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モンテッソーリ教育とは、1900年代はじめにイタリア初の女性医師マリア・モンテッソーリが提唱して、今は世界中に広がっている教育法。日本では、特に幼児教育として多くの保育園や幼稚園で実践されている。
その特徴は、乳幼児期から発達段階に沿った環境を作ることで、子どもの「自分でできる」を増やしていくこと。これは、0歳の頃からおうちで実践するとより効果的だという。
モンテッソーリ教育の専門家に、おうちで行うモンテッソーリ教育のメリット・デメリット(注意点)や、実施のポイントについて聞いた。
一般社団法人 輝きベビーアカデミー代表理事
おうちモンテッソーリアカデミー学長
伊藤美佳さん
幼稚園・保育園に通算26年間勤務。自身の子どもがモンテッソーリ教育の幼稚園で素晴らしい成長を遂げたことに感銘を受け、モンテッソーリ教師の資格を取得。入園前の乳幼児期の教育法が非常に大きな影響を持つとわかり、0~6歳の子とその親を対象とした「輝きベビーメソッド」を開発。これまでに関わった親子は9000組以上。
赤ちゃんからの教育というと、知的な早期教育をイメージするパパ・ママも多いかもしれない。しかし、乳幼児期からのモンテッソーリ教育の目的は、決して『知育』ではないという。
「現代の家庭では、子どもの『身体の発達』がとてもしにくい環境になっています。おむつが取れない、ボタンがはめられない、しっかり座れない、固いものを噛めないなど、昔は入園時点でできて当たり前だったことが、できない子どもが増えているんです」と、伊藤美佳さんは語る。
その原因の1つは、現代の便利な環境。そして、核家族化によってパパ・ママに子育てが継承されていないことだ。
「未就園の2歳児親子クラスを始めたら、お母さんたちが子どもに手出しをしすぎていることに気づきました。手出しをしないでください、とお願いをして、子どもが自分でできる姿を見せたら、お母さんたちは驚いていたんです。
子どもには本来そういう力があるけれど、親の方がどうしたらいいかわからないということも多いと感じています」と伊藤さん。
子どもが自分で自分を発達させて、『自分でできるようになる』ことがモンテッソーリ教育の目的。そのためには、パパ・ママが自分で知識を得て、環境や子どもへの接し方を変える必要がある。
「3歳までに、脳の神経回路の80%が作られ、それが一生の土台になると言われています。その時期の環境づくりや、繰り返し行われる行動、声がけ・言葉かけは、子どもの脳や身体の発達にはもちろん、人格や心の発達にもとても大切です」。
具体的に、おうちモンテッソーリ教育とはどのようなことをするのだろうか。伊藤さんに5つのポイントを聞いた。
モンテッソーリ教育のヒントは、「子どもがやりたがっていること」にあるという。
「例えば、子どもが物を何でもゴミ箱に入れてしまうのは、『穴に物を入れる』という運動力を鍛えている、と考えます。
大人にとっては困ったイタズラに思うかもしれませんが、子どもにとっては、物をつまんで、穴に位置を合わせて、手を放して……という一つひとつの動作が、自分の成長発達に必要だからやっているんです」と伊藤さん。
とはいえ、子どもがやりたいことをやり放題では、家の中がしっちゃかめっちゃかになってしまう。そんなときは、専用のスペースと、それができるおもちゃを作ることを伊藤さんは提案する。
「部屋の一角にスペースを作り、穴の開いた箱を用意してビー玉を入れられるようにすれば、『穴に物を入れる』ことを満足するまでできます。
そのスペースでは子どもの『やりたい』が思う存分できる、というようにすれば、子どもも満たされるし、お母さんもイライラしなくて済みます」。
モンテッソーリ教育では「生活」のことも重視されている。食事、お片づけ、排泄なども、なるべく子どもが「自分でできるように」することが大切だという。
「そのために一番大切なのは、環境づくりです。例えば、おもちゃの棚におもちゃの写真を貼っておけば、どこに何を片づけたらいいかわかりやすくなります。洗面所には背丈に合わせた踏み台を置く、こぼした時は自分で拭けるよう子どもサイズの雑巾を用意するなど、子どもが自分でできる環境を整えましょう」。
日々の忙しい生活の中では、つい親が楽な方法でやってしまったり、代わりにやってしまいたくなる。しかし、子どもに合わせて「自分でできる」を増やすことが、子どもの発達につながり、長期的には親もより楽になっていくはずだ。
モンテッソーリ教育では、「五感」を育てることも大切にしている。
