「言語化する習慣」が子供の問題解決力を育む!? 親子のメディア・文化との関わり方

「言語化する習慣」が子供の問題解決力を育む!? 親子のメディア・文化との関わり方
コロナ禍によって子供たちの成長に大切な機会が喪失された昨今、親子での文化やメディアとの関わり方を見直す必要がある。家庭でのルール作りや言葉で伝えることの重要さとは? 平田オリザさんに伺った。

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格差がつきやすい身体的文化資本

コロナ禍によって、学芸会や運動会など、子供たちにとって大事な機会が失われました。今後収束していく中で、本来であれば教育予算を倍ぐらいにして、子供の機会回復に努めてあげたいところです。

フランス政府は、26歳以下の若者全員に文化活動に使えるクーポン4万円分を配りました。演劇を見てもライブに行ってもいいし、本を買っても漫画を買ってもいいと。

いかに文化活動が人間の精神活動と心身の健康のためになくてはならない重要なものであるか、フランスでは国民的なコンセンサスになっているんですね。

忙しさもあって、映画館に行かないことも増えてきましたが、もし親に文化的趣味がなく、美術館やコンサートなどに行かない家庭であれば、子供もずっと行かないでしょう。

ここで第3回目の連載でお話ししたピエール・ブルデューの身体的文化資本の部分の問題が浮上します。礼儀作法や言語遣い、センスや美的性向といった身体化される文化資本は、学力以上に家庭の負の連鎖が働きやすく、格差がつきやすい

格差がつきやすいのに、日本の公教育では自己責任にされて放っておかれ、一方で大学入試ではどんどん身体的文化資本が問われる内容になっています。おかしな話です。

ただ映画をたくさん観ればいいというわけではありません。親子で一緒に出かけて、映画を観て、レストランで食事をしながら映画についておしゃべりして……そういった複合的な記憶、その総体が子供たちにとっての文化になっていきます。回数は多くなくとも、そんな親子の特別な日を体験することが大切ですね。

エンパシーを育む
家庭でのルールと伝え方

コロナ禍で、家で動画を見て過ごす子供は本当に増えたと思います。メディアとの付き合い方も教育界には諸説あって、「一切見せない」あるいは「全部子供の判断に任せる」と色々あります。僕の立場は、「両極端はやめた方がいいだろう」という考えです。

メディアとはずっと付き合っていかなければなりませんので、禁止にしているとどうしても反動が出ます。「うまく付き合う」とか「家ごとのルールをちゃんと作る」ことが必要です。

わが家ではテレビを禁止している時間はあるのですが、どの家庭にも時間帯のズレがあります。食事中は見るとか見ないとか、食事の前は見るとか見ないとか、家ごとに違います。

お隣の家の4歳の女の子が毎朝うちに来るのは、きっとわが家が「朝もテレビOK」だからなんだと思うんです。「家ごとのルールをちゃんと作る」の裏をかいて、「子供がみんなで連帯して、各家庭を回る」というのはとても素晴らしい作戦だと思います。

そういう知恵も昔は地域社会で培われたものです。子供たちのそれぞれの家庭ではそれなりに厳しいルールがあって、うちは添加物NGだけどあそこのうちでは添加物使用のおやつがもらえる、など。子供たちにとってはそれがものすごく楽しいことであって、そういうところで情報交換が生まれていくんですね。

子供の特性や自己肯定感は、社会や他者との関係からだんだん育まれていきます。兄妹や近所付き合いが少なかったりする今の時代は、家庭でどうやって社会との関係を作っていくかが肝になるでしょう。

人間というのは社会的な生き物なので、自分だけで自分を大事にすることはできないのです。非認知スキルの中でも他人を活かそうとする行為は、年齢的にもかなり早い段階から出てくるものです。

ブレイディみかこさんの『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』で「エンパシー」(empathy:他人の感情や経験などを理解する能力)について書かれているように、「なんであの子はああいう行動を取ったんだろう?」「なんであの子はああいうことを言ったんだろう?」というのを大人がきちんと説明してあげることが非常に大事です。

例えば、子供はすぐにケンカになったりして、それはそれで必要なことではあるのですが、その時に「君はこうしたかったんだよね」と、「でも、あの子はああしたかった」「じゃあどうしようか?」というのをちゃんと早い段階から言葉で伝えてあげる。

でも実は、「じゃあどうしようか?」はどうでもいいんです。1番いいのはジャンケンだと僕は思っています。うちの子は解決できない問題はジャンケンする、というところまでは理解できたのですが、ジャンケンの負けを受け入れられず、あと出しジャンケンを覚えてしまって(笑)。後出しはダメだよ、って教えています。
 
肝心なのは、こんなふうに1つ1つ解決策を考えていくことです。世の中には解決できない問題がたくさんあります。その時はどうしようか? と考えていくクセをつける。人はどうしてもAかBか白黒つけたがりますし、幼児期は発達段階的にも時間感覚が難しくて、「今日はウルトラマンにして、明日はプリキュアを見ようね」とお互いにその時は納得しても、明日またケンカしちゃうんです。それでも「決めていく」ということが重要なのです。

言語化できるようになれば
争いは減らすことができる

子供同士で解決できるのであればもちろんやらせますけど、そこは大人が介入しても僕はいいと思っています。「じゃあどうする? 10分ずつにする? それともジャンケンで決める?」など。子供だけ解決するのは難しいですから。

そこで重要なのが「言語化する」ということです。例えば、兵庫県伊丹市の小学校では週に1度、「ことば科」(平成18年4月から令和2年度まで)という国語以外の言語活動の時間を設けていました。漫才や落語をしたり、プロの方にも来てもらって、様々な指導を受けます。僕も色んなお手伝いをしに行きました。

「ことば科」実施後、ケンカで荒れる中学校がその学区に1校もなくなったんです。もちろん先生方のご努力も大きいのですが、校長先生は「ことば科による影響が非常に大きいだろう」と。言葉より先に手が出てしまう子が非常に少なくなり、暴力ではなく言葉で気持ちを言えるようになったことが大きいと明言されていました。

言語化することによって、感情は一旦落ち着きます。小さい子を見ればわかるように、泣いていると話せませんよね。話そうと思ったら泣き止むしかない。だから、一旦落ち着きます。「話さないと解決しない」という習慣をつければ、子供は子供なりにどうにかしようとします。言語能力、言語によるコミュニケーション力を高めていくことは、本当に大事なことなんです。

PROFILE

平田オリザ
1962年東京生まれ。劇作家・演出家。芸術文化観光専門職大学学長。劇団「青年団」主宰。江原河畔劇場芸術総監督。こまばアゴラ劇場芸術総監督。1995年『東京ノート』での第39回岸田國士戯曲賞受賞をはじめ国内外で多数の賞を受賞。京都文教大学客員教授、(公財)舞台芸術財団演劇人会議理事、豊岡市文化政策担当参与など多彩に活動。

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文:脇谷美佳子

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