2024.01.24
2021.12.24
2022.03.10
「小1プロブレム」は、今に始まったことではない。はじめに話題になったのは平成元年頃で歴史のある問題だ。当時、何があったのだろうか? 乳幼児教育学、子育て支援が専門の玉川大学教育学部教授、大豆生田先生に聞いた。
「平成元年は幼稚園教育要領が子供を主体とした、遊びを中心にした内容に変わった年でした。それは、子供の本来持つ資質・能力を伸ばすために、主体的に意欲的に取り組む教育の重要性が見直されたからです。子供の主体的な学びを重視する教育は、幼児教育がずっと重視してきたものです。
しかし、それと同じ頃から小学1年生の教室が荒れる問題が出てきました。そのため、幼稚園や保育所が遊びばかりやっているからでは? と問題視されてしまった経緯があります。ですが、幼児期の遊びは重要と考えられ、最近では小学校1年生の受け入れとの段差が課題となり、幼児教育から小学校への接続を丁寧に見ていこうと見直しがなされています」。
そこで、昨年始まった小学校の新学習指導要領には、1年生を迎え入れる際に「スタートカリキュラム」を行うよう記載されている。
2020年4月よりスタートした新学習指導要領にある小学1年生の受け入れ時のカリキュラムのこと。小学1年生のスタートを、幼児期の延長から始めるという考え方。最初から45分間きちんと席につく授業ではなく、生活科や総合学習の時間などを組み合わせながら、子供の興味・関心を大切にする活動をするなど、柔軟にスタートするもの。
低学年では特に生活科を中核として合科的・関連的な指導の工夫と進め、指導の効果を一層高めるようにする必要がある。特に第1学年入学当初における生活科を中心とした合科的な指導については、新入生が、幼児教育から小学校教育へと円滑に移行することに資するものであり、幼児教育との連携の観点から工夫することが望まれる。
幼児教育は遊びによる活動を通して、ここにある10の姿を育てることを目標にしている。新学習指導要領にはこの10の姿を受けて小学校1年生をスタートするよう明記された。
体を動かす様々な活動に目標をもって挑戦したり、困難なことにつまずいても気持ちを切り替えて乗り越えようとしたりして、主体的に取り組む。
自分のことは自分で行い、自分でできないことは教職員や友達の助けを借りて、自分で行う。
相手にわかるように伝えたり、相手の気持ちを察して自分の思いの出し方を考えたり、我慢したり、気持ちを切り替えたりしながら、わかり合う。
他者の気持ちに共感したり、相手の立場から自分の行動を振り返ったりする経験を通して、相手の気持ちを大切に考えながら行動する。
小学生・中学生、地域の様々な人々に、自分からも親しみの気持ちを持って接する。
身近な物や用具などの特性や仕組みを生かしたり、いろいろな予想をしたりし、楽しみながら工夫して使う。
自然に出会い、感動する体験を通じて、自然の大きさや不思議さを感じ、畏敬(いけい)の念をもつ。
生活や遊びを通じて、自分たちに関係の深い数量、長短、広さや速さ、図形の特徴などに関心を持ち、必要感をもって数えたり、比べたり、組み合わせたりする。
遊びを通して文字の意味や役割を認識したり、記号としての文字を獲得する必要性を理解したりし、必要に応じて具体的な物と対応させて、文字を読んだり、書いたりする。
生活や遊びを通して感じたことや考えたことなどを音や動きなどで表現したり、自由にかいたり、つくったり、演じて遊んだりする。
幼児教育から小学校教育への移行に大きな課題があったことが原因。現在、その見直しが行われている。子供にしっかりとした学びへの意欲があれば、小学校入学に向けた家庭での無理な準備は必要ないと大豆生田先生はいう。
従来型の教育
入学してすぐから45分間、「きちんと席について前を向き、先生の話を聞きましょう」という授業のスタイル。すると、新しい環境に馴染めず、こぼれてしまう子供たちが存在した。
21世紀型教育
幼児期に大切にされてきた子供に即した教育に準じて、ゆるやかに学校へ移行。子供たちの興味・関心を引き出しながら教科への学習へと向かうと、多くの子が新しい環境へ馴染みやすい。
幼稚園や保育所では子供の主体的な活動がメインなのに、小学校入学が近づくと急に、席に座れるための指導をするなど、アンビバレントな状態が続いていた。
「今回の学習指導要領改訂の主旨は“主体的で対話的で深い学びの教育への転換”です。プログラミングや英語のスタートばかりが話題となりましたが、“スタートカリキュラム”も大きな柱です。その接続として、幼児期の終わりまでに育ってほしい10の姿が示され、それを受けて小学校1年生がスタートします」と大豆生田先生。
幼稚園も保育所も5歳児の活動の基本は遊びだ。その中で文字への興味や数量への関心が育ち、科学的な好奇心、人とのコミュニケーション力などが養われている。
「これからの21世紀型教育とは、すでに幼児教育や保育の世界が大切にしてきたもの。暗記的な知識はAIが担うことが増え、人は様々な課題に対して試行錯誤し、仲間と協力する力が大切になるでしょう。つまり、非認知的な能力です。環境問題や社会の分断も深刻な課題です。だから、社会課題を解決していける21世紀型スキルが求められているのです」。
大豆生田啓友さん
玉川大学教育学部教授。乳幼児教育学・子育て支援が専門。NHK Eテレ「すくすく子育て」をはじめテレビ出演や講演活動など幅広く活躍中。著書に『非認知能力を育てる あそびのレシピ』(講談社、共著)など。
文:江頭恵子
イラスト:寺崎 愛
編集部のオススメ記事
連載記事