「赤ちゃんであれば、舐める、手で持つ、音で聞くなど、感覚を育てるいろいろな素材のものをいっぱい与えてあげましょう。例えば、食べてもいいようなスパゲッティをぐちょぐちょ触る、なんてことも面白いですよ」。
いろいろな素材のものを触ることで、形、温度、触感など、いろんな情報を得て、子どもの感覚が育っていく。
「視覚では、赤ちゃんの頃は、黒と白などコントラストの強いものをモビールにして眺められるようにするのもおすすめです。
もう少し大きくなったら、100色の折り紙でいろいろなものを作っていくのも素敵ですよ」。
「赤ちゃんはしゃべれないけど感情があり、自分の気持ちをわかってほしい、と思っています。子どもの表情を見て、今何を感じているのか、気持ちや感情をくみ取るという関わり方をして、子どもと意思疎通をしていくことが、モンテッソーリの考え方です」と伊藤さん。
子どもが今やりたいことは、発達のための探索行動でもある。大人はそれを汲み取ってサポートしてあげるのが、モンテッソーリ教育の基本だ。
「ただし、それは子どもの言いなりになるという意味ではありません。例えば、好きなことをしていいけど4時半には帰ろうね、といった約束をあらかじめしておいて、その通りに行動することで、ここまではOKだけどここまではダメ、という枠組みを伝えることも大切です」。
子どもが「自分でできる」という自信がつけられるような声がけも大切だ。
「『ママやって』『はいはい』というやり取りを繰り返していると、自分が挑戦しないという思考パターンで育ってしまいます。
例えば、『できないと思ってるのね。じゃあどこをお手伝いしないといけないか教えてくれる?』など、子どもが『できる』という前提の声がけをすることがポイントです」。
そのためには、子どもを「何もできない子ども」扱いせず、一人の人間として尊重するという捉え方も必要だと、伊藤さんは語る。「子どもが自分の力に自信を持つことが何よりも大切。それは一生の土台になっていきます」。
伊藤さんのお話をもとに、おうちモンテッソーリ教育のメリットや効果と、逆にデメリットや注意すべき点についてまとめた。
●子どもの身体・脳・感覚の発達を促す
乳幼児期に、手先をしっかり動かしたり五感を使う機会を日常的に増やすことで、身体・脳・感覚の発達を促す。
●子どもの自己肯定感が高まり、
自信がつく
子どもがやりたいことを見守ることで、子どもの自己肯定感が高まる。身の回りのことを「自分でできる」自信がつくことは、将来的にいろいろなことに挑戦する力にもつながる。
●親子関係がよくなる
子どもの気持ちを汲み取る関わり方が、親子のコミュニケーションを深め、信頼関係が築かれる。親も子どもの気持ちがわからずにイライラすることが少なくなる。
●家全体の環境を変える必要がある
子どものやりたいことができるスペースを作ったり、生活のことを自分でできる工夫をするなど、家の中の環境をすべて変えていく必要がある。
●周囲の理解を得ないとできない
子どものための環境作りや子どもへの声がけの仕方などについて、パートナーや家族の理解・協力も必要となる。
●モンテッソーリ教育の考え方を
しっかり理解する必要がある
この園に通わせればいい、この教材さえあればいいというものではなく、モンテッソーリ教育の考え方を自分でしっかり理解した上で、自分で実践していく必要がある。
おうちモンテッソーリ教育はメリットがたくさんあるものの、実際にやっていくのは大変なことも多い。
やってみたいけど、1人では難しいかも……。そんなパパ・ママのために、オンラインで実践的なおうちモンテッソーリ教育が学べる「おうちモンテッソーリアカデミー」がこの秋から開講した。
講座の大きな特徴は、「赤ちゃんからおうちで行うモンテッソーリ教育」に特化した実践的なカリキュラム。
モンテッソーリ教育を理解することはもちろん、実際におうちでやることを踏まえて、自分自身の身体や心との向き合い方や、家族の理解や協力を得る方法までを、1年かけてしっかりと教えてくれる。
講座の受講方法は、自宅でのビデオ講座+認定講師によるZoom講座。今後、6歳までのプログラムも順次展開予定なので、モンテッソーリ教育に興味があっても、幼稚園・保育園が近くにないという方にもおすすめだ。
「子どもは生まれた時から素晴らしい能力を持っています。それをつぶさずに、その子自身が持っているものをしっかり見つめて、生き生きと輝いていけるように、そして親もそれを楽しめるようにお手伝いをしたいと思っています」と伊藤さん。
おうちモンテッソーリ教育に興味を持ったら、ぜひチェックしてみよう。
文:FQ Kids編集部
編集協力:おうちモンテッソーリアカデミー
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