2024.03.15
2024.04.25
2022.02.21
環境問題やエネルギー問題など大変な課題が山積している世の中で、SDGsが一気に浸透してきました。だからと言って、まだ生まれて何年も経っていない子供に、人間がやっていること全てを否定するようなことを刷り込みたくはない。「人間が悪いことばっかりやってきたからいけないんだ」なんて言われたら、これから生きていく子供たちは未来に希望を持てませんよね。
大切なのは、どこから来てどこへ行くのか、「来し方行く末」を考えること。今まではつくって送り出したらおしまい、その先は見ていなかった。これからは、完全な循環はできないとしても、その上で、どう循環させていくとより良いのか、ということを考えていくことが不可欠ですよね。
モノが生まれて、そのモノは使われなくなったらゴミ箱に入れられて回収されて、再利用できるものは再利用されて、燃やせるゴミになるのか、やむを得ず大地に埋めるゴミになるのか……そんなモノを取り巻く環境や仕組みも、やはりデザインなんです。
ゴミを捨てるときに、「このゴミはどこに行くんだろう?」って、例えばそんな意識がほんのちょっとでもいいから子供たちに生まれたら、それは大変な進歩ですよ。世の中は、ほんのちょっとだけでも1人ひとりが変わることで、全体としてものすごく大きな力になる。
これもデザインなんだ、そういうことを考えることもデザインなんだ、という小さな気づきが、世の中全体を大きく変える。そんな気づきのきっかけをデザインの力で作れないだろうか、と常に考え続けています。
子供にとって「何これ!」「おもしろい、もっと知りたい!」という気づきが大切だと第1回でお話ししました。でも、学校生活になると「わからない、もういやだ」と思うことが増えてしまうのが現実だったりします。いかにも勉強という感じで先生が喋っていることを、子供はなかなか面白いとは思えないんですよね。つまらない、ということも1つの経験なので、ある日、「なんであの先生の授業はつまらないんだろう?」と思考が始まるかもしれませんが。
私は大人になった今、偉そうに語っていますが、子供のときは全然学校の勉強ができませんでした。美術と体育だけでしたよ、いい成績だったのは(笑)。授業中は面白くなくて、ノートの端っこに絵を書いてパラパラ漫画を作ったりして、本当に勉強をしなかった。
同じコンテンツであっても、面白く話せる先生と、ただ授業をこなしている先生とでは伝わり方が全然違うと思います。コミュニケーション力が先生方には求められています。ただ、先生方はやることが山程あって本当に大変そうなので、難しいところですよね。
もし、小学校から週に1コマでもデザインを学べる授業ができれば、他の授業での「何これ?」のきっかけをもっと増やすことができると思います。デザインは全てのことにつながっているので、縦割りになっている国語算数理科社会、全ての授業のハブになるからです。
例えば、算数をデザインの視点で見てみる。数字や記号、数式って、誰もがわかる本当によくできたデザインなんですよと、デザインを使って算数もできているんだよ、という話をすると面白い。なぜなら、何の話をしているかわからないから(笑)。+、-もデザインなんだなあって思いながら授業を受けると、今までの算数の受け方とは違う受け方ができるかもしれない。
また、デザインというのは気遣いや思いやりですから、道徳の授業の話もできる。ある日は環境について、みんなが食べている大量生産品のパッケージの話をしたり、政治や経済、医療をデザインの視点で考えてみたり。医療の中でデザインされていることって何だろう? という話をすることもできますね。
子供たちは、「なんだこの時間は?」って思うでしょうね(笑)。毎回何が起こるかわからない。そこに入れ替わり立ち代わり先生たちがやってきてそのテーマについて話してくれたりしても面白い。
子供たちの授業の受け方が面白くなるような、きっかけや入り口となるデザインの授業を、小学校のうちから取り入れられたらと真面目に考えています。とは言え、新しい仕組みを作るのはなかなか大変なことなので、まずは親子で、こんな風にデザイン的視点で勉強を捉えてみるといいかもしれません。
佐藤卓(さとう・たく)
グラフィックデザイナー。1955年東京生まれ。1981年東京藝術大学大学院修了後、株式会社電通を経て、1984年佐藤卓デザイン事務所(現:株式会社TSDO)設立。東京ミッドタウン内「21_21 DESIGN SIGHT」館長兼ディレクター。NHK Eテレ「にほんごであそぼ」のアートディレクター、「デザインあ」総合指導を担当。「ロッテ キシリトールガム」「明治おいしい牛乳」のパッケージデザイン、「PLEATS PLEASE ISSEY MIYAKE」のグラフィックデザイン、「金沢21世紀美術館」「国立科学博物館」のシンボルマークを手掛けるなど幅広く活動。
文:脇谷美佳子
編集部のオススメ記事
連載記事