:家庭での幼児のデジタルメディア利用および読書に関する調査(CedeP×ポプラ社共同研究「子どもと絵本・本に関する研究」プロジェクト)
・調査対象:2015年4⽉~18年3⽉生まれの未就学児(年少~年⻑)の母親1596名
・調査時期:2021年7⽉中旬
・調査⽅法:Web調査(マクロミル社)
親から子への読み聞かせで非認知能力UP
絵本の読み聞かせQ&A
まずはやってみることが何よりも大事。有識者・野澤先生の体験も交え、知っておくべきポイントをQ&A形式でまとめた。
Q1.読み聞かせに自信がありません。
コツはありますか?
A.読み聞かせは国や文化によっていろいろな方法があります。例えば米国では、読み聞かせ中に親子の対話を挟む方法があります。あなただったらどうする? などと話し合いながら読むのです。これは考える力や言葉にする力を養います。
一方、日本ではじっくりと物語を聴かせる方法が一般的です。これは聴く力が養われたり、絵をゆったりと楽しむことができます。
どちらが良い、悪いというものではありません。読んでいる間は会話を挟まず、読み終わってから感想を話し合う方法もあります。子どもの年齢や個性、本の内容に合わせて自由に読み聞かせ方を選んでみてください。
・米国式は読み聞かせの途中に親子の対話を入れる。
・日本式はじっくりストーリーを聴かせる。
・読み聞かせ方は自由。
Q2.絵本の読み聞かせは
何歳までするべきでしょうか?
A.絵本に示されている対象年齢は、あくまで目安です。何歳になっても、どんな絵本でも自由に選び、読み聞かせて構いません。「これは赤ちゃん向けの絵本だから、年長さんが読んではいけない」などということはありません。
小学生になっても、誰かに読み聞かせてもらうのと、自分で読むのとでは意味が変わってきます。自分で読むのも大事ですが、子どもにとって、読み聞かせの時間は、親を独り占めできる貴重な時間でもあります。
私は今でも小学生の子に絵本や本の読み聞かせを日常的にします。子どもが望むのであれば、何歳になっても、何歳向けの本でも可能な限り読んであげてみてください。
・対象年齢はあくまで目安。
・子どもが望めば何歳でも読み聞かせを。
・子どもに読んでもらうのも楽しい。
Q3.同じ本、同じページを
何度も繰り返し読みたがるのは?
A.同じ本、同じ箇所を繰り返して読むのが好きという子どもは少なくありません。何度も読みたいということは、どこか新鮮な部分があるのです。同じ本から、読むたびに新たな学びを得ているのだと考えてはどうでしょうか。
子どもは大人が見逃してしまうような部分も絵本の中でたくさん見つけ、想像を膨らませています。だから、親の余裕次第ではありますが、子どもに望まれたら何度でも読んであげると良いでしょう。
いろいろな本をどんどん読む子もいれば、同じ本を何度も何度も読む子もいて、どちらも生きる上で大切な力であり個性ですから、ぜひ大切にしてあげてください。
・同じ本でも新たな発見があるもの。
・望まれれば可能な限り読み聞かせを。
・本の読み方も大切な個性の1つ。
Q4.スマホやタブレットで
読ませるのはアリ?
A.絵本のお話の理解度の点では、絵の本もデジタルも大きな差がないことを示す研究もあります。デジタルメディアであれば、たくさんのお話を持ち運べるというメリットもあります。ただし、音声や音楽、ポップアップなどの機能が多すぎると、子どもの情報処理能力を超えてしまい、お話を理解しにくくなる場合があるので注意が必要です。
一方で、紙には紙ならではの良さがあります。紙の絵本は、形や大きさ、紙の質感やデザインなど、細部まで緻密に計算して作られています。スマホの小さな画面では表現できない部分もたくさんあるでしょう。目的に応じて、うまく使い分けてみてください。
・紙もデジタルも理解度に大差なし。
・デジタルの過剰な機能は理解の妨げに。
・TPOに応じて使い分けよう。
Q5.子どもが本に興味を示しません。
絵本や読書を好きになるには?
A.まず、本についての体験が、子どもにとって楽しいものであることが何よりも大切なことです。嬉しい、楽しい、もっと知りたいという感覚を絵本の読み聞かせで体験させてあげられるようにしましょう。読み聞かせをするあまり、自分で読書をしなくなるということはありません。
家庭にさまざまな絵本がある環境も大切ですが、安価ではないものなので、図書館をうまく活用し、興味のある絵本に出会えるようにすると良いでしょう。とはいえ、子どもが本好きになるかは個性にもよりますので、無理強いは禁物です。また、親自身が楽しく読書をする姿を見せることも大切でしょう。
・本が楽しいと感じる体験が大切。
・図書館で多くの本に触れさせる。
・親が本を読む姿を見せる。
野澤祥子さん
東京大学附属発達保育実践政策学センター准教授。専攻は発達心理学、保育学。近著に「ICTを使って保育を豊かに」(共著、中央法規出版)がある。好きな絵本は『しろくまちゃんのほっとけーき』(こぐま社)。
文:木村悦子
FQKids VOL.13(2023年冬号)より転載
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