2021.12.03
2022.01.10
2024.06.19
千葉伸太郎さん
医学博士。太田総合病院記念研究所太田睡眠科学センター所長、日本睡眠学会副理事長。耳鼻咽喉科専門医として睡眠障害などの治療にあたるかたわら、睡眠の啓蒙活動や寝具の開発などにも尽力する。著書に「子どもの脳をつくる最高の睡眠 勉強、運動のできる子は、鼻呼吸をしている」(PHP)。
人生の約3分の1もの時間を費やす睡眠。睡眠の質を上げるとうたった飲料のヒットなど、人々の眠りに対する注目度は高まっている。
「寝る子は育つとはよくいったもので、子どもの成長にとって睡眠は何よりも大切です。睡眠には記憶の整理、身体や脳の休息などの役割があります。
睡眠の役割
● 記憶の整理・定着
● 脳の老廃物を捨てる
● 身体と脳の休息・回復
● 免疫力を上げる
● 成長ホルモンの分泌
さらに、子どもの場合、成長ホルモンの分泌により骨や筋肉など身体が成長するという重要な役割がプラスされます。そんな睡眠が足りないと風邪をひきやすくなったり、心や身体、学習の成長が遅れたりという弊害が出てしまいます。
睡眠が足りないと……
●風邪をひきやすくなる
●学力が低下する
●運動が苦手になる
●肥満になりやすい
●身体の成長が遅れる
●イライラや不安が大きくなる
などのリスクが高くなる
成長期の子どもに必要な睡眠時間は、3~5歳で約10~13時間、6~9歳で約9~11時間程度が推奨されていますが、個人差があります。睡眠が十分にとれているかどうかは、目覚ましに頼らずに自然に起きられて、寝起きも日中の機嫌もいいことを目安にして下さい」。
保護者の共働き、習い事、テレビやゲームなど現代の子どもを取り巻く生活環境は夜型化し、睡眠時間は昔に比べ減少していると言われている。
睡眠時間が減少している理由
【大人】
●核家族が増え、家事・育児・仕事など親世代の負担増
●通勤時間が長くなった
●夜中まで明るい街の増加
【子ども】
●親の生活リズムが夜型化
●塾、習い事などによる遅い帰宅時間 など
→時代の変化や社会的要因も大きい!
「日本人は大人も子どもも世界的に睡眠時間が短く、これはかなり危機的状況だととらえています。なぜなら親の生活リズムが根本的に改善しないと子どもの改善も難しいのに、睡眠を重要視している親が多くないからです。
睡眠不足による、それぞれの年齢に必要な脳と身体の発達への悪影響は、その後取り戻すことが非常に困難ですし、睡眠不足は寝ることでしか解消できません。
また、近年は子どもの睡眠障害の増加も問題になっています。睡眠不足くらい、ちょっとぐらい……と思わず、ぜひ家族一丸となって生活リズムを整え、上手に眠る力を身につけてください。
それは、将来自身の変化や状況に応じて自分でコンディションを整えていけるという強い武器になり、一生の宝物といえます」。
世界17ヶ国で0~3歳までの子どもを持つ親に調査した報告によれば、ニュージーランドの子どもは昼と夜を合わせた総睡眠時間が13時間以上でトップ。最下位の日本は1時間半も短い約11時間半という結果に。
また、日本の成人の睡眠不足も世界トップクラスであり、子どもの睡眠時間減少は親の生活スタンスに左右されていることも原因の1つと考えられる。
子どもの年齢別で推奨される睡眠時間と実際の睡眠時間の比較調査によると、3歳で約1時間、9歳で1時間23分不足していることがわかる。
年齢別睡眠時間と推奨睡眠時間との差分
※1 National Sleep Fonundation2015参照。図の中では平均値をベースに算出
※2 睡眠時間に関して適切な回答が得られていない方を除外して算出
出典:ブレインスリープ「睡眠偏差値kids調査結果発表2021」
このような慢性化した睡眠不足のことを睡眠負債と呼び、1日にして1時間程度でも、毎日続けば週に7時間、月に30時間……と、積み重ねがまさに負債となり返しきれなくなってしまう。結果として生活に影響が出たり、子どもでも睡眠障害が増えている原因にもなっている。
あなたは「睡眠」を理解しているだろうか。なんとなくの知識だけで、実はわが子に対して的外れな睡眠メソッドを実行していないだろうか? 年々睡眠の研究は進化しているので、親世代の知識もアップデートしておこう。
起きている時間に応じて脳内に蓄積する「睡眠圧(睡眠欲求)」と、夜になると自然と眠気をもたらす「体内時計」、主にこの2つの連動により動物は眠る。
