2021.04.07
2021.08.11
2020.10.02
発起人の酒井田さんは「子供中心の運営だからといって、子供の言っていることに合わせて大人が意見や行動を変えたり、子供たちにすべての決定権を与えるわけではないです」と言う。「親として、あるいは大人として、子供の安全や成長にもっとも良いことを第一に考えて、“NO”と言うこともあります。大切なのは、子供の意見をしっかり聞くこと。そのうえで、親として大人として責任ある態度をとることです」。
ユニセフの子供の権利条約の中に「子供を一人の人間としてみる」とある。子供が“NO”と言えることもまた、子供の人権だと酒井田さんは考える。「自由ってなんなのでしょうね? ここでは、大人も子供も一緒に膝を突き合わせて自由について考えられたらいいなあと思います」。
酒井田さんは2人の娘さんを持つお母さんであり、本業はカウンセラーだ。「カウンセリングをしていると、悩みのきっかけが子供時代にある人が少なくありません。究極の予防、それが小学校の設立だと考えました」。
設立を後押ししたもう一つのきっかけが3.11の東日本大震災。震災4日後に長女を出産。産院では「添い寝をして自己責任で新生児を守ること」と指示され、紙おむつや飲料水は品薄になり、計画停電が続き、「我が子を守るにはどうしたらいいのか?」の答えが「生きる力を持った子に育てること」だった。
「意思表明できる環境をつくること。例えば、やりたくない、しんどい、と言える場づくりを心がけています」(能口さん)。意思表示した子供の気持ちを大人はそのまま「受容」するアクティブ・リスニングの姿勢だ。
「ここでは、毎日お昼ご飯を自分たちで作ります。翌週のメニューを考える担当シェフがいますが、出てきた食事に、これ嫌い、と言う子もいます。でも“嫌い”と言える環境が大切なんです」(能口さん)。
これ嫌い、と言った子に「そんなこと言ってはいけない」と叱れば、その子は「自分の気持ちを言ってはいけない」と学んでしまう。子供の気持ちを受容すれば、子供は自分が愛されていることを実感し、自力で問題解決の糸口を探し、日々成長していく。
酒井田さんの長女・のど香ちゃんが通った保育園は、「自己肯定感」と「合意形成能力」を伸ばす「生きる力」の土台をつくることが保育理念。「やりきる」経験をたくさんし、卒園する頃には「私は私がだーい好き!」と言ったことを酒井田さんは忘れない。
「合意形成能力」とは、分かれた意見を多数決で決めるのではなく、トコトン話し合い、みんなが合意する答えを探究して形成するやり方。大人の価値観を一方的に子供に押しつけず、正しいも悪いも、何をやるのかやらないのかも子供が決めること。それが自律的で主体的な学びができる子育て環境だといえるだろう。
子供が生き生き伸び伸びするための
親の4つの心得
心得1 余分なことはしない・・・ 「~してあげる」というのはNG
心得2 意思表明できる環境 ・・・「やりたくない」「しんどい」が言える場をつくる
心得3 反対意見も大事にする ・・・意見が分かれたら話し合って合意形成をする
心得4 失敗してもOK! ・・・アドリブ、即行、ライブ感を大事にする
NPO静岡あたらしい学校
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酒井田 愛香さん
本校の開校者。精神保健福祉士・公認心理師。1978年12月生まれ。静岡市葵区出身。医療法人社団リラ溝口病院精神科カウンセラー、医療法人社団明光会あおいクリニック心理士を経て、2016年独立型精神保健士・心理士事務所『メンタルサポートオフィスkakara』を開業し、企業内ソーシャルワーク、放課後託児事業、コミュニティスペース運営などを手掛ける。
文:脇谷美佳子
写真:渡邊眞朗
FQ Kids VOL.02(2020年春号)より転載
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