子供の手を叩くのは「しつけ」ではなく「体罰」。大人になっても悪影響を及ぼすトラウマとの関係

子供の手を叩くのは「しつけ」ではなく「体罰」。大人になっても悪影響を及ぼすトラウマとの関係
子供への虐待がない社会を作るにはどうすればよいのか。まずは「体罰」をやめることが重要だ。子供に対する体罰の影響について、精神科医の香山リカ先生に話を聞いた。

体罰は一時的な条件反射
将来的に深刻な影響も

皆さんは「子供をしつける」という時にどうしますか? 例えば、子供が台所のコンロで遊んでいたとしましょう。危険ですから注意します。その時、子供の手を叩いたりすると思いますが、これは手を叩かれることで「コンロで遊んではいけない」という条件反射をつけるのが目的と考えられます。

多くの親はこれを「しつけ」と捉えていますが、実は体への暴力的な接触は「体罰」なのです。これが行き過ぎると、親が自分の憂さ晴らしで子供を殴る。つまり、虐待につながります。

体罰は脳や身体に一時的な条件反射の回路ができるため、一時的に言うことを聞かせられるかもしれません。しかし、体罰が1人の人間の人権を侵害するデメリットがあるということを、肝に銘じておかなければなりません。

動物でもこうした身体的苦痛を伴うしつけは見られますが、人間には心があります。子供にとっては体罰による衝撃が強いため、親への恐怖や不信感などがとても増大します。それはいつしか、コンロで火遊びをしなくなっても親に叩かれたという事実だけが残り、「トラウマ」というかたちで子供の心が傷を負います。そして、それが大人になってからも心の傷として残ってしまうのです。

精神科医や小児科医の間で、大人になってからうつ病になる人の原因を調査した研究があります。

もちろん、会社でのストレスなどが引き金ではあります。しかし、実は子供の頃に体罰を受けたトラウマがある人の方が、大人になってから何事もないように暮らしていても、ちょっとしたストレスによりうつ病になる確率が高いという結果が示されています。

では、治療する方法はあるのか。知人の精神科医に尋ねたところ、「どうすればいいのか分からない」という答えでした。つまり、子供時代に受けたトラウマは、大人になってから取り返しのつかないことになってしまう可能性が高いのです。

さらに詳しい研究では、体罰によって、自らを理性でコントロールする脳の「前頭葉」という部分の機能が衰えてしまうことが分かっています。そうなると、社会で受けたストレスをケアできなくなり、現代のストレス社会を乗り越えられなくなってしまう。体罰で一時的に言うことを聞いたと思っても、将来にわたり子供の人生に深刻な影響を与えるのです。

大人になっての行為は
子供時代の記憶の再現

母親が1人で育児をする「ワンオペ育児」では、目の前でいたずらばかりする子供に対し、親も冷静に物事を考えられなくなるのも分からなくはありません。しかし、感情に任せて激しい体罰をすると子供の心や脳を傷つける。そう考えれば、少しは我慢するとか、一緒に遊ぶ方に誘導しようと意識を変えることもできます。

専門家がそういう警鐘を鳴らした本を読んだ両親の9割に効果があっても、1割には逆効果のケースもあります。自分の育児に自信を無くしてしまう。これも悪循環で歯がゆいところです。

実は、体罰を受けた子供の中には、たまに叩かれると「私に構ってくれている」と思い込んでしまう子もいます。体罰でもいいから親に関心を持ってもらいたい。弟が叩かれなかったのは親に何とも思われてないからだ、と歪んだ自己正当化をしてしまうのです。

そうした大人がまた、自己正当化のために子供に体罰をしてしまう恐れがあります。

昔から虐待の連鎖はありますが、親にやられた復讐というより、そういう方法しか記憶をたどれないのですから仕方ありません。大人になったときの行為は、自分の子供の記憶をたどって再現されてしまうのです。

まずは目の前の子供達を体罰から防ぐことが、社会全体で虐待を防ぐことにつながる、最も重要なことだといえるでしょう。

プロフィール

香山リカ RIKA KAYAMA


東京医科大卒。精神科医。豊富な臨床経験を活かして、現代人の心の問題を中心に、新聞や雑誌など様々なメディアで発言を続けている。著書に『ノンママという生き方 子のない女はダメですか?』(幻冬舎)、『50オトコはなぜ劣化したのか』(小学館)など。


文:大根田康介

FQ JAPAN VOL.54(2020年春号)より転載

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