2022.09.01
2020.10.14
2021.08.28
赤ちゃんの顔を眺めながら、親は色々な夢を描きます。一緒にサッカーをしたい! お揃いのおしゃれな服を着たい! みんなでサーフィンをしたい……。自分が好きなものをわが子にも教えたいと思うでしょう。「ようこそ、世界は面白いところだよ」と言ってあげたいですものね。
インテリアや持ち物だってそうです。私も初めての子供を産むときにはずいぶん張り切って準備をしました。家の中が所帯染みてしまうのが嫌だったので、なるべくシンプルなデザインのものを選び、お布団も北欧のテキスタイルに。
これで親も子も気持ちよく過ごせると思ったのですが、1年後には家中がアンパンマンとトーマスだらけになっていました。そう、子供はシンプルでおしゃれなオモチャではなく、カラフルなキャラクターグッズが大好きなのです。
いくら親がおしゃれだと思っても、子供にウケないのでは無用の長物。育児に忙殺される日々、子供が1秒でも長く夢中になっていてくれるものを必死になって集めました。そのうち、それらアニメキャラが心底可愛く見えるようになりました。
アンパンマンのマーチを無限ループで聴いてやなせたかしさんの歌詞の深さを知り、アニメも繰り返し見て、ロールパンナちゃんという好きなキャラクターもできました(正邪両面を持つ孤高のキャラです)。
子供を持つ前は、キャラクターだらけの親子連れを軽蔑していました。「なんてセンスがない親なのだろう。子供がかわいそう」なんて本気で思っていたのです。でも現実に目覚め、育児に必要なのは、機能性と子供の視点だと悟りました。わが子を自分好みの色に染めるのではなく、子供に全く新しい世界に連れて行ってもらうのですね。
長く独身で過ごしていた知人は、いつも隙のないファッションで、1人暮らしの部屋もインテリア雑誌のようでした。そんな彼が結婚して子供を持ち、満面の笑みで送ってきた2歳の娘の写真が見事に子供好みのキャラキャラパステルファッション。棚の上には、ウェットティッシュの箱がロゴのフィルムもそのままに置かれています。
あの伊達男がこんなガチャガチャした色彩の海の中で暮らすようになるとは! と感動しました。子供の力って本当にすごいですね。
幼児期を過ぎると、子供は子供社会の中で生きるようになります。自身の好みがはっきりしてきて、仲間内での流行もあります。親からしたら「なんでそれ?」というものを激しくねだったりして、親子喧嘩になることも。
思春期になると自分のことを話したがらなくなり、いよいよ親の好みとは離れていきます。ファッションに目覚めて縁日で妙なサングラスを買ってきたり、下手なメイクや似合わない服で出かけて行ったり。耳にイヤホンを入れっぱなしにして現実世界を拒絶することも。身に覚えがありますよね。それも順調な成長の証です。
もう大学生のわが家の長男くんは、以前からカニエ・ウェストの曲が好きです。私はテイラー・スウィフトが好きなので、カニエが過去にテイラーにしたことを説いたりしたのですが、長男くんはそんなのは承知の上です。「ママ、それと楽曲の良し悪しは別だ」という彼の言い分はもっともだと思い、長男が特にいいと言っていた初期のアルバムを聞いてみたら、割と好きな感じの曲を発見。長男に「何かとお騒がせのカニエだが、ちゃんと聴いたことなかった。食わず嫌いであった」と報告したら、笑っていました。
また、私はジブリ作品は大好きですが、日本の人気アニメを見ても「やたら怒鳴っててうるさいな」ぐらいしか感想がありません。息子たちはよく見ています。オーストラリアでも日本のアニメは大人気ですから!
ただ私としては、クールジャパンとはいうけれど、日本の漫画やアニメの中には海外では通用しない暴力表現や性的な表現、偏見や差別の助長になりかねない表現があることを息子たちに知って欲しいと思っています。だからそのことは繰り返し伝えています。
息子たちが大好きな有名な作品にも、そういう問題点があることをわかった上で見てほしい。彼らは私の話をよく理解していますが、もちろんアニメを見るのをやめたりはしません。
ある日、長男が好きなアニメについて「えーあんなの見るの」と言ったら「このシリーズに良くない点があるのはわかっているし、ママが好きじゃないのは知ってるけど、いい話もいっぱいあるんだよ。僕は好きな作品だからそれも尊重してよ」と言われて、確かになーと反省しました。
今は高校生の次男がまだ中学生で思春期真っ只中のとんがりくんだった頃、旅先のホテルの暖炉の前で2人になった時に、好きな漫画の話を堰を切ったようにしてくれたこともありました。とても嬉しかったし、好きなものについて語る人の姿は尊いなあと思いました。私は相変わらずカニエにもアニメにも息子たちと同じ熱量の興味はないですが、親子で全然違うものを好きになるのは面白いです。
好きなことや好きなものを大事にしていれば、何歳になっても人生を楽しめます。親はいつか先にいなくなるもの。息子たちが、これからもたくさんの好きなものと出会えますようにと願っています。
小島慶子(こじま・けいこ)
エッセイスト、タレント。東京大学大学院情報学環客員研究員。昭和女子大学現代ビジネス研究所特別研究員、NPO法人キッズドアアドバイザー。1995年TBS入社。アナウンサーとして多くのテレビ、ラジオ番組に出演。2010年に独立。現在は、メディア出演・講演・執筆など幅広く活動。夫と息子たちが暮らすオーストラリアと日本とを行き来する生活を送る。著書『曼荼羅家族』(光文社)、他多数。
Twitter:@account_kkojima
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公式サイト:アップルクロス
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