2020.10.16
2024.06.14
2024.05.10
2022年に「ChatGPT」が登場して以来、AIのニュースは常に世間を騒がせている。小さな子どもを育てる親世代にとって気になるのは、近い将来、現在存在している職業がAIやロボットによって代替されてしまうのではないか? という点にあるのではないだろうか。
「ChatGPTに代表される生成系AIの登場によって、“新しいものを作り出すのは人間しかできない”という認識が大きく変わりました」と語るのは、筑波大学でシステム情報工学を研究する三谷純先生。
「事務職、会計職に始まり、これまで“クリエイティブ”とされていた執筆業や作曲家、イラストレーターといった職業についても、AIによってある程度代替される可能性はあるでしょう」。
2015年に発表された野村総合研究所の研究では、「現在の職業の49%が、AIやロボットによって代替可能になる」と結論付けられている。
さらに、生成系AIがプログラムも作成できることから、近年小中学校で必修化されたプログラミングについても不要になるのではという新たな懸念が出てきた。子どもたちは、将来どんな知識・能力を必要とされるのだろうか?
「将来、プログラマーを職業とする人は限られてくるかもしれません。ただ、AIに的確な指示を出すにはプログラミングの基礎知識が必要ですし、AI自体もプログラムによって作られていますから、考え方を知っておくことは必要です」と三谷先生。
AIが活躍する世界で必要とされるのは、AIと「人」とを結び付ける人材。そうなるためには、常に変化する世界に合わせて、フレキシブルに対応できる柔軟性が求められる。
「理工系の感性を育むための教育は『STEM』と呼ばれていましたが、それだけでは不足だとArtsが加わり、『STEAM』へと変わりました。これから必要とされるのは、理系的な知識や考え方だけでなく、人文科学や倫理哲学も身につけた総合的な人材でしょう」。
ChatGPTとは、インターネット上で使える対話型AI。質問に対して文章で回答するだけでなく、企画の提案や翻訳にも対応する他、プログラミングのコードも生成が可能。
ChatGPTに聞いてみました!
Q.AI時代に必要とされる能力とは?
A.AI時代に必要な能力は多岐にわたりますが、以下のいくつかが重要です。
1. データ解析能力
2. コンピュータサイエンスの知識
3. クリティカルシンキング
4. 創造性
5. コミュニケーション能力
6. 継続的な学習と柔軟性
※ChatGPTの回答が長文だったため一部文章を省略しています。
生成系AIは文章だけでなく、イラストや音楽、映像にも対応しており、続々と新しいアプリが登場。そのクオリティは日々向上、気軽にイラストが作れる時代が到来している。
生成系AIで作ってみました!
▼「AI時代」「学校」「子ども」をテーマに作成
▼「子どもの非認知能力」をテーマに作成
未来の職業は予測不能?
消える職業・残る職業
将来わが子が活躍するためには、どんな知識や技術を身につけておくべきなのか、不安に感じている親も多い。先述の野村総合研究所による研究ではAIが仕事を自動化する可能性に触れ、現存の職業の大半は、複雑な業務であってもコンピュータ化することが可能だと指摘している。
この研究では、AIやロボットなどで代替可能な100種の職業も提示。リストは事務関係職や技術職など多岐にわたっており、今当たり前に存在する職業がなくなる可能性を示唆している。
「AIやロボットの登場が幅広い職業に影響するのは間違いないでしょう」と三谷先生。プログラマーや教育者、研究者といったいわゆる知能労働ですら生成系AIに取って代わられる可能性が生まれ、子どもたちの未来はますます予測不能となっている。
●経理事務員
●警備員
●受付係
●スーパー店員
●銀行窓口係
●通関士
●ホテル客室係
●測量士
この他、電車運転士、路線バス運転者、CADオペレーター、自動車組立工、人事係・貿易係、レジ係など。
2015年に発表された野村総合研究所と英オックスフォード大学のマイケル A.オズボーン准教授およびカール・ベネディクト・フレイ博士との共同研究より
他者とコミュニケーションできる能力が
必須に!
AI時代が到来しても、変わらずに存続する職業もある。野村総合研究所の研究は「抽象的な概念を整理・創出するための知識が要求される職業」「他者との協調や他者の理解、説得、ネゴシエーション、サービス志向性が求められる職業」は代替が難しい傾向にあると指摘。
具体的に、アートディレクターや学芸員、ケアマネージャー、ゲームクリエイター、作業療法士、中小企業診断士、保育士など100種の職業を挙げている。
AIやテクノロジーの発達で
生まれる職業は?
