2021.02.24
2022.02.12
2023.03.19
共働き世帯の増加や子育て支援施策など、子育てをめぐる環境は、現在のパパ・ママ世代が子供の頃から大きく変化している。男性の育児参加が当たり前になりつつも、まだ地域や周囲に気軽に支援を求められない現実がある。ネットで情報が得られるようになった反面、社会のリモート化も進んでいる。
そんな中、母親たちが悩みを深めていることに父親たちは気づいているだろうか。彼女らの子育てや生き方に対する思いや価値観も変化しつつあるようだ。
株式会社ベネッセコーポレーションの社内シンクタンクであるベネッセ教育総合研究所は、2022年3月に、首都圏に住む生後6ヶ月~6歳(就学前)の乳幼児をもつ保護者4,030名を対象に、「第6回幼児の生活アンケート」を実施。乳幼児の生活の様子、保護者の子育てに関する意識と実態を調査した。
調査回答者の9割以上が母親であること、また経年比較の観点から、「1歳6ヶ月~6歳(就学前)の子供をもつ母親」を分析対象として結果を発表。この調査は1995年、2000年、2005年、2010年、2015年の実施に続き6回目となる。第1回と比べると、環境・意識の両面で変化が明らかになっている。
まず、母親の属性も変わってきている。例えば仕事をしている母親の割合。95年調査:21.4%→15年調査40.2%→22年調査:44.6%と大きく増えてきた。
保育園の就園率は95年調査:10.4%→15年調査:28.8%→22年調査:40.6%(うち、認定こども園6.4%)、母親の四年制大学卒業者は00年調査:15.1%→15年調査33.5%→22年調査43.9%といった変化も。
そして注目は、子育てへの感情が変わってきていることだ。調査からは子育てに対する肯定的な感情が減り、否定的な感情が増えていることが明らかになった。
肯定的な感情とは、「子育てによって自分も成長していると感じる」「自分の子供は結構うまく育っていると思う」などだ。こうした感情を持っているママは多数派であるものの、今回調査ではいずれも前回より5ポイント以上下がっている。
否定的な感情とは「子供のことでどうしたら良いかわからなくなる」「子供がわずらわしくてイライラしてしまう」など。こうした感情を持つママが今回の調査で約10~20ポイント増加し、いずれも過半数となっている。
こうした否定的な感情は、特に仕事を持っているママの中で増加幅が大きい。前回調査では専業主婦の中に否定的な感情を持つ層が多かったが、今回の調査ではワーキングママとの差はほとんどなくなっているのだ。
※「よくある+ときどきある」の%。2000年からたずねている項目だが、15年と22年のみを図示。15年のサンプル数は、常勤者639名、パートタイム556名、専業主婦1,701名。22年のサンプル数は、常勤者731名、パートタイム638名、専業主婦1,615名。「フリーランス」「産休、育休中や休職中」「その他」はサンプル数が少ないため示していない。
一方で、女性の人生観にも変化が見られた。「子供が3歳くらいまでは母親がいつも一緒にいた方がいい」という、いわゆる「3歳児神話」の考え方に共感する回答は、調査のたびに多数派から徐々に割合を減らしていたが、今回の調査で初めて半分を切った。
過半数が「母親がいつも一緒でなくても、愛情をもって育てればいい」と考えるようになったのだ。
また、子育てのために自分の人生を犠牲にするべきかどうかという質問では、今回調査では「子育ても大事だが、自分の生き方も大切にしたい」の回答が62.6%と過去最高となった。
「子供のためには、自分が我慢するのはしかたない」の回答は前回より約10ポイントも減っている。この傾向は専業主婦で強いことも明らかになった。
※2005年からたずねている項目だが、15年と22年のみを図示。15年のサンプル数は、常勤者639名、パートタイム556名、専業主婦1,701名。22年のサンプル数は、常勤者731名、パートタイム638名、専業主婦1,615名。「フリーランス」「産休、育休中や休職中」「その他」はサンプル数が少ないため示していない。
母親であっても自分の人生を生きていいのだという、当たり前のことがようやく社会で認められてきた。ママたちは、自分の生き方を大切にしたいと願いつつ立ちはだかる育児の現実に、否定的な感情を深めているのかもしれない。
そうした母親の状況にどのようなサポートがあるだろうか。「しつけや教育の情報を誰から得ていますか」に対して、「友人・知人」は2015年の72.0%から今回は36.0%と半減している。
