2022.07.12
2024.02.21
2021.11.27
お子さんにいくつ習い事をさせていますか? これから何かさせなくちゃと考えているかもしれませんね。度を越すと、子供の特権であり脳味噌を育てるのにとっても大事な「ぼーっとする」時間がなくなってしまうので、ちょっと心配です。
いま大学1年と高校1年の息子たちが生まれた2000年代初頭も、すでに世の子供たちは習い事で大忙しでした。当時、私たちはテレビ業界の共働き夫婦。保育園と学童に頼りきりで、習い事をさせる時間はあまりありませんでした。そんな中でも続けた習い事がいくつかあります。
1つは前回書いた、週に1回の英語。もう1つは、体育の家庭教師です。月に何回か、週末に夫が息子たちをプールや運動場に連れて行き、先生と合流。先生は息子たちの希望を聞きながら、投げる、走る、泳ぐなどの基本的な体の動かし方や面白さを丁寧に教えてくれました。
きっかけは、息子たちの話でした。「小学校では水泳も跳び箱も1人ずつ丁寧に教えてくれないから、知りたいことを聞けないし、ちゃんとできているのか自分でもよくわからない。もっと詳しく教えてもらいたいなぁ」と言うので、確かにそうだよな! 私も全く同感だったよ! と思い、体育の個人指導を検索してみたのです。
これは本当に、やってよかったです。基本的な体の動かし方を理解したことで、息子たちは運動が好きになりました。
オーストラリアに引っ越してからは、長男はラクロス、次男はサッカーのクラブに入りました。本人がやりたいと言ったら始め、やめたいと言ったらやめるのがわが家の方針。一度始めたらどんなに苦しくても根性でやり抜くべきと言う人もいるけど、私はそうは思いません。むしろ、興味を持ったものをやってみて、本当に続けたいかをよく考え、時にはやめる決断をするのも大事なことだと思います。
次男は小学生の時、サッカーが得意でかなり熱心にやっていました。でも上のクラスのチームに移ったらさらに上手な子がいっぱいいることに気づき、ある日「僕、サッカー選手になるのはやめて、勉強する」と言い出しました。そこでスッパリやめて塾に通い始め、受験して中学からは越境通学しています。
その後も、吹奏楽をやりたいと言っては大きなラッパを吹いたり、やめてバレーボールにハマったりと、次男なりに好きなことを始めたりやめたりしています。大事なのは自分で決めること。続けるかどうか悩むのってとても頭を使うし、自分を知ることにもなります。がむしゃらに根性で続けるよりも、周囲に流されず冷静に考えて、やめると決める方が、むしろ勇気がいることかもしれません。
好きなことや向いていることなら、たとえやめろと言われたって続けるものです。根性と気合ではなく、「好きだからやらずにいられないこと」こそが、その人の力を伸ばし、どこか広い世界に連れていってくれるんじゃないかと思います。
西オーストラリア州の小学校では日本のような夏のプールの授業はなく、1年のうち1週間ぐらい集中して水泳の授業をやります。中高の体育は選択制で、年に1回水泳祭があるくらい。夏休みには、地域で「海の水泳教室」が行われます。
息子たちは渡豪した年から2年連続で参加。海藻にまみれたり波に巻かれたりしながら泳ぐ方法を教わりました。なんと、子供たちの後ろをトドが泳いでいたことも! 海が身近なので、これは安全教育として親が申し込みました。
さっき長男に「何の習い事が一番好きだった?」と聞いたら「英語」という答えでした。11歳で引っ越したにもかかわらず、彼が今や英語を母語とする子よりも英語の勉強が得意になったのは、本人の頑張りに加え、もともと好きだったからというのもあるかもしれません。オーストラリアに引っ越すときも、息子たちが「友達と別れるのは寂しいけど英語を話せるようになりたいし、外国で暮らしてみたい」と言ったので思い切って決断できました。
よく、「習い事で子供に早くから色々な体験をさせて、才能を見つけよう」という話を聞きますが、才能を見つける前に、好きなことを見つけることの方が大事じゃないでしょうか。子供が「生きているのは楽しいなぁ」と思えることが何よりです。自立とは、不完全な自分を受け入れて、今この瞬間に足をつけて生きること。それには自身の人生を面白がって生きる力が必要です。
いやいや、それでは未知の才能が埋もれてしまうかも……と心配ですか? もしもあなたの子供に何かしらの得意なことや夢中になれることがあるなら、多くの場合それは、どうやったって土の下から顔を出してしまうものです。あとは親がそれに気づくかどうか。あれやこれやと肥料を撒くことに夢中になるあまり、せっかく顔を出している「好き」の芽を埋もれさせてしまわないようにしたいですね。
小島慶子(こじま・けいこ)
エッセイスト、タレント。東京大学大学院情報学環客員研究員。昭和女子大学現代ビジネス研究所特別研究員、NPO法人キッズドアアドバイザー。1995年TBS入社。アナウンサーとして多くのテレビ、ラジオ番組に出演。2010年に独立。現在は、メディア出演・講演・執筆など幅広く活動。夫と息子たちが暮らすオーストラリアと日本とを行き来する生活を送る。著書『曼荼羅家族』(光文社)、他多数。
Twitter:@account_kkojima
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公式サイト:アップルクロス
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