2022.10.26
2022.09.26
2021.12.14
「親世代の成功事例が通用しないであろう未来に子供が変化に対応して活躍する人材になるには、親として何を大切にすればよいのか?」というお題であるが、その問いの立て方を問い直さなければいけない。
「活躍する人材」という言葉から想起するイメージは人によって様々だろう。
聖書でいうところの「地の塩」となり、目立たないけれど着実に世の中の役に立つことをイメージする人もいれば、GAFAのようなグローバル企業で高い報酬を受け取りいわゆる“勝ち組”になることをイメージする人もいるかもしれない。ゴールのイメージが人それぞれなのに「何を大切にすればよいのか?」という疑問に一概には答えられない。
また「人材」という言葉がいかがわしい。家や燃料などなんらかの目的に使用するために、もともとは生きていた樹木を、切り倒し枝葉を落とし皮を剥いだものを「木材」と呼ぶ。食用にするために、もともとは生きていた動物や植物を殺し切り刻んで調理しやすい状態にしたものを「食材」と呼ぶ。「人材」にも同じニュアンスがある。
「人材育成」と「教育」は似て非なるものだ。「人材育成」とは、「この組織を機能させるためにはここにこういう部品が必要だから、それに合致する部品を作ろう」という目的ありきの発想。「教育」とは、「子供の人格を尊重し、社会との関わりの中でその人格を高め、幸せに生きていけるようにしよう」という子供ありきの発想。
人材育成的な発想で子供を育てようとすると、子供の自己肯定感は下がる。目的ありきの発想で、人格が二の次にされているのだから当然だ。つまり「活躍する人材」を目的とするこの問いに答えること自体が子供をつぶす手助けをすることになるわけだから、私としてはこの問いに答えることができない。
次に「親世代の成功事例が通用しないであろう未来」の部分は二重の意味でナンセンスだ。
親世代の成功事例が子供の世代においても有効だった時代など存在しない。そうでなければ世の中は“発展”していない。それでも人間は何万年も世代を超えて生きてきた。つまり子供が「親世代成功事例が通用しないであろう未来」を生きることはいつの時代もデフォルトであり、それを心配すること自体がナンセンスなのだ。そもそも生き物の本質とは変化に対応することである。人間だって、変化に対応できる。大人がよほど余計な「人材育成」をしてしまわなければ。
さらには子供たちは、自分たちに合うように自分たちで新しい社会の秩序をつくっていくことができる。大人がよほど余計な「負の遺産」を残さなければ。
つまり新世代が自分たちで構築した社会秩序こそが、過去の世代から見れば「親世代成功事例が通用しないであろう未来」に見えるだけ。親世代がそんなことに気を揉むこと自体がナンセンスなのだ。
では「親として何を大切にすればよいのか」。すでに答えは自明であろう。「余計なことはしないこと」である。
かといって放置・放任すればいいということでもない。親にできるのは、子供をよく見ること。子供が何に心を動かされ、どっちの方向に成長しようとしているのかをよく見る。そして必要最小限のサポートをする。
ここでモンテッソーリ教育の発案者であるマリア・モンテッソーリの言葉を引く。彼女は、大人が子供に関わる時のコツを「ひとりでできるように手伝って」と「すべての不必要な援助は、発達の障害物になる」というたった2つの文章で表した。
何をするのかという「目的」は、子供自身が決める。それをしようとする時に、ひとりでできるようにするために支援を行う。それ以上の支援は子供の可能性をつぶす。
そこで1つ気を付けなければいけないことがある。子供がたくさんの選択肢の中から「目的」を選べるようにと、習い事のようなものをあれもこれもやらせようとする親がいる。曰く「どこに才能が眠っているかわからないから、できるだけ多くの可能性に触れさせたい」。
気持ちはわかる。しかしこのタイプの親は最も大事なことを見落としている。子供の自発性はぼーっとしている時間にしか発露しないということだ。ぼーっとして「ひまだなあ」と思うときに、無意識のうちに心身が何を求めるか。それがその子の「人生のコンパス」になる。
スポーツから芸術から色々なことを体験させるために子供のスケジュールを詰め込み、ぼーっとする時間を奪えば、「人生のコンパス」がないまま人生という航海に出発させることになりかねない。どんなに高い学力やスキルを身に付けたとしても、待っているのは彷徨い続ける人生だ。
結論として冒頭の問いに対する私からの答えは、「親としてなぜこのような問いに囚われてしまうのかを考えてみてほしい」である。課題は子供ではなく親の中にある。
おおたとしまさ
育児・教育ジャーナリスト。株式会社リクルートを脱サラ・独立後、男性の育児、夫婦のパートナーシップ、子供のしつけなどについて執筆や講演を行っている。『世界7大教育法に学ぶ才能あふれる子の育て方』『21世紀の「男の子」の親たちへ』『21世紀の「女の子」の親たちへ』など、著者は60冊以上。
FQ kids VOL.06より転載
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