2022.08.18
2021.11.10
2024.03.08
自然体験が子どもの育ちにとって大切、という話はよく知られているが、持続可能な幸福「ウェルビーイング」を意識する上でも、自然との関わりは重要なポイントになりそうだ。緑が多い地域に暮らす人は、うつになる割合が少ないなど、メンタル面への影響も示唆されている。
下のグラフでは、「農作業や森林で過ごすことは、ストレスを軽減させ、精神健康度の向上に寄与する可能性がある」と示唆されている。この実証実験を監修した医師、医学博士の木村理砂さんに、自然体験とウェルビーイングの関係について聞いた。
「自然とのつながりを感じる体験は心身の健康に作用し、人生をしなやかに生きるための力を養います。ひいてはウェルビーイングへとつながるのではないでしょうか」。
各感性指標値のアクティビティ体験前を100%とし、前後の変化率を参加者総平均で算出
ストレス度、集中度、好き度、興味度、ワクワク度を0-100の数値として測定し、リアルタイムに感性を数値化
森林環境における親子向けの保養プログラムが子ども(小学生)のメンタルヘルスに与える影響について調査
【調査内容】
・検証実施日:2020年10月17日~18日
・検証実施場所:長野県上水内郡信濃町
・調査対象者:小学生児童 男女6名
・アクティビティ1:森林散策(参加者 6名):両親と離れた環境で森林セラピーガイドによる森林散策ツアー
・アクティビティ2:キャンドル制作(参加者 5名):両親とアロマキャンドルを制作する体験
農作業体験時の感性値の変化
幼児の農作業体験中の感性値の変化を脳波計測による感性把握技術を用いて計測
【調査内容】
・検証実施日:2021年11月13日
・検証実施場所:千葉県山武市 農園
・調査対象者:日常的に農作業を行っていない都内保育園に通園中の幼児(年長) 5~6歳児 男女10名
・実施内容:農作業はさつまいも掘り、かぶ掘りを実施
複雑な現代社会を生きる上で、誰もが人との関わりで傷つくこともあるだろう。そんなときこそ、自然の中に身を置いてほしいと言う。
「自然とのつながりを感じることには、人という存在が自然の一部であることを再確認させ、心も癒やして思考を柔軟にするという側面もあります」。
人間も自然の一部であり、自然の流れに身を任せるしかないことも多々ある。そう感じる体験も、人生において大切な力になるという。
「都市部での生活は、何事も自分でコントロールできる感覚が勝りがちです。ですが、人生において大きな壁や転機は誰にでもやってきます。そんな時こそ大切になるのが、意のままにならない自然の中で過ごした体験。コントロールできないことに対してどう対処してきたかという経験が、自然の流れに身を任せつつ、困難を乗り越える力になるのです」。
「自然体験」と聞き、森を連想する人は少なくないだろう。森のヒーリング効果は絶大だ。木村さんは、森林環境が人の心身に与える効果について研究を続けている。森林浴から得られるメリットは何だろうか?
「森林では、都市部と比較して自律神経のバランスが整い、ストレスが緩和されリラックスする傾向があります」。
では、森林の何がそのような効果を持つのだろうか。
「科学的には明確になっていない部分もありますが、要因の1つと考えられているのはフィトンチッドです。植物が自らの身を守るために出す成分で、人にとって健康効果をもたらすといわれています。
それから、風が葉を揺らす音などは、1/f(エフぶんのいち)ゆらぎと呼ばれる性質があり、変則的かつ規則性もあるために心地よさを感じるとされています」。
森林のヒーリング効果を生んでいるのは、こうした目に見えないものかもしれない。
また、木村さんがもう1つの興味深い調査を示してくれた。「4泊5日の自然体験の後、参加者がネガティブ感情の軽減とポジティブ感情の向上、抑うつ不安尺度の改善と幸福度尺度の向上、睡眠の改善を示した」というものだ。さらに、これらの効果は、自然体験直後だけでなく、数ヶ月後も高い水準で持続する傾向もあったという。
とはいえ、都市部で子育てをしていると、気軽に森へ行ったり、何泊もの自然体験に行くのはなかなかハードルが高いかもしれない。ここで参考にしたいのが、ヴァージニア大学のティモシー・ビートリー教授が提唱する「ネイチャー・ピラミッド」の考え方だ。
図版は『NATURE FIX 自然が最高の脳をつくる』(NHK出版)を参考に作成
ネイチャー・ピラミッドは、自然との触れ合い方を4段階に分けた指標で、「日」単位では庭や公園といった身近な自然に、そして「年」単位では雄大な自然に触れることを推奨している。
つまり、ウェルビーイングな自然体験の出発点は、ほんの小さな自然体験を日常的に行うことからでOK。まずは周囲の環境を見回して、毎日触れられる身近な自然を見つけてみよう。
親子での自然体験
ヒント&アドバイス
自然との関わりから得られるものはプライスレス。都市部で暮らしている場合も、少しでも自然に触れることが効果的だ。自然の恵みに感謝しながら、親子で身近な自然を見つけてみよう。
毎日の生活の中で無理なくできることを探してみましょう。部屋に観葉植物を置く、子どもを迎えに行く時に深呼吸をするなどでもOK。空を見上げて、雲や月・星を眺めて一息つく、というだけでも効果的ですよ。
自然を体験している間は画面を見ないなどメリハリをつけましょう。スマホやデジタルとの関わりも、ウェルビーイングなものにしたいですね。
ネイチャー・ピラミッドにもある通り、ちょっと足を伸ばすのは週に1度でもOK。緑豊かな公園や河原へ行くといった目標を立ててみましょう。
大人が思う以上に、自然の中には子どもの興味を引くものがたくさんあります。アトラクションやプログラムがなくても、意外と退屈せずに過ごせますよ。
精神的なリラックス、ストレスの減少、自律神経(交感神経と副交感神経)のバランス調整、免疫機能の向上などが期待できそうです。
「自然体験」と聞いて、思い浮かぶのは流行りのキャンプやアウトドア。初心者世帯にはハードルが高すぎるかも? でもちょっと待って。「自然」はあなたの日常にあふれていますよ。
木村理砂さん
医師、医学博士、労働衛生コンサルタント、Momo統合医療研究所所長。内科、精神科、東洋医学研修を経て、外来診療に加え産業医も担当。企業における産業精神保健を専門とする。
文:木村悦子
FQ Kids VOL.15(2023年夏号)より転載
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