昼行性の人間の体内時計は起床直後に目から入る太陽の光により朝を認識し、12時間ほど覚醒力が高まる活動モードに。そして朝の光を浴びてから14~16時間ほどでメラトニンというホルモンが分泌され、さらにその1~2時間後に眠気が生じる仕組みになっている。
眠らない時間が長くなるほど、脳、精神、運動機能は低下し、最終的には生命にも危険が及ぶ。
「ノンレム睡眠+レム睡眠の周期に合わせ睡眠時間は90分の倍数がいい」「大人は8時間睡眠」など、昔ながらの睡眠イメージがあるだろう。
しかし近年のさまざまな研究結果により、睡眠周期は70~100分程度の個人差があることや、大人の8時間睡眠に根拠がなかったことがわかっている。
人間は昼行性の動物で夜眠くなるのが自然だが、睡眠を改善しようといきなり子どもに早寝をさせても、眠れずおしゃべりしたり、遊び始めたり……長い夜を過ごす可能性も。その原因は、体内時計が乱れているから。
私たち人間が持っている1日のリズム(概日リズム)は、実は24時間ではなく24時間10分ほど。そのため普通に過ごしているだけでは毎日少しずつ生活時間帯が後ろにずれていき生活リズムも乱れてしまう。
ズレを直すためには、朝太陽の光を浴びること。そこで体内時計がリセットされて、夜の眠気を引き出してくれるのだ。
慢性化した睡眠不足の蓄積のことを「睡眠負債」という。例えば日頃規則正しい生活をしていて1日だけ寝るのが1時間遅くなったくらいだと、そこまで問題はない。問題はそれが毎日続くこと。
睡眠不足が長時間・長期間に渡ればそれに比例して負債も膨れ上がり、休日に寝だめして取り戻そうとしても「普段の睡眠時間+6時間(1h×平日分の睡眠負債)」という長い時間眠ることは現実的に難しい。
つまり、睡眠負債の返済はほぼ不可能なので、負債を作らない生活リズムに変えることが必要だ。
保育園や学校、毎日の宿題や習い事や早起きなど平日頑張っている子どもに「休日くらいゆっくり朝寝坊させてあげたい」と思うのが親心だ。
しかしその寝坊習慣が続くと時差1、2時間の海外に行ったのと同様の「社会的時差ぼけ(ソーシャルジェットラグ)」が生じ、体内時計はもっと狂うという逆効果になってしまう。
週末の朝もなるべく平日と同じ時間に起きることを心がけ、睡眠不足を補いたい場合でも朝寝坊は2 時間以内に収めよう。また、母親が休日に寝だめ習慣があると、子どもの睡眠にも影響するという研究結果もある。
テレビやスマホ、タブレットから発するブルーライトは人を覚醒させるので、夜寝る1時間ほど前にはオフにしよう。しかも大人より子どもの方が目の中に入る光の量が多く、さらに光の感受性も強いことからブルーライトの影響を数倍強く受けてしまうのだ。
「使用は○分まで」「寝室に持ち込まない」など夜間の使用時間や使用方法についてルールを決めたり、ペアレンタルコントロールの利用もおすすめだ。
子どもの睡眠のフシギ
Q&A
A.よく眠るために必要な体温調節なので
基本問題なし
子どもは大人より体温調節機能や汗腺の発達が未熟です。同じ姿勢だと布団と接する面に熱が溜まりやすいため、寝がえりを打ったり身体をダイナミックに動かしたりすることで体温をコントロールしているだけなので、寝相が悪くても問題はありません。
子どもが睡眠中に布団をはいでしまうのも、体温調節の一環です。お腹を冷やさないことは大切ですが、布団をかけることで暑くて寝苦しくなるような場合は、無理にかける必要はありません。
A.たまになら問題なし。頻度や状態によっては成長に影響したり病気につながる可能性も
本来、子どもはいびきをかかないものです。風邪をひいて鼻が詰まっている時などは仕方ありませんが、毎日のように激しいいびきがあり寝苦しそうにしている場合は、何か問題がある可能性があります。
子どものいびきの原因として、アデノイド肥大、あごが小さく気道が狭い、肥満、日常的な口呼吸の習慣などが考えられます。夜間に呼吸が止まったりする「睡眠時無呼吸症候群」という病気の可能性もあるので、気になったら受診を検討してください。
A.“上手に眠る力”がまだ未熟だから
子どもが夜間の睡眠において少しの物音で起きてしまうのは、物音に敏感であるという個人の性質や、上手に眠る力がまだ成長途上にあるためと考えられます。
10~12 歳頃までには大人と同じような睡眠周期に近づいていきますが、幼い頃から良い睡眠習慣を身につけないと急に眠れるようにはなりません。睡眠について正しく知り、現状を把握し、生活リズム改善の実行を繰り返すうちに、上手に眠る力はついてきます。
A.睡眠時間の不足は、睡眠の質だけで
リカバリーできない!
