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2022.03.14
2022.02.07
NHK Eテレの『デザインあ』(現在放送休止中)は、子供たちにデザイン的な視点と感性を育む、というコンセプトで2011年4月から始まりました。この「あ」は、実は何かに気がついたときの「あ」なんです。もちろん「あいうえお」の「あ」の意味も含まれています。
何か思いついたときや気がついたときに「あ」って言いますよね。その瞬間がものすごく大切で、「あれ?」っていう瞬間に、人はもう何かを感じているわけです。「なんだろう?」を入り口に探求していくと「ああなるほど!」につながる。
そんな、理解や発見につながる「あ」のきっかけはそこらじゅうに転がっている。だから、私は日常生活に面白くないものは何1つないと思っています。もしも親が世の中をつまらないと思いながら生活していれば、子供だってそう思っちゃいますよね。世の中は面白い! って言う親が目の前にいたら、自分も負けじと面白がりたくなるでしょう。
例えば、ある製品がリニューアルした、なんていう生活の中でのちょっとした出来事。「あれ、デザインが変わったぞ」と気づき、「なんでなんだろう?」と思うデザインマインドが育まれている人と、「そんなことどうでもいい」という人とでは、先々の生き方も変わってくるんじゃないか、とすら思います。
私自身は、子供のまま大人になっちゃったようなところがあるので、だからデザインの解剖※とかしちゃうんですけど(笑)。「なんでなんだろう?」ということを突き詰めていくと、これを明らかにしてみんなで共有しよう! なんて思ったりします。
子供は自我が芽生えて色んなものが見えてくると、「何これ!」って、危険なものでも口に入れて確かめようとしますよね。危なっかしくてヒヤヒヤさせられますが、成長していくとともに、だんだんと物事を概念化していく。コップはコップ、水は水、テーブルはテーブル……そんなこと知っているよ、と。そしてそれ以上探ろうとはしませんよね。
人は全てのものを概念化して受け流して社会生活を送っていく。それはロボットにはできないとても高度な能力なわけですが、知っていると思ったら、それ以上探ろうとはしない。社会性を身につけることと引き換えに、色々なものに興味を持つという好奇心はどんどん少なくなっていく。
でも、面白い世界の入り口というのは変わらず身の回りに山ほどある。そんな視点を子供たちにどれだけ持たせてあげられるかは、大人に懸かっているんです。身の回りにある面白い世界の入り口――それは自然物だってそうだし、人工物だって同じだと私は思います。
人工物を私は否定しません。とかく否定されがちですが、人工物を否定することは文明を否定することになってしまいます。人工的に作られたものをもし批判するなら、なぜそうなっているのかということをまず理解してから批判する、というのが私のスタンスです。
人工物って、実は中を探っていくと面白いんですよ。こんな工夫がされているんだ! 人間てすごいなあ! と驚かされます。植物や動物、自然環境は全て感謝すべきものだけど、やっぱり、人間ってすごいなと思えることも大切にしたいですね。
※「デザインの解剖展」
佐藤卓さんが2001年より取り組んでいるプロジェクト。当たり前に日常で触れているものが、どのようにできているのか、なぜそうなっているのかを、外側から中に向かってデザインの視点で解析し、誰でもわかるように解説していく。これまでに『ロッテ キシリトールガム』、『富士フイルム 写ルンです』、『タカラ(現:タカラトミー) リカちゃん』、『明治乳業(現:明治) 明治おいしい牛乳』などの製品が解剖され、それぞれ一般的に紹介されることのなかった部分が引き出された。
佐藤卓(さとう・たく)
グラフィックデザイナー。1955年東京生まれ。1981年東京藝術大学大学院修了後、株式会社電通を経て、1984年佐藤卓デザイン事務所(現:株式会社TSDO)設立。東京ミッドタウン内「21_21 DESIGN SIGHT」館長兼ディレクター。NHK Eテレ「にほんごであそぼ」のアートディレクター、「デザインあ」総合指導を担当。「ロッテ キシリトールガム」「明治おいしい牛乳」のパッケージデザイン、「PLEATS PLEASE ISSEY MIYAKE」のグラフィックデザイン、「金沢21世紀美術館」「国立科学博物館」のシンボルマークを手掛けるなど幅広く活動。
文:脇谷美佳子
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