AIの登場によって代替される職業が出る反面、新たな職業の誕生も必要となってくるだろう。「これからは人間とAIとの間に入る仕事や、その境目に入る仕事が登場するのではないでしょうか」と三谷先生。
例えば、「AIはこんな仕事が可能だ」と紹介する仲介人のような仕事や教育者、AIを駆使することで発生する権利問題を調整する仕事などが考えられる。現在も必要とされる法律や経営、プログラミングといった専門知識にAIの知識をプラスすることで、新しい職業へと発展していくだろう。
業務内容が非定型の職業
<必要とされる能力>
●多種多様な状況に対応できる
●マニュアルではなく、自分で何が適切であるか判断できる
コミュニケーション・協調性・思いやりが必要な職業
<必要とされる能力>
●他者の理解・説得・交渉といった高度なコミュニケーションや、サービスとして好まれる対応ができる
●ソーシャルインテリジェンス(社会的知性)を備えている
創造的思考が必要な職業
<必要とされる能力>
●抽象的な概念を整理・創出することができる
●コンテクストを理解した上で、自らの目的意識に沿って方向性や解を提示することができる
2015年に発表された野村総合研究所と英オックスフォード大学のマイケル A.オズボーン准教授およびカール・ベネディクト・フレイ博士との共同研究より
総合的な人材を育てるSTEAM教育とは
AI時代の到来に備えて改めて注目したいのが、「STEAM教育」。かつては理工系の知識を育む教育として「STEM教育」が提唱されていたが、「Science(科学)」、「Technology(技術)」「Engineering(工学)」「Mathematics(数学)」の4科に「Arts(アート)」が加わり、総合的な人材を育てる教育として多くの国で取り入れられている。
この「Arts」は芸術だけでなく、「リベラルアーツ(教養)」の意味も含められている。ロボット技術が登場した20世紀には理工系の技術が求められたが、AIが登場した21世紀では、この「Arts」を含めた総合的な知識が求められているのだ。
AI時代に必要な非認知能力も
STEAM教育で育てる!
「AI時代に必要とされるのは、理工系の基礎知識に加え、答えのないジャンルにも対応する人文系の知識です」と三谷先生。さまざまな事象に興味を持ち、自由な発想で物事に取り組む非認知能力は、まさにこれからの時代に必要とされる能力。そして、いくつもの教科を横断しながら、総合的な教育を目指すSTEAM教育は、この非認知能力を育む教育としても注目されている。
理工的センスと発想力を育て、
AI時代に通用する人材に
5つの分野を重視する新しい教育の考え方。当初は理工教育として「STEM教育」が提唱されていたが、芸術や心理学、哲学といった知識として「Arts」が加わり、複数の教科を横断的に学ぶ「STEAM教育」として世界各国で取り入れられている。
理工的な知識に加え
アート感覚を備えた人に
生成系AIを代表とする新たな技術も登場して、社会のIT化はとどまるところを知らない。これからの社会ではAIとの共存はもちろん、さらに発展・進化する社会にも自在に対応できる人材が求められている。
STEAM教育の前身であるSTEM教育がアメリカでスタートしたのが2000年頃。IT化が進む当時の国際社会でも通用するような、革新的な人材を育てることを目的として始まった。
さらに「Arts」が加わることで、問題解決能力や自由な発想力も育むSTEAM教育に。未来の人材に必要とされる能力は、STEAM教育のような新しいスタイルの教育方法の下で育まれるのかもしれない。
「常に発展する技術に対し、興味を持ち続けることも大切な能力。これからはさらに、知的好奇心を育てる教育が必要となってくるでしょう」と三谷先生も語る。
アート感覚
芸術や歴史学・考古学、哲学・神学など抽象的な概念を理解するのは人間ならではの能力。優れたアート感覚を備えた人材は、AIでは代替できない作業を担うことができる。
創造力
これまで人が担ってきた事務処理・生産作業をAIが代替する未来では、人はクリエイティブな作業に注力することが可能に。今後はAIを凌ぐ創造力が必要とされるだろう。
問題解決能力
AIとダイバーシティによる変化で組織の人材の多様化が進むことが予想される。その分コミュニケーションコストが上昇するため、問題解決能力を備えた人材が求められる。
今後大きな社会の変化を迎えても、結局人は人とチームを組み、生活をおくるだろう。その中では今もこれからも不変のルールがある。
「幼稚園・保育園で教えられることが基本ですね」と三谷先生。「しっかり挨拶と返事をする」「身のまわりを整理する」「人の嫌がることはしない」といった基本ルールこそが、コミュニケーション能力が重視されるAI時代に重要となってくるのだ。
三谷 純さん
筑波大学大学院システム情報系教授。計算幾何学とグラフィックスを主に研究する他、コンピュータ技術を用いた立体的な折り紙の研究者としても知られる。
文:藤城明子
FQ Kids VOL.15(2023年夏号)より転載
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