2022.07.22
2022.09.05
2020.09.26
FQ Kidsを読んでいるみなさんは、母親が専業主婦だった人も多いのではないかと思います。厚生労働省によると、1980年には専業主婦世帯が1100万世帯あまり、共働き世帯は600万世帯あまり。
それが1996年にはほぼ同数になり、2019年には共働き世帯が1245万世帯となる一方で、専業主婦世帯は600万世帯を割り込んでいます。この40年で完全に逆転したのですね。
つまり、いま共働きで育児をしているパパ・ママの多くは、専業主婦の母親を見て育っているのです。これはモデルなき育児をしている親が多いことを示唆しています。「共働き夫婦は、自身のお母さんを目指してはいけない」少子化ジャーナリストの白河桃子さんが対談でおっしゃった金言です。
今は家事も育児もちゃんとやろうという男性が増えてきました。それは素晴らしいこと。しかし、そんなパパたちの多くが幼い頃から見てきたのは、子供にかかりきりだったお母さんの姿です。だからつい自身や妻も、同じようにやらねばと思いがち。
でも共働きの子育ては、いかに上手に手抜きするかが大事。母親をお手本にしたらしんどいだけです。女性たちはすでに長年にわたって、自身の母親との価値観のギャップに悩んできました。これからは男性も同じ課題を抱えることになるのです。
よくある夫婦げんかに、夫の家事に対して妻が「工夫が足りない、要領が悪い」と苛立ち、夫がやる気をなくすというパターンがあります。
幼い頃の「お手伝いをしたらママが褒めてくれた」という記憶に縛られ、なんで妻は手放しで褒めてくれないんだ! と被害者意識を持ってしまう夫。妻の方も、家事を取り仕切っていた母親のように、自分が編み出した最も効率的なやり方を夫にも求めてしまいます。
家事に取り組む夫は「これはママのお手伝いではなく、自分の仕事だ」と思うことが大事だし、妻は「同僚に完璧を求めても職場の人間関係が悪くなるだけ。目的は相手の改造ではなくタスクの達成」と割り切って、要求のレベルを下げることが必要です。夫婦して、頭の中の母親から自立しないといけないのです。
子供たちが幼かった頃、私は仕事と家事の両立がうまくできない自分を母親失格だと責め続けて、家族にあたってしまいました。一方、夫はもともと家事をする人ですが、まさに世話焼き母さん体質なので、「俺がやった方が早いから」と、息子たちになかなか家事を教えようとしませんでした。
私は「下手でも、時間がかかってもいいから、とにかく子供たちにやらせてくれ」と言い続け、夫も今ではだいぶ抱え込み癖がなくなってきました。
幼い頃を思い出すと、家には母の手編みのレースや手入れの行き届いた観葉植物が飾られ、おかずは何品も並ぶのが当たり前。夏の夜に、クーラーのないキッチンで山積みの皿を洗う母の後ろ姿を覚えています。
それを見ながら知らず知らずのうちに、母親とは自分を犠牲にして家族のために家を整えるものだと思い込んでいました。
だから自分が親になったときに、必要以上に目標を高く掲げ、家事や育児の負担を軽減することに強い罪悪感を覚えたのです。夫も、母親やおばあちゃんがなんでも先回りして整えてくれる環境で育ち、だから自分が子育てをする時にも「いいからいいから、俺がやる方が早い」となってしまう。
ただ、彼の両親はたまに一緒に皿洗いなどをしていたようで、その影響からか、夫には「男は仕事、女は家事」という性別役割分業の意識がゼロなのは有り難かったです。子供には言葉で言って聞かせるよりもリアルな夫婦の姿を見せることが重要なのかもしれません。人は学習する生き物です。
共働きでどうにも時間が足りない現実を前に、夫と私は「子供がニコニコしていて元気ならそれでよし」というところまで一気にハードルを下げました。乾いた洗濯物はソファに山積み、夫が作る料理は小鉢がいくつも並んだりしない。でも、今日も誰も怪我をせず熱を出さなかった。有難いねえ、と。
家事も教育も「これでは足りないのでは」と焦る気持ちが湧いてきた時には、頭の中の世話焼き母さんにご退場願いましょう。あなたを見つめる子供の目がキラキラしているなら、大丈夫。答えはいつも、目の前にあります。
小島慶子(こじま・けいこ)
エッセイスト、タレント。東京大学大学院情報学環客員研究員。昭和女子大学現代ビジネス研究所特別研究員、NPO法人キッズドアアドバイザー。1995年TBS入社。アナウンサーとして多くのテレビ、ラジオ番組に出演。2010年に独立。現在は、メディア出演・講演・執筆など幅広く活動。夫と息子たちが暮らすオーストラリアと日本とを行き来する生活を送る。著書『曼荼羅家族』(光文社)、他多数。
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