年齢ごとの推奨睡眠時間は、睡眠の質が正常なことを前提とした時間です。睡眠の質が悪い場合に質を良くすることは大切ですが、特に睡眠時に成長することが大切な子どもの場合、短い睡眠時間を質の高さでカバーすることはできません。
そして親が夜型の場合、子どもだけ早く寝かそうとしてもまず無理ですよね。生活の優先順位決めや生活リズムの改善で、親子ともに睡眠時間を確保しましょう。睡眠習慣は子どもの健全な一生に関わる問題なので、親の意識改革も重要です。
A.子ども自身が実感できる効果があり、
対象年齢内であればOK
眠りをサポートする食品やサプリはいろいろありますね。対象年齢内のもので、実際に効果を感じるようなら使っても良いと思いますが、これらの多くは機能性表示食品(※)であり、治療を目的とした医薬品ではないということは理解しておきましょう。
また、親に合うからといってそれが子どもに合うわけではないので、継続するかは子ども自身の睡眠の様子を観察して決めましょう。とはいえ、前述の通り子どもの睡眠には質だけではなく時間が絶対的に必要です。生活リズムを整えることをせず、食品やサプリだけで睡眠不足を補うことは難しいでしょう。
※事業者の責任で、科学的根拠を基に商品パッケージに機能性を表示するものとして、消費者庁に届け出られた食品。医薬品や特定保健用食品とは異なり、国の審査は行われない。
編集部PICK UP!
睡眠や生活リズムの改善に役立ちそうなアイテム、サービスを厳選して紹介!
¥商品によって異なる ©那須田淳・柿本幸造/講談社
子どもを寝室に連れていって電気を消すまでが一苦労! そんなときに試してみたい絵本プロジェクター。暗くした部屋の天井に絵本を投影して、読み聞かせが親子で楽しめる。光を直接見るより目への負担も少ないので、寝る前に動画を見てしまう子の習慣改善にもおすすめ。
問/セガトイズ
¥330(税込)/食 ※初回セットの場合
生活リズムの改善には、料理を時短しないと無理……そんな方におすすめなのが、宅配の冷凍幼児食mogumo。プロ監修で幼児期に必要な栄養素をカバーし、レンジで3分チンするだけでおいしい食事が完成 。忙しいパパ・ママの心強い味方だ。
問/オックス
¥商品・サイズによって異なる
寝る前に明るい部屋にいると、なかなかお休みモードになれないもの。このライトは、スケジュールを設定すれば、朝は爽やかな明かり、夕方は温かみのある明かり、就寝前は明るさを抑え落ち着いた明かりにと自動で変化。シーンに適したBGMを流すこともでき、生活リズム改善をサポート。
問/パナソニック
¥49,500(税込)
マットレス+枕+布団が1つになった寝具。体温が高くなりがちな子どもに、枕・マットレスの超通気性素材が睡眠中の熱や汗を放出して寝床内温度をコントロール。すべて洗うことができるので、寝汗やおねしょをしても対処が簡単。コンパクトなのでキャンプにもそのまま持っていける。
問/ブレインスリープ
文:松永敦子
イラスト:岡本倫幸
FQ Kids VOL.15(2023年夏号)より転載
編集部のオススメ記事
連載記事
#今話題のタグ