※ 2015年からたずねている項目。複数回答。「その他」を含む15項目の中から10項目を図示。
ママの祖父母、きょうだいや親戚、「子育てサークルの仲間」や「園の先生」という回答も大きく減っていて、リアルな人間関係の中で情報を得る機会が減ってきていることがうかがえる。
さらに、家を空ける時、子供の面倒をみてくれる人・機関が「いる(ある)」と回答した比率も7年前に比べて約15ポイント減少している。
コロナ禍の影響もあり、特に「祖父母や母親のきょうだい、親戚」は減り、「保育園の一時預かりや幼稚園の預かり保育」の利用も減っている。伸びているのは「父親」という回答で、子育ての単位がますます核家族になっていることがわかる。
※2005年からたずねている項目。子供の面倒をみてくれる人・機関がいる(ある)と回答した人にのみたずねている。複数回答。「父親・母親の友人(パパ友、ママ友)」は、10年調査以降の項目。「その他」は図示していない。
子供が未就園の場合、子育てはパパ・ママだけのものとなり、より相談したり支援を受けたりしにくいことが想定される。子供が1歳6ヶ月~3歳11ヶ月の保育園児と未就園児のママの状況を比べてみよう。
「子供のことでどうしたら良いかわからなくなること」が「よくある」と回答したのは、保育園児のママ14.4%に対し、未就園児のママは19%。「子供が将来うまく育っていくかどうか心配になること」が「よくある」のも保育園児のママ26.9%に対し、未就園児のママは34.6%となった。
※「よくある」「ときどきある」の回答のみ図示。低年齢児とは、1歳6ヶ月~3歳11ヶ月の子供。サンプル数は、未就園児565名、保育園児807名。
「しつけや教育の情報源」は保育園児のママでは「園の先生」が54.2%と頼りにされているようだ。一方未就園児のママでは「あてはまるものがない」という回答が約3分の1を占めた。未就園児のママの孤独な子育て状況が浮き彫りになったかたちだ。
※複数回答。低年齢児とは、1歳6ヶ月~3歳11ヶ月の子供。サンプル数は、未就園児565名、保育園児807名。網かけは、1歳6ヶ月~3歳11ヶ月の未就園児と保育園児で5ポイント以上差のある項目で最大値。
2022年3月に実施された第6回目のアンケート結果にはコロナ禍の影響も大きく反映されていることだろう。感染による休園対応や、外出・面会がままならないといった状況が続き、子育てへの不安やネガティブ感情も増えてしまっていたのかもしれない。
しかし、価値観やライフスタイルの変化による影響もたしかに大きいと言える。一過性のことと片付けるのではなく、子育て家庭の孤立化を防ぐ取り組みが必要だ。
〈調査概要〉
「第6回 幼児の生活アンケート」
・調査方法:第1~5回 郵送法(自記式アンケートを郵送により配布・回収)、第6回 WEB調査
※子供の年齢(6ヶ月ごとの13区分)、性別(2区分)、都県(4区分)にわけて抽出。
※データの精度を高め、経年での比較を可能にするため、比推定を用い、調査対象の属性別 構成比を現実に合わせた。比推定で用いるウェイトは、子供の性別と年齢別に、4都県の人口推計に基づいて作成した。
・調査時期:第1回1995年2月/第2回2000年2月/第3回2005年3月/第4回2010年3月/第5回2015年2~3月/第6回2022年3月
・調査対象:
第1回 首都圏の1歳6ヶ月~6歳の就学前の幼児をもつ保護者1,692名
第2回 首都圏および地方都市(富山市、大分市)の1歳6ヶ月~6歳の就学前の幼児をもつ保護者3,270名(※経年での比較を行うために、地方都市の回答を分析から除外)
第3回 首都圏の0歳6ヶ月~6歳の就学前の乳幼児をもつ保護者2,980名
第4回 首都圏の0歳6ヶ月~6歳の就学前の乳幼児をもつ保護者3,522名
第5回 首都圏の0歳6ヶ月~6歳の就学前の乳幼児をもつ保護者4,034名
第6回 首都圏の0歳6ヶ月~6歳の就学前の乳幼児をもつ保護者4,030名
※首都圏は、東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県
※分析では、百分率(%)はすべてウェイトをつけ、小数点第2位以降の値も含めて数値を算出している。
※図表で使用している百分率(%)は、小数点第2 位を四捨五入して算出している。四捨五入の結果、数値の和が100.0 にならない場合がある。
・調査監修者:無藤隆(白梅学園大学名誉教授)、佐藤暁子(東京家政大学大学院客員教授)、荒牧美佐子(目白大学准教授)
文:平